一ヶ月間久遠と二人っきり
翔也の家から我が家に帰ってきた。
だがいつもならリビングの明かりが点いているはずだが……家は真っ暗で中に入るとも一つも置いていない。
「母さん? いないのか」
リビングに入って明かりを点ける。キッチンのガスコンロのそばには鍋が置かれていて中を覗けば鍋の中にカレーが作り置きされていた。
「にいに……? おかえり、ふわぁーー」
大きな欠伸をしてリビングのソファから起き上がった久遠は制服ではなく部屋着の上にエプロンを着けていた。
「久遠、母さんは?」
「お母さんなら私が学校から帰ってきた時にお父さんが心配だからお父さんの所に行くって言って慌てて出ていったよ」
久遠から聞いてスマミフォンから母さんの番号にかける数回の着信音の後に母さんの声が聞こえてきた。
「彰人? どうしたのいきなり」
「いや母さんこそ、いきなり父さんの所に行くって何?久遠から聞いてびっくりしたんだけど」
「彰人には言ってなかったわね。お昼頃ママ友と話していたら急に父さんから忘れ物の電話があってね、やっぱり心配だから母さんも父さんと一緒に暮らす事にしたのよ。二人も朝言ってたでしょ二人でも暮らせるって」
「いや言ったけどさ……」
「一ヶ月後には父さんの出張も終わるから母さんも父さんと一緒に帰るわね。そうそう、それとお金は父さんが郵送で一ヶ月分の仕送りしてるから明日には届くはずよ」
「うん、分かったよ」
「それじゃあまた連絡するわね。おやすみ彰人」
母さんは通話を切る。母さんと話している間に久遠はカレーを温めていたようでリビングの机には温められたカレー二皿置かれていた。
「にいに、お母さんと話し終わった? カレーも温め直したから一緒に食べよ」
久遠と向かい合わせに座る。
「このカレー久遠が作ってくれたのか?」
「うん、持っていたお小遣いでスーパーに行って食材買ってきたんだ。お母さんが家事は私に任せるって言ったからね、だからにいには安心してね」
「いや俺もできる限りは手伝うから」
久遠に任せっきりも悪いので、二人が食べ終わった皿を全て洗っていた。
洗っている最中に久遠は風呂を沸かしてくれていた。風呂が沸いたので久遠に先に入るよう言って、俺はソファでスマミフォンを触ってくつろいでいた。
「にいにー」
久遠に呼ばれたのでソファから立ち上がり風呂場へと行く。
「どうした久遠?」
「戦隊物の入浴剤部屋から持ってくるの忘れたから取ってきてー」
「ちょっと待ってろすぐ取ってきてやるから」
階段を上がり久遠の部屋の扉を開けて部屋に入る。クローゼットを開け、目的の入浴剤の袋を持って久遠の部屋を出ようとした時窓を開けていたようで、壁に立てかけてあったコルクボードが裏返る。
見ればコルクボードの裏には写真が貼られていて、しかも貼られていた写真は俺と親しかった女子や女性だった。そして数枚の写真にはバツ印が書かれていた。
「久遠、入浴剤持ってきたからここに置いとくぞ」
「ありがとうにいに」
部屋のコルクボードの事は久遠には黙っていた。
以前も久遠の部屋のクローゼットの中にアルバムを見つけた時、俺と久遠と姉さんが写った写真を見つけたがその写真の姉さんの顔の所だけ黒く塗り潰されていたのだが久遠にその話は一切していない。
「にいにどうかしたの?」
「いやなんでもないんだ」
風呂場前で立ち尽くしていた所を風呂に入っていた久遠に名前を呼ばれているのに気が付いて返事をして、風呂場から離れてリビングに戻りソファに座る。
「なんか眠くなってきたな」
いつもならこんな時間には眠くなってこないはずだが、意識が朦朧としてきていた。
「にいに上がったよー」
久遠の声が聞こえてくる。
「にいに? ……本当に数十分で効果が表れるんだ」
久遠に頭を撫でられている気がする。
「にいに今日から一ヶ月の間私と二人っきりだね。お父さんもお母さんも私とにいにを邪魔する人間は存在しないから安心してね、にいに」




