御嬢瑞希の両親
「え……俺に花菜葛女子に行けって」
朝起きたらいきなりサラがメイド服を着て部屋にやってきた。
「ああ、お嬢様が弁当を忘れていったんだ。今は私や他のメイドや執事も忙しくてな、道自体はこのメモに書いてあるから辿り着くことはできるが。もし無理なら私が届けるが」
「いや届けてくるよ」
「そうか……なら頼むぞ」
押し付けられたトートバッグにはランチボックスが入っており、サラから受け取ったメモを頼りに部屋から出て外に出る。一ヶ月振りに太陽の日光を浴びる。もうすぐ夏が始まる季節だった為、日光自体も暑くなってる気がした。メモを頼りに歩いていくと数十分で花菜葛女子前の校門に着くことができた。お嬢様学校な事もあり校門前には警備服を着た若い女性が警棒を腰に下げて複数人に立っていた。
「あのここに通ってる御嬢瑞希さんに届け物が……」
校門前に立っている若い警備服の女性一人に声をかけてみる。
「御嬢瑞希さんに届け物……身分証は……? 御嬢瑞希さんからは何も聞いていないが」
怪しまれた、少し目を細めてこちらが持っていたトートバッグに目を移す。
「にいに……?」
すると校門を通り抜けようとしていた久遠が声をかけてきた時間帯は朝だが授業は既に始まっている筈だった。けど久遠の目をよく見れば隈ができていた。
「城田さんの知り合いですか……?」
「はい、私の兄です」
「それならよかった、御嬢瑞希さんの知り合いである城田さんの親族の方ならどうぞお通りください」
「にいにこっち」
久遠に引っ張られ校門を通り抜ける。そのまま校舎に入ろうとはせずに校舎裏に連れて来られた。
「にいに二日間もどこに居たの……? 私ずっと心配してたんだよ」
「御嬢瑞希から聞いてないのか」
「瑞希ちゃんから? 何も聞いてない……」
確か御嬢瑞希に久遠に心配しないでくれって伝えてくれって昨日言ったはずだが。
「もしかして瑞希ちゃんにいにの事私に黙ってたの……」
久遠が小さく呟く。
「それより俺頼まれて御嬢瑞希の弁当を届けにきたんだけど、どこに行けば会えるんだ」
「今の時間なら体育だから教室にはいないよ、それにそれ私が届けるよ、にいにはここにいて絶対どこにもいかないでよ」
久遠はトートバッグを奪って校舎裏から消え去る。
「おい、おい彰人」
どこからか呼んでいる声がする。キョロキョロ辺りを見回すが誰もいない、いきなり後ろからサラが飛び降りてくる。
「たく……心配で仕事を投げ出して追いかけてきて正解だったな、いくぞ」
「いやでも久遠がここで待ってろって」
「いいから行くぞ、お前の妹にバレたら色々厄介なんだ」
サラがメイド服のまま現れ、俺の手を引っ張って校舎裏から遠ざけようとしてきたので声をかけて留まらせようとしたのだがサラは止まらない、先程通り過ぎた校門前にリムジンが停まっていた。サラに強制的に乗せられ、リムジンは走り出す。窓から久遠が校門に到着する姿が見えた。
「あれ瑞希ちゃんのリムジンだよね」
リムジンで御嬢瑞希の本邸に戻ってくる。本邸では忙しなくメイドや執事達が動き回っていた、リムジンの運転手もリムジンを降りて走っていく。
「こんなに動き回ってるなんて今日は何かあるの」
「ああ……今日は御嬢財閥の総帥もといお嬢様の父上御嬢豪傑様と母上御嬢黒蝶様が海外から帰国されるのだ」
夕方御嬢瑞希が学校から帰ってきて早々、赤いドレスに着替えて部屋にやってくる。隣には軍服に着替えたサラが立つ。
「彰人様、そのタキシードとてもお似合いですよ」
先程執事達に囲まれ、強引に着せられたタキシードを御嬢瑞希は似合っていると答える。
「でも本当に俺なんかが家族水入らずの時間に加わってもいいのか」
「はい、お父様とお母様から彰人様とお話をしたいとずっと前から聞いていたので、それに今日はお父様とお母様が帰国されたパーティです。私達の他にも財界の人間が少々混じっているので家族水入らずの時間ではないんですよ」
御嬢瑞希とサラに付いていき、本邸の外にある庭園へと到着する。
「瑞希ーーー」
いきなり御嬢瑞希の名を叫びながら体つきがごついタキシードを着た男性がこちらに向かってきて御嬢瑞希を抱き上げた。よく見ればライオン程のたてがみをした黒髪に加えて目つきが鋭い、そして極めつけは顔である。それはまるでマフィアの首領を思わせる顔、しかも顔には無数の傷跡が見える。
「お父様、私ももう小さくないんですからそんなご無理なさらず」
御嬢瑞希がお父様だと言った、本当にこの人が御嬢瑞希の父親なのか!?
「何を言う私はまだまだ瑞希を持ち上げられるぞ」
「あなた、そろそろ止めなさい御嬢財閥の総帥がそんな痴態を振る舞ってどうするの」
「お母様」
御嬢瑞希が呟く、この人が御嬢瑞希の母親か。庭園にいる男性全員が二度見する程の黒髪美人、黒蝶の彩られた和服を着て黒蝶の簪を身に着け、それはまさに大和撫子のような存在だった。
「お母様、お父様お久しぶりです。」
「うむ、私も瑞希の元気な姿を見て安心した」
「それで瑞希、そちらの方が例の彰人様ですか……?」
「はいお母様……こちらの方が城田彰人様です」
「そうですか、入学式では娘がお世話になったようで」
いきなり頭を下げて礼を言われてしまう。
「いやそんなの大分前の出来事ですよ」
「ハッハッハ、黒蝶が頭を下げるのは気にいった人間にしかしない。彰人君もしかしたら君は黒蝶に気に入られたかもしれんぞ」
御嬢瑞希の父親にバシバシと背中を叩かれてしまう。
「総帥お久しぶりです」
「ああどうもどうも。それじゃあ二人ともまた後でじっくり話をしよう、今はパーティを楽しんでくれ」
「瑞希……少し二人で話でもしましょうか」
「はいお母様」
御嬢瑞希は母親と共にパーティ会場の庭園から少し離れていく、取り残された俺は暇を持て余したので庭園を歩き回り、庭園の道から外れて噴水がある場所へと出てしまう。
「あら……もしやあなたも抜け出してきたのですか」
そこにいたのは暗くても分かる程の長い銀髪に純白のドレスを着た、俺と同い年位と思われるの美少女が一人噴水のレンガに座っていたのだ。




