櫻木姫華は部活動に勧誘される
結局昼は食べ損ね、曇り空から一転して大雨が学校の外で降り始めて昼休みが終わってからの体育の時間は体育館で男女混合バスケットボールになってしまった。
「城田さんは参加しないんですか」
まだうちの体操服ではない櫻木姫華が隣に座ってくる。
「さっきまで試合してたんだけど足挫いちゃって今保健室から戻ってきたばかりなんだよ」
「それで姿を見かけなかったんですね、私も今まで試合してたんですけど。ついさっきシュート決めたの見ましたか?」
「ああ見たよ、君の身長であんなダンクシュート決めるなんて滅多にみないからクラスの皆も驚いてたよ」
櫻木姫華の身長は俺よりも十数センチは小さいにも関わらずあのジャンプ力を間近で見てしまえばクラスの皆も驚くに決まっている。
「そんなに言われると恥ずかしいですね、昔バスケの元プロ女子選手を雇っていたので、その時に色々手解きしてもらったんですよね」
「櫻木さん、私達のバスケ部に入部する気ない? 先輩からいい子見つけたら誘うように言われてるんだよね」
櫻木姫華と話していたら、急に女子バスケ部に入部している女子生徒二人が話しかけてきた。
「すみませんが興味ありませんのでお断りさせていただきます」
「えー、そんなぁ!? 櫻木さんが入部してくれたら全国も夢じゃないと思うのに」
女子生徒二人は落ち込むがまたコートに戻って他のクラスの男子と混ざり試合に没頭する。
「櫻木さん、朝に話した件考えてくれたかな? 君は女子バスケ部なんかじゃなくてサッカー部のマネージャーが一番似合うと僕は思うんだよ」
今の話を聞いていたのか、サッカー部に入っているクラスの男子生徒が俺と櫻木姫華の間に割り込んで座る。
「あのそんな話どうでもいいので消えてくれませんか」
「え、何聞こえなかった、今なんて言ったの……?」
「だから……そんな話どうでもいいんで今すぐ私の視界から消えてください。あなたが間に座ったせいで城田さんの顔が見えないでしょう」
いきなり男子生徒は立ち上がり、そそくさと離れていく。
「今何か話してた? なんかあいつ様子がおかしかったけど」
「いえ、ただ朝に言ってたサッカー部のマネージャーの件を断っただけです」
「ああ……そういえば他にも野球部とかも誘ってたっけ運動部って結構しつこいから断るなら早めに断っていた方がいいよ」
「城田さんは何か部活動に入ってるんですか」
「俺はどこの部活動にも入ってないよ。これからも入るつもりもないし、けど演劇部の手伝いはしてるよ」
「演劇部ですか?」
「そう、まぁ王子道先輩に頼まれた時だけだけど」
「王子道先輩? その人もしかして男ですか?」
「いや女子だよ苗字からして男っぽいけど、それに演劇部の部長でもあるんだ。それで王子道先輩から人が足りない放課後の時に小道具作りとか練習の時証明係を頼まれて手伝ってる訳」
「それ私でもできますかね」
「別にできると思うよ、けど演劇部に入る生徒は王子道先輩が直々に見定めてるからなぁ」
「直々に見定めてる?」
「王子道先輩目的で入ってくる女子生徒が多くて、王子道先輩が認めた生徒じゃないと演劇部に入る事は許されてないらしいんだよね。まぁ俺は別に演劇部に所属してる訳じゃないからそんな見定められたとかはないんだけど。よかったらまた明日にでも紹介するけど」
「ちょっと考えてみます」
櫻木姫華は何故か演劇部の話をした瞬間乗り気の様子だ、もしかしたら演劇自体に興味があったのかもしれない。
「よーし今日の授業はここまで」
櫻木姫華と話していたら体育館にチャイムが聞こえてきて体育教師がホイッスルを鳴らして、男女混合バスケは終了する。足を挫いていた俺は歩くのが遅くクラスメイト達の最後尾から歩いて教室に戻る。
「城田さんよければ肩を貸しましょうか」
「平気だよ、それより女子更衣室は教室から離れてるんだから早く行って着替えた方がいいよ」
櫻木姫華は先に体育館を出たはずだが、俺の所に戻ってきて肩を貸すと言ってきたが断った。教室に戻ると急いで制服に着替える、クラスの女子生徒も更衣室で着替え終わって教室に戻ってくる。だが櫻木姫華と篠崎雪泉の二人が全然教室に戻ってくる気配がなく、チャイムが鳴り授業が始まっても二人は戻ってこなかった。
二人が戻ってきたのは授業が終わってホームルームが始まった頃だ。二人とも平然と席に座り担任の話を聞く。帰る前に一度櫻木姫華に声をかけようとしたのだが、櫻木姫華は早々にバッグを持ち教室から出ていってしまう篠崎雪泉も既に教室からいなくなっていた。
まぁ別に俺には関係ないみたいだし、俺も教室から出て校門へと行く。朝の時クラスメイト達が騒いでいた白いリムジンが閘門前に止まっていた。
「城田さん今から帰りですか」
白いリムジンの窓が開いて、櫻木姫華が声をかけてくる。
「ちょっと友達の家に寄り道してから帰るつもりだけど」
「友達の家? もしかして朝の授業で言ってた学校に来てない友達の所ですか?」
「ああそうだよ」
「案内してもらえたらこのリムジンで送っていきますが……」
「いや遠慮しとくよ」
「そうですか残念です。それでは城田さんまた明日お会いできる事を楽しみにしております」
櫻木姫華は微笑んで窓を閉めた。そしてすぐに白いリムジンは走り出し見えなくなると、俺は歩いて翔也の家へと向かう。




