城田彰人の死
櫻木グループの別邸に侵入して数分、侵入者を告げるアラームが鳴り響いてくる。
「ちっ……もうバレたか」
わらわらと櫻木グループの警備員達が集まってきて取り囲まれるが、難なく麻酔銃を撃ち込み倒れる。そしてある部屋に辿り着いたが、場は騒然としていた、部屋を覗き込み彰人がいる事が分かる。
彰人は頭に器具を取り付けられ意識がない様子だ、部屋には数台のパソコンとそれを触る大人が数人、そして映像を映し出すモニターの前に大柄の男が立っていた。
「胡夢か……今からして欲しい事があるんだけど大丈夫か……?」
スマミフォンを確認するとサラが人格を移す前に懐かしい名前と連絡していた事が分かり、すぐに連絡をとって了承してくれたので説明する。
「モニターには何が映し出されてる詳しく教えて」
「街が見えて彰人がモニターに映し出されてる。あと彰人の頭に変な器具が取り付けられていて、眠っているようだ」
「多分彰人君は今仮想現実の世界にいる訳ね、サラ悪いけどPCにハッキングしたいからUSBでパソコンとスマミフォンを繋げて」
胡夢に言われた通り隠れて部屋に侵入して持っていた充電用のUSBをスマミフォンとPCに繋げる。
「あと三十秒粘ってそしたらそこにハッキングできる」
「サラいいよハッキング出来た、今すぐそこから離れて」
「ダメだ彰人を置いていく訳にいくか」
「見た所彰人君なら今の所無事、けどサラここでいきなり騒ぎを起こしちゃ彰人君を人質に取られるリスクもある。だからサラ一旦身を隠せる場所を見つけて私の話を聞いて」
「分かった、あと私の名前をサラって呼ぶな、今はジェミニとしてここにいる」
部屋の外にあった女子トイレに身を隠して先程胡夢がハッキングしたモニターの映像がスマミフォンの画面に映し出された。
「普通の仮想現実世界と違う、これは彰人君が住む街そっくりに作られた仮想現実世界。しかも彰人君と櫻木姫華以外は街も人も全部データ」
胡夢の説明を聞きながら映像には人と街がこれが全部データなんて信じられなかった。
「ちょっと待て胡夢今の所をもう一度見せてくれ」
胡夢に言ってさっきの映像が映し出される。そして私の前にある人物が映った、それは信じられないことに先日事故死した城田亜梨沙の姿だった。
「誰……?」
「城田亜梨沙、私の友人だった女性だ。先日水難事故ね亡くなったはずだが……」
「きっと誰かが勝手に作ったデータね、今その人のデータをデリートしようとしてるけどどうする?」
「急いで止めてくれ」
「ダメ一歩遅かった、もうデリートされた」
「そうか……まぁいいさ、もう亜梨沙は死んだんだからなそれで彰人はどうやったら助けられる」
「櫻木姫華も仮想現実世界にいるから、きっと彰人君と同じ器具を着けて別邸のどこかに潜んでるはず。それにまだ彰人君を仮想現実世界から出す方法が見つかってないからそれも考えないと」
「潜んでるって言われても一体どこに」
「それを今から見つける、少し待って」
胡夢が黙って三分胡夢はいきなり話し出した。
「その女子トイレを出て左に行って曲がったら櫻木姫華が部屋に入るのを監視カメラで見つけた。その部屋から一度も出てないからきっとそこにいる」
どうやら胡夢は数分でこの別邸の監視カメラの映像を確認して櫻木姫華がどこにいるか見つけたらしい、本当にこいつを敵に回したら世界中どこに逃げても見つかりそうな感じだ。
「通話は繋げたままにして」
「了解」
女子トイレから出て左に行く、曲がる前に少し覗く部屋の扉前に二人の大柄の男が立っていた。
「胡夢……男が二人いるなんて聞いてないぞ」
「何とかできるでしょ、それよりも急いで仮想現実世界で彰人君が櫻木姫華に拘束されて眠らされた」
「仕方ねぇなもう」
麻酔銃の残り二発の弾を男二人に撃ち込み、倒れるのを確認して部屋に入るが櫻木姫華の姿はない代わりに大人の白衣を着た男性が足首に足枷をされて座らされていた。
