マネージャーの仕事が終わる
それから何事もなく三日間が経って愛刀天花と約束していたマネージャーの仕事は終わりを迎えた。まだドラマ撮影は続くみたいだが、俺の仕事は本来のアイセブンのマネージャーに引き継がれる。
「いやー本当にありがとうね、急に風邪を引いちゃったからどうなるかと思ったけど、さすが愛刀さんが勧めた人だね、しっかりと皆の体調とかも記録してくれてるんだ」
「いやそれは俺じゃなくて亜梨沙姉ちゃんに手伝ってもらったんです」
「亜梨沙がね、彼女あまりメンバー間以外で人を手伝うなんて事あまりしないのに、余程信用してるのね」
「いやただの従姉弟同士ってだけですよ、それじゃあ俺はこれで」
「もう行っちゃうの? メンバーに別れの挨拶とかは?」
「昨日のうちに済ませておいたんで」
「そう、行く前にこれバイト代」
アイセブンのマネージャーの女性に茶封筒を手渡された中身は見ずに鞄に仕舞う。
「そういえば妹さんは……? あの子も色々手伝ってくれたらしいじゃない」
「久遠なら朝早くにホテルから出ていって家に帰ったらしいですよ」
ホテルの従業員に聞いたら久遠は朝早くからホテルから出て行ったと聞いて、家に電話したらついさっき帰ってきたと母さんから聞いた。
「そうなの? 一応妹さんにも少しお手伝いしてもらったから、新しくオープンするアミューズメント施設のプレオープンの招待状あなたから渡してくれないかしら」
「久遠はあまりゲームセンターとか好きじゃないんで行かないと思いますよ」
「まぁそれでもこの招待状さえあれば二人は参加できるから、妹さんが要らないって言うならあなたが使ってもいいわよ。それにここはゲームセンター以外にもカラオケにバッティングセンターに脱出ゲームなどのアミューズメント施設が複合してオープンするからお試しに行ってみるといいわよ」
「じゃあ……お言葉に甘えて貰っておきます」
招待状を受け取り、俺はホテルのロビーから外に出て駅に向かって歩く。また明日から学校が始まるので今日は早く家に帰って休みたかった。
「彰人さーん」
名前を呼ばれて振り返る、するとホテルの方から湊心愛が駆け足で向かってきた。
「もう何も言わずに行くなんて酷いですよ……!!」
ぷんぷんと膨れっ面を浮かべる湊心愛の表情が可愛いと感じる。
「どうして追いかけて来たんだ? 昨日のうちに挨拶は済ませただろ」
「彰人さんが何も言わずにホテルから出て行くのが見えたので。撮影まではまだ時間もあるので駅までお見送りしようかなと思いまして」
「そんなのいいって」
「いいえ、彰人さんがいいって言っても私は付いていきますよ」
湊心愛は隣に寄り添ってくる。どうやら俺が何を言っても付いて来る気なのだろう、それなら何も言わないでおこう。
「そうだ彰人さん、この前ホテルの部屋で言ったデートの件考えてくれましたか……? ほら前はドラマ撮影が終わるまで待つって言っちゃいましたけど、やっぱり気になっちゃって」
「ああ……そうだったね、まだちょっと待ってくれないかな、色々考えたくて」
「もしかして彰人さん他に好きな人がいるとか?」
「いや違うんだけど……」
「それじゃあ私ってそんなに魅力がないですかね……」
「それは絶対ないよ、ただ前も言ったけど君といる所をファンの人達に見られた大変だろ」
「彰人さんって余程心配症なんですね、私は別に彰人さんとデートしてる所を見られても平気ですよ」
今こうして隣を歩いている間も通りかかったスーツの男性がこちらに振り返っているのを見る。すると着信音が聞こえてきた、俺のスマミフォンじゃないから湊心愛のだろう
「出なくていいのか」
湊心愛はスマミフォンを確認するが出る気がないらしい。
「はい、知らない番号なので」
そう言ってスマミフォンを持っていたポーチの中に再び仕舞うが着信音は一向に鳴り止まない。
「本当に知らない番号なのか? 別に俺は急いでる訳でもないし出てもいいけど」
「大丈夫ですよ本当に」
湊心愛は遂にスマミフォンの電源を切ってポーチに仕舞う、そしていつの間にか駅が近付いていた。
「それじゃあここで」
駅の改札口まで来ると湊心愛とはここでお別れなので挨拶をして改札を通ろうとする。
「彰人さん行く前にこれ、今度握手会が行われるんです。もし良かったら来てくれませんか……?」
湊心愛にチケットを一枚手渡される。日付は来週の週末が書かれていた、来週の週末といえばGWが始まる。
「もし予定がなかったら行かせてもらうよ、けど行けるかどうかはまだ分からないかな」
予定は今の所ないが、もしかしたら急用が入るかもしれないので一応断っておく。
「はい、すみません引き止めて。それじゃあ彰人さんまた」
改札を通っても湊心愛はまだ居て俺に手を振ってくるのを見る、駅のホームに着いた時にちょうどよく電車がきたので乗って地元へと帰る。




