彰人は椎名胡桃の後ろに隠れる
次の日この前彰人君に教えてもらった対戦格闘ゲームを二人で対戦していた時の事。
「……彰人君」
「どうしたんだ」
「一緒に学校に通ってみない」
私が呟いた言葉に彰人君は対戦途中だった事を忘れ、私の打った必殺技を避けるのを忘れた、いつもの彰人君だったら簡単に避けていただろう。
「もしかして冬華姉さんに聞いたのか」
「ううん違うよ」
「まぁ詮索はしないけどさ。どうして急にそんなの言い出すんだ」
「彰人君と毎日公園で遊ぶのは楽しいよ、なんだったら私も学校を休んで二人で遊びたいぐらい」
「でもあの人から彰人君を離すにはこれしか方法がないから」
「あの人って誰の事かな?」
「……あ」
「やっほ彰人君」
「こんにちは舞亜さん」
彰人君は私の背中に隠れて震えだし、目の前にいる彼女の名前を呼ぶ。
「顔を見せてくれないとお姉さん悲しいな」
「ひぃっ!!」
私の背中に隠れていた彰人君を無理矢理引きずり出して、顔を見させようする。
「彰人迎えに来たよ……って舞亜!? こんな所で何してるの塾の日じゃなかったの」
「偶然塾に行く途中に公園を通ったら彰人君達に会ったからさ挨拶しよって思って」
「……なんか最近舞亜。彰人にちょっかい出すようになったね」
「そう……? 友達の弟なら当然だと思うけど」
「彰人君大丈夫?」
「……一応平気かな」
解放された彰人君の手を見るとまだふるふると震えていた。
「まぁ別に舞亜が彰人にちょっかいだそうと私の問題じゃないけどさ。やり過ぎると私も許さないから」
「冬華怖ーい、それじゃあまたね彰人君」
「胡桃ちゃんありがとね、彰人と毎日のように遊んでくれて」
「私も毎日彰人君と遊ぶの楽しいです」
「そっか、それじゃあ今度彰人と遊んでるお礼にお姉さんが胡桃ちゃんにいい物プレゼントしてあげるよ」
「そんな悪いですよ」
「いいの、いいの。この前久遠にあげよって思ったのに久遠がいらないって言ったから、今度持ってきてあげるね」
彰人君のお姉さん、冬華さんは私の頭を撫でてくる。
お姉ちゃん以外から頭を撫でられた事がない私は冬華さんに頭を撫でられると照れてしまい顔が熱くなる。
「それじゃあまたね胡桃ちゃん」
彰人君はさっきまで震えていた手を私から離して、冬華さんと手を繋ぎ、公園から出ていくのを見送る。
冬華さんは公園から出る前に振り返って私に手を振る、私も手を振り返す。
次の日のお昼休み、私は初めて学校で彰人君の姿を見つけた、追いかけて声をかけると彰人君の隣には久遠ちゃんがいた。
「……お兄ちゃんに何か用ですか?」
「彰人君学校に来たんだね!!」
私は久遠ちゃんの言葉を無視して彰人君に話かける。
「いや、今日はちょっと先生と約束して来ただけだから」
彰人君は私が話しかけたのに、いつも公園で遊んでいる時よりも笑顔が無く困った顔になって答える。
「ほら、久遠もいい加減離れろ。俺はこれから用事があるんだから」
「お姉ちゃんが来るまでははーなーれーなーい」
久遠ちゃんは彰人君の妹だが、冬華さんとは違って私に会ったら敵意を向けてくる、嫌われているのだろうか、彰人君の妹だから嫌われたくはないのだが。
「城田ようやく来たか」
「先生」
この人が彰人君の担任の先生なのか、確かクラスの女子達が噂をしていた学校で一番イケメンの先生だったような。
「話はお姉さんが来てからにしよう、だがまさかご両親が共に風邪を引くとは災難だな」
歯をむき出し笑うが、これがイケメンというのか、私にしたら彰人君の方が格好良いような。
「遅くなりました」
私と彰人君が談笑している途中に冬華さんが学校にやって来た。
「久し振りだな冬華、中学校の噂は聞いているぞもう生徒会の会長を務めているらしいな」
「一応はですね、でもまだまだです。それで今日の話についてですけど」
「ああ、それじゃあ場所を変えるか」
彰人君とはここで別れたが、また今日も公園に行けば会えるだろうと思い、私は教室に戻ろうとした時、久遠ちゃんに服の裾を掴まれた。
「久遠ちゃん……?」
「お兄ちゃんは渡さないから」
久遠ちゃんはそれだけ伝えて、廊下を走っていく。
お兄ちゃんは渡さないからって言うのはどういう意味だろうか?
この時の私はまだ久遠ちゃんが言っている意味が分からなかったが。
後々にその意味を自分自身で体験する事になった。
 