「君は……?」
「あんたは誰だ?」
「助かった……!! ここにずっと閉じ込められていたんだ私を助けてくれ」
「もう一度聞く、あんたは誰だ……?」
麻酔銃の銃口を白衣の男性の頭に向ける、もう麻酔銃の弾は残ってないがこの麻酔銃は本物の銃とそっくりな為脅すには最適の道具になる。
「私は堺透、研究者だ」
白衣の男性は両手を上げて名を叫ぶ、堺透? どこかで聞いた事がある名前だ。
「なんでこんな所で拘束されてる。櫻木姫華はどこだ?」
「彼女ならここにはいない、数時間前にそこの隠し通路から機械を持って出ていった」
指を差した方向に本棚があり本棚を押して退けると本当に隠し通路が見つかった。
「聞いてたか胡夢、櫻木姫華は部屋の隠し通路から出ていったらしい」
「うん聞いてた、監視カメラにも映ってない場所だからもう別邸から離れてるしどこに行ったのかも不明」
「どうするこっちの麻酔銃の弾も切れちまったから彰人を助け出すにも武器がないぞ」
「そこにいる堺透って研究者、もしかしたら彰人君を助けれるかも」
「どういう事だ……?」
スマミフォン越しに胡夢に問いかける。私は白衣の男性に視線を移す本当にこんな白衣の男性が彰人を助けれるのかと思う。
「その人アンドロイドの研究をしていて普通なら無理な事をやっけのけたみたい」
「何をしたんだ」
「死んだ娘の脳をデータ化してアンドロイドとして作り上げたみたい」
「死んだ人間の脳をデータ化なんて、そんなのできるのか!?」
「簡単に言えば私でも出来ない事、きっと今彰人君達がいる仮想現実世界のデータを作ったのも多分根本的にはこの人が作った気がする」
「それでどうやったら彰人を助けれるんだ?」
「さっき消された城田亜梨沙のデータをその人に戻してもらうの、現実世界で生きてた頃の城田亜梨沙に。そしたら仮想現実世界で拘束されてる彰人君を助けれる」
「おい胡夢、私が助けたいのは現実世界の彰人だ。さっきから聞いてるがそんな仮想現実世界とかはどうでもいいんだ」
「いやそんなどうでもいいって話ではない」
胡夢とスマミフォン越しに話している途中、いきなり話に入ってきた白衣の男性。
「私は櫻木姫華に脅されて仮想現実世界のデータを作った、だがそれはまだまだ未完成のデータだ。一つだけ分かる事は私が数十人いても完成するのは恐らく十年先の事だ、だから万が一仮想現実世界で死んだりしたら現実世界でも死ぬ可能性が高いし、もし櫻木姫華が仮想現実世界と現実世界とのリンクを切ってしまえば二人とも現実世界に戻ってこれないだろう」
「聞いたでしょ、彰人君を助けるにはまず仮想現実世界から現実世界に戻さないと」
「じゃああんたも早く手伝え」
「手伝えて言われても、私は何をしたらいいかさっぱり分からないんだが」
「それは今から私と通話してる胡夢って奴が説明してくれる。私の頭じゃもう理解できなくなりそうだからな」
スマミフォンを渡して、白衣の男性は胡夢と会話している。
「そういう事は正直出来る可能性は高くないが、本当にやっていいのか? もし失敗してしまったら仮想現実世界のデータすら全て破壊してしまうかもしれないが」
「だったら成功させねぇとな、そうじゃなきゃ櫻木姫華じゃなくて私があんたを殺す」
「分かったやる、やるから、しかしこんなスマミフォンじゃデータの復元は無理だ。やるならあの仮想現実世界のデータがあるPCルームに行かなければ」
「PCルーム……? ってまさか彰人がいるあそこか!? 好都合だ、さっき見た限りじゃあの部屋にいる強い奴は大柄の男一人ぐらいだ。そいつさえどうにかすれば、他の奴は脅して縛っておけば何とかなるだろ」
白衣の男性に付けられていた足首の足枷をワイヤーカッターで金属部分を切断する。そして部屋を出てさっき扉前で眠らせた男二人はまだ麻酔銃の効果は切れていないようで扉前で寝ていた。
「急ぐぞ、麻酔銃の効果はせいぜい一時間が限界と聞いたからな」
