白いリムジンと黒いリムジン
朝になるとソファで横になっていて目が覚めた。起き上がる前からいい匂いがリビング中に拡がる。キッチンに移動すると久遠が目玉焼きとベーコンを焼いていた。
「にいにおはよう、もうすぐ焼けるから座って待ってて」
「おはよう久遠、ありがとうな」
久遠にお礼を言って皿の準備だけ済ましておく、久遠が目玉焼きとベーコンを焼き終わると俺が準備しておいた皿に乗せて机に持ってきた。
「にいに食パンはどうする? いるなら焼くけど」
「いやこれで充分だよ」
久遠は皿を机に置いて椅子に座る。久遠が焼いてくれた目玉焼きとベーコンを食べると塩加減がばっちりで俺好みの味付けだった。
朝食も食べて学校の支度を終えて久遠と二人で玄関から外に出る。
「おはようございます城田さん」
何故か玄関前に白いリムジンが止まっていて櫻木姫華が白いリムジンのドア付近に立って頭を下げて朝の挨拶をしてきた。
「おはよう……ってなんで君がここに!?」
櫻木姫華に家の住所なんて教えていないので驚いてしまう。
「兄の櫻木奏多に聞きました、昨日は兄がご迷惑をかけたようで申し訳ございません」
櫻木姫華がもう一度頭を下げて謝ってくる。昨日あった男性と櫻木姫華は兄妹といえど全く性格が違う。
「その制服……あなた私と同じ花菜葛女子の生徒?」
「元生徒です。今は城田さんと同じ高校に通わさせていただいています、それに私は高校生です。あなたより年上ですよ」
「年上だから何、敬えとか言うの?」
「おい久遠……」
久遠が櫻木姫華に対して強気に言い返したので二人の間に入って取り持つ。
「あなたが城田さんの妹さんですね、出来ればあなたとは仲良くしたいのですが……」
「私にはどうでもいい、それとあなたの事は瑞希ちゃんから色々聞いたよ」
「へぇ……御嬢瑞希さんから」
櫻木姫華が細目で久遠を見る。
「でも御嬢瑞希さんが本当の事を話たんですかね……? もしかしたら嘘の可能性もありますよ」
櫻木姫華に言われ久遠は黙ってしまう、するとクラクションの音が聞こえてくる。横を見たら白いリムジンの後ろに黒いリムジンが止まる。そして黒いリムジンから御嬢瑞希がドアを開けて降りてきた。
「久遠様を迎えに来てみれば、何故あなたがここにいるんでしょうか櫻木姫華さん?」
「まぁ御嬢瑞希さん。私は城田さんと一緒に登校しようと迎えにきたんですよ」
「聞きましたよ。花菜葛女子から普通の一般高校に転入したとか、でもまさか彰人様と同じ高校とは」
「あら、まさか羨ましいのですか? あの御嬢財閥の娘である御嬢瑞希さんが」
櫻木姫華の言い回しは御嬢瑞希を挑発しているようだった。それに対して御嬢瑞希は櫻木姫華に近付いて耳打ちする。
「今この瞬間にもあなたが昨日人に頼んで仕掛けてもらった盗聴器や小型カメラの事を彰人様に話してもいいんですよ」
「一体何の事でしょうか?」
「そう……とぼけるのですね」
二人は何故笑顔で話しているのだろう、普通なら微笑ましいと言われる程の空気だと思うのだが異様な感じがしてたまらない。そしていつの間にかご近所のおばさん達が集まって話し合っていたのに気が付いた、視線はもちろん俺達に向けられている。
理由なら簡単だ、こんな家の前に黒いリムジンと白いリムジンが二台も並んでいれば当然の事だ。しかも黒いリムジンの方は隣人の玄関前に止めている為、隣人のスーツを着た男性が出れない様子だ。
「えっと二人とも話はその辺にして、止めてあるリムジンを」
「え? ああ!! 申し訳ありません今退かせます」
気付いた御嬢瑞希が運転手に指示をして黒いリムジンはそのまま走り出して行く。そして黒いリムジンは戻って来ない
「リムジンは本邸に帰らせました、よろしければ櫻木姫華さん。私と久遠さんを花菜葛女子まで送っていただけないでしょうか」
御嬢瑞希はニッコリ微笑んで櫻木姫華にお願いする。けど何故御嬢瑞希は黒いリムジンを本邸に帰らせたのだろう、少しバックさせればいいだけの事だろうに。
「ええ構いませんよ、どうぞ」
櫻木姫華は白いリムジンの扉を開ける。御嬢瑞希と久遠はそのまま乗り込む。
「城田さんもどうぞ、このまま歩いていけば学校には確実に遅刻してしまいます。彼女達を送った後に急げば私達もギリギリ学校に遅刻せずに済むでしょう」
櫻木姫華の言う通り、話している間に時間は進んでいき歩いていけば学校に遅刻する程だった。お言葉に甘えて俺も白いリムジンに乗り込む。櫻木姫華も乗り込んで白いリムジンが走り出すがすぐに問題が発生した。
 




