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櫻木姫華の取引

 

「あら城田君だったかしら久しぶりね」


「お久しぶりですおばさん、翔也今家にいますか」


 翔也の家に着いて呼び鈴を鳴らすと翔也の母親が出てきたので翔也がいるか聞く。


「翔也? 翔也なら今学校じゃないの? あの子最近全然家に帰って来ないから心配はしてたんだけど。電話は毎日かけてきて心配しないでって言ってたから今どこにいるかは私も分からないのよ」


 翔也の母親はこの通り翔也の心配はしても探さず、ただ翔也が帰って来るのを待つのみの性格だ。翔也の父親は会った事はない翔也から今海外で単身赴任中と聞いた事がある。


「母さん誰か来たの? 君は確か翔也の友達だったよね」


 翔也の母親と話していたら二階から人が降りてきた。何度か見た事はあれど話したのは数回程だったが覚えてはいる翔也のお兄さんだ。


「はい城田彰人です。最近ずっと翔也が学校を休んでるんで心配で一度伺いました」


「そっか、けどまぁそんな心配しなくてもいいと思うけどあいつならまたすぐにひょっこり帰ってくる気がするし。母さんにも毎日連絡してきてるらしいから君もそんなに心配しなくてもいいよ」


 翔也の兄は翔也が帰って来なくても心配なんてしておらずいつか帰って来ると信じていた。俺も一日なら翔也が学校にいなくても心配なんてしない。だがこれが毎日になれば別だ。


「城田君、今日の所はもう帰ってくれるかしら。もう少ししたらお客様もいらっしゃるので、翔也が帰ってきたら城田君にすぐに連絡させるわ」


 翔也の母親に帰るように言われる。言う通りにして歩いて帰っている途中、見た事がある白いリムジンが通りかかった。白いリムジンは急停車してバックしてくる。


「城田さんではないですか。なぜここに?」


 窓が開いて先程校門で別れた櫻木姫華が声をかけてきた。最初は彼女がなんでここにいるか分からなかった。


「俺は今友達の事を聞いて帰る途中なんだ、君こそなんでここに?」


「私は学校に忘れ物があったので今から取りに行く途中でして」


 学校があるのは反対側なのでここからじゃ遠回りのはずだ。


「でもこの道じゃ遠回りだろう」


「そうでしたか運転手もまだ道を覚えきれてないみたいですね」


「この先を右に曲がったら学校までそれ程遠回りにはならないはずだよ」


「教えていただいて感謝します。それで城田さん友達とは会えたのですか?」


「いや、家にも帰ってきてない。なのに家族は心配はしても探してもないらしい」


「それは酷いですね、城田さんよければ私のお力を貸しましょうか? 朝にも言いましたが城田さんのお役に立ちたいのです。私の家なら人など簡単に探し出せます」


 櫻木姫華は櫻木グループのご令嬢だ。きっと言って言っている事は真実だろう。


「最初俺は一人でも探す気でいた、だけどやっぱり俺一人じゃできる事も限られる。だからお願いしてもいいかな?」


「はいお任せください、城田さんの友達である田澤翔也さんは必ず私が見つけます」


「ありがとう、これ俺のスマミフォンの番号だから。何か分かったらこの番号にかけてくれ」


 メモ帳の切れ端に番号を書いて白いリムジンの窓から櫻木姫華に手渡す。櫻木姫華はメモの切れ端に書いた番号を確認した時何故か嬉しそうな顔をしている。


「はい、分かり次第連絡致します。それでは城田さんまた」


 櫻木姫華は白いリムジンの窓を閉めて、白いリムジンは走り出して、俺が言った通り右に曲がると白いリムジンは見えなくなる。


「あれ……でも俺翔也の名前教えたっけ?」


 櫻木姫華に翔也の名前を教えても言ったつもりもない、だが櫻木姫華は翔也の名前を知っていた。


「俺がいつの間にか言ってたかもな」


 櫻木姫華が翔也の名前を知っていたのは気にせず帰り道を歩くのを再開する。


 城田彰人がいなくなる時間を見極め、白いリムジンは戻ってきて田澤家の表札前に止まる。


「お嬢様……」


 リムジンから降りようとしたら私が生まれる前から櫻木グループの運転手として仕えている白髪(はくはつ)のおじいちゃんが声をかけてきた。


「何か言いたい訳ね」


「失礼ながら、会長から今後お嬢様には数百人の男性との見合いがあると聞かされました。確かに私も先程の彼は好感は持てます。近道を教えてくれる若者は最近は減っていますし、学校に来ない友人を心配して家にまで押しかけてしまう若者も、ここ最近は滅多にいないでしょう」


「しかしお嬢様は櫻木グループのご令嬢。もし会長がお嬢様が財閥やグループの会長達のご子息などではなく、一般人の男性に魅了されたなどを知ってしまえば、きっと会長は激怒なされますよ」


「お父様は私など眼中にないわ。それに、フフ……特に今は御嬢財閥との婚約の話で頭が一杯でしょう」


「嬉しそうですね」


 くすくす笑っているのを見られて聞かれる。


「それはそうでしょう、御嬢財閥のあの子がずっと邪魔だった。私が城田さんに近づくのも阻止されてきたけど彼女は兄様との婚約も嫌でしょうね。けど彼女ですら両親には逆らえない、好きな人と付き合えない彼女はきっと絶望するでしょうね」


「お嬢様悪い顔になっています。それにさっきも言ったように」


「一つだけ言っておくわね。もし私の考えている事をお父様やお母様に喋ったらその顔を二度と拝めなくなってしまうのが残念になるわ」


 白髪のおじいちゃんは黙ってしまう、白いリムジンから降りて呼び鈴を鳴らして玄関の扉が開かれる。中から出てきたのは男性だ。


「えっと……あなたが母さんが言ってたお客様ですよね? 僕は田澤翔太です。よろしく」


 男性の言葉と握手を拒否して、家の中に入り彼の母親がリビングに立っている。


「ようこそお越しくださいました。それで翔也は迷惑などかけていないでしょうか」


「色々聞きたい事があるかもしれませんが、約束は守りました。彼の足は櫻木グループと合併している大病院で治しました。料金なども一切支払わなくてよろしいです。それで私の取引は覚えていますよね」


「はい、城田さんの奥さんと話に城田家に招きいれてもらいました。そして言われた通りに内緒で小型カメラ数台と盗聴器を仕掛けてきました」


「タブレットで確認したのでそれはいいです。もう一つの物は?」


「こちらです」


 リビングの机にアルバムが置かれる。ページを開いていけば城田さんの小さい頃の写真と城田さん以外の方が写っている写真を何十枚と見ていく。


「取引成立ですね。翔也さんの記憶を一部消したらすぐにお返しします。それでは」


 すぐにリビングから出ていき家の外で待たせていた白いリムジンに乗り込む。走り出して学校の鞄にいれていたタブレットを取り出し電源をつけて小型カメラの映像が届いた。


「まだ城田さんは帰ってきてないみたいね」


 今見ているのは城田さんの部屋の映像だ。他にもお風呂とリビング、そして城田さんの妹さんの部屋の映像が今持っているタブレット一つに映る。


「これを会長と奥様が知ればどうなってしまうやら」


 運転手の白髪のおじいちゃんが何か呟いているが、仕掛けてもらった盗聴器から聞こえてくる音と声をイヤホンで聞いていたので聞こえなかった。

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