白衣の男性を連れてさっきの部屋まで戻ってくる。先程同様彰人がいると思いきや彰人は部屋にいなかった、残されていたのはPCとモニター映像それだけだった。
「どうやら私達が話している間に別邸から出ていったようね数分前に車で移動したみたい」
「私ならまだ追いつける。あんたと胡夢は仮想現実世界の彰人をどうにかしてくれ」
車に追いつく為急いで部屋を出て別邸の外に出る。櫻木グループの別邸は一本道で近くに草木がお生い茂っており大木の枝を伝って走っている車を見つける。車を見失わないように隠れて追いかける。三十分経って車は道を外れると近くのコテージ前に止まると別邸にいた大柄男が慌てて出てくる。
「早くコテージの中へ運べ」
そして別邸でPCを触っていた男性と女性が二人がかりで彰人の体を持ってコテージの中へ運ぼうとしていた、見ると彰人の体から血が垂れていた。
「お前彰人に何した……」
大木の枝から飛び降りて、大柄の男の頭に麻酔銃の銃口を突き立てる。
「はは……俺は何もしてない、きっと姫華お嬢様の仕業だ」
大柄の男は抵抗もせず両手を上げて答える。彰人を運んでいた二人もその場から動かずにいた、ポケットを探りスマミフォンを見つける。スマミフォンは指紋認証で開くため背中に腕を持ってきて腕を試していき解除された。
胡夢は今私のスマミフォンであの白衣の男性と話しているだろうから、ここは仕方なく胡夢の家の電話番号を入力して連絡する数回のコール音が聞こえて。
「ふぁい椎名ですけど……」
胡夢とは違う声、母親にしては若すぎる。きっと胡夢の妹だ。
「えっと私胡夢さんの友人で、今胡夢さんと話したいので代わってもらう事って出来ますか?」
「お姉ちゃんの友達ですか……? ちょっと待ってくださいねすぐ呼んでくるので」
保留音が聞こえて待たされるがすぐに繋がる。
「胡夢か? 車には追いついたが彰人の体から血が垂れているんだが何かあったのか?」
「今彰人君が仮想現実世界で櫻木姫華に背中を撃たれた」
「なんでそんな事が一体何があったんだ」
「城田亜梨沙のデータを現実世界で生きてた頃のデータとして復元する事は出来て、拘束されてた彰人君を見つけて助ける事は出来た。……でも城田亜梨沙を庇って彰人君が」
「それで助かるのか……?」
「分からない、仮想現実世界で一命を取り止めれば現実世界でも死ぬ事はないって言ってる」
「ダメだ彰人を死なせたらダメだ。おいそこのお前今すぐ彰人の頭の器具を取れ」
「取っちゃダメ、もし今器具を取ったりしたら仮想現実世界とのリンクが切れて彰人君は一生仮想現実世界から抜け出せない…………」
「胡夢どうした」
「今仮想現実世界の彰人君の息が途絶えたって」
そして数分後コテージの中から目が死んでいる櫻木姫華が器具を持ち彰人を見つけて駆け寄ってくる。
どうやら胡夢の言った事は正しかったようだ。仮想現実世界の彰人が死んだと聞いてからすぐに彰人に駆け寄り呼吸をしているか確認したがしていなかった。
結局その後彰人の遺体は城田家に引き渡した、お嬢様と彰人の妹だった久遠の仲は険悪になりお嬢様を恨んでいる。
櫻木姫華は姿を消して今行方をくらましているがお嬢様は絶対に見つけ出して復讐を誓っていた。
「なあ亜梨沙……これで本当によかったのか?」
「うんどうやら私のでも彰人君を死なせちゃったからね次の子だったらいいなって思う」
亜梨沙は私の横に立つ。仮想現実世界のデータを元に堺透が亜梨沙はアンドロイドとして生き返らせた、最初は仮想現実世界のデータで亜梨沙同様、彰人を生き返らせる事も出来たが亜梨沙が反対した。私は何も知らないが亜梨沙は何か知っているふうに語る。
「また新しい物語が始まる」
亜梨沙が空を見上げ何かを呟いた、だがそれは亜梨沙の声だが誰か違う人物が喋っている気がする。すると辺りが真っ暗になり世界が暗闇に包まれた。




