櫻木姫華
「えっと」
「どうやら私と違って抜け出してきたのはではないのですね」
噴水のレンガに座っていた銀髪の美少女は立ってこちらに接近してくる。
「タキシードのネクタイが曲がっています。紳士ならもう少し気を配った方がよろしいのでは」
「あ……ありがとう」
いきなり曲がっていたネクタイを直してくる。一体この美少女は誰なんだと思ってしまう。
「それであなたもこのパーティに招待された財界の一人ですよね。見た所私と同じ歳に見えますが……まさか私と一緒で父に同行してきたとか……?」
「いや俺は……」
「彰人様、こんな所で一体誰と話してるんですか」
突然御嬢瑞希が現れた。
「御嬢瑞希……さん」
「あなたは確か櫻木グループのご令嬢櫻木姫華さんでしたよね」
櫻木グループには聞き覚えがある。御嬢財閥と並びアミューズメント施設に電子機器、自動車産業に精通していると誰かに聞いた事があった。
「この方はあなたの知り合いでしたか、それかもしくは付き人ですか……?」
「まぁ、どうしてあなたにそんな事を話さなければいけないのですか」
「少し気になったもので、御嬢財閥の娘である御嬢瑞希さんが、殿方に様をつけるのを初めて聞いたものですから」
「お嬢様こんな所にお父上が探しておられますよ」
「しょ翔也……!? お前ここで何やってるんだ。それにその格好……」
「彰人、久しぶりだな……」
現れたのは友人の田澤翔也、翔也の格好は俺と同じタキシードを身に纏い、櫻木姫華をお嬢様と呼んだ。
「そう、では瑞希さんまたそちらの方もごきげんよう」
「おい翔也待てよ」
櫻木姫華に付いていこうとした翔也を無理矢理引き止める。
「彰人、お前は幸せそうでいいよな俺はもう」
「翔也待てって」
翔也をそのまま引き止める事ができずに櫻木姫華の隣を歩いていくのを見送るしかできなかった。
パーティもお開きになり、タキシードのまま部屋へと戻る。
「幸せか……翔也には俺がそう見えていたのか」
ベッドに寝転びさっき翔也に言われた事を思い出す。
「おい、御嬢黒蝶様が貴様をお呼びだ」
部屋に何も言わず入ってきたサラ。そしてサラに案内されるままさっきの庭園へと戻ってきた。今はメイド達が後片付けの作業をしている最中、だがパーティの時には見なかったティーテーブルの上に置かれたカップにお茶を注ぐ御嬢黒蝶の姿を発見する。
「黒蝶様、連れて参りました」
「ありがとうサラ。もう戻っていいわよ、彼と少し話たい事があるから」
サラは何も言わずそのまま庭園から立ち去っていく。
「立ち話もなんですし、座りましょうか」
御嬢黒蝶が一言言っただけで、二人のメイドが椅子を持ってティーテーブルの前に置く。御嬢黒蝶が椅子に座り俺も席に着く。
「紅茶は飲めますか……?」
「あ……はい、飲めます」
御嬢黒蝶が注いでいたカップの一つを手前に置いてくる御嬢黒蝶はそのまま自分のカップを持ち紅茶を飲み一息つく。
「話と言うのは瑞希との事なんですが、単刀直入に聞きますけど瑞希とはどれ程親密な関係ですか」
「どれ程って言われてもそうですね。妹の友達って感じですかね、それ程親密な関係って訳じゃないので」
「それを聞いて安心しました」
「安心ですか……?」
「ええ、瑞希にはまだ言ってませんが、あの子が十六歳になると櫻木グループのご子息と婚姻する予定でしたので」
「それってつまり政略結婚って事ですよね」
「まぁそうですね、しかし瑞希もちゃんと財閥の今後を頭で考えているので受け入れてくれるでしょう。話は以上なので私はこれで失礼しますね」
御嬢黒蝶は紅茶のカップをティーテーブルの上に置いたまま、椅子から立ち上がり庭園から離れていく。その後すぐにメイド達がティーテーブルと椅子を片付け始めたので邪魔にならないように俺は部屋へと戻る。




