彰人の世話係サラ
「彰人様この部屋を少しの間お使いください。誰も使っていなかった部屋なので少し埃っぽいですが……早朝にはメイド達が掃除しに来ますので、それまでごゆっくりお過ごしください」
御嬢瑞希の本邸に到着すると、リムジンを降りてそのまま御嬢瑞希に付いていき。俺の部屋よりも何倍も広い部屋へと案内される。
「もし何かあればこちらのサラをお呼びください彰人様の世話係として隣の部屋に常駐させますので」
「そんな私はお嬢様の安全を確保する義務が」
「サラ、それは別の者にやらせるから。あなたは今から彰人様の世話係です。それともし彰人様に何かあれば……分かってるわね」
「了解しましたお嬢様」
御嬢瑞希の前に跪き、御嬢瑞希はその後部屋から出ていく。部屋には俺とサラという女の二人になる。
「何故貴様なんぞの世話係に任命されなければいけないのだ」
御嬢瑞希が出ていってすぐ、サラという女が愚痴を零す。
「大浴場はこのまま真っ直ぐ行ったらある。それと毎朝メイドが食事を運んでくるが好き嫌いせずにちゃんと食べろ、日本人ならそれ位分かるだろうな」
いきなり睨まれる。やはり俺の事が嫌いなのか。
「あと何もない限りは私を呼び出したりするな。これはお願いとかじゃなく命令だいいな」
こくこくと頷く。
「よし、なら私は行くが他に何か聞きたい事があれば今すぐ聞け、できる限り答えてやる」
「あなたの事はどうお呼びしたらいいですか」
サラという名前だけ知ってるが、いきなり名前を呼ぶのも失礼なので聞いてみる。
「普通にサラでいい、お嬢様や本邸にいる人間は皆そう呼ぶ。他には」
「それだけ聞ければ十分です」
「ならまた後で様子を見に来る」
「え……さっきは何もない限り呼び出したりするなって言ってたのにですか」
「お嬢様の命令だからだ」
大きな声を出してサラは出て行ってしまう。そして早朝、御嬢瑞希が言った通りメイド服を着た人達が数人部屋に集まり掃除を始めた。邪魔をしないよう部屋から少し出ていく、サラの話じゃこの先に行ったら大浴場があると聞いた。だが着替えなど持ってきてなかった俺は一度サラに相談しようと隣の部屋に行こうとしたのだが。
「隣ってこんな遠いのか」
歩いて十分位経つ、御嬢瑞希が言った隣の部屋なんて存在しないと思っていると、遂に扉を発見した。扉をノックするとすぐに扉が開かれた。そこにいたのはサラが軍服を着て、長い金髪をツインテールにしている姿だった。
「何の用だ」
「えっと大浴場に行きたいんだけど、着替えとかタオルは」
「だったら大浴場に貴様専用の服が用意されてるからそのまま大浴場にいる執事に伝えれば受け取れるはずだ」
「ありがとう」
サラにお礼を言って大浴場までの道を歩く。来た時同様長い道程だったが大浴場に着くことができた。そして大浴場の入口に執事服を着た年配の男性が立っていた。
「城田彰人様ですね。すみませんが大浴場はただいまメイド達が使っており、多少お時間頂きますがよろしいでしょうか」
「そうなんですか、だったらまた後で来ます」
「お待ちを、これをお嬢様から仰せつかってお預かりしております。城田彰人様のご洋服とバスタオルでございます私も席を外す事があるので今渡しておきます」
「ありがとうございます」
年配の男性から受け取って、部屋へと戻る。掃除しに来たメイド達はいなくなっており部屋は来た時よりもずっと綺麗になっていた。埃も飛び散っておらず、ベッドなんか真新しくなった気がする。
「城田様」
いきなり声をかけられ振り返る、そこにいたのはサラだった。だが格好が軍服の服からメイド喫茶等で見かけるフリフリのメイド服を着ていたのだ。
「朝食です」
「いやちょっと待って!? 全然追いつかないんだけどサラ……?」
名前を呼ぶとサラはこちらを睨んでくる。
「朝から夕方までメイドとしてここで働いているのだ……ううん働いているのです」
咳払いをして言い直す。
「では用がなければ失礼します。また後ほど食べた皿などは回収に参りますので。それでは」
サラは部屋から出て行ってしまう、サラが運んできた朝食はカフェなどで見かけるテーブルに置かれていた。席に座ってサラが持ってきた朝食を口にする。
「彰人様」
朝食を食べている途中御嬢瑞希が部屋にやってきた部屋に案内された時と服装は違って制服に着替えていた。
「学校に向かう前に一度様子を見に来ましたが、どうですか私の家は」
「充分過ぎる程お世話になってるよ」
「ふふ……でしたらよかったです。また帰ってきたら会いに来ますね」
「そうだ、ちょっと待って……!!」
「どうかなされましたか……?」
「久遠に心配しないでと伝えておいてほしいんだ。幾ら両親が了承してたとしても、久遠は多分……知らないと思うから」
「はい、彰人様の伝言は私から久遠様にしっかり伝えておきます。それじゃあ行って来ます彰人様」
「うん、行ってらっしゃい」
御嬢瑞希を部屋から見送り、俺は亜梨沙姉ちゃんの事を少し考えなくなっていた。朝食を食べてから、ベッドで仮眠を取っていた時の事。
「ふむ睡眠薬を少し盛りすぎたか……」
誰かの声が聞こえるが誰だ? 目を開けようにもぼやけていて誰が立っているのか分からない。
「今は安心して眠っていいよ彰人君」
「亜梨沙姉ちゃん……?」
頭を撫でられ、そこに立っていたのが亜梨沙姉ちゃんだと思って俺は呟く。
「すまんな私は城田亜梨沙じゃないんだ、だが安心しろ、お前に手出しする奴はこの本邸にはいない。だから今はゆっくり寝て大丈夫だぞ……彰人」




