見える人、見えない人
面白い企画してるなと思い、違う話も書いてみようと思い立ち書いて見ました。
先週の13日の金曜日に投稿できたら、何が起こったんですかね?
では、よろしくお願いします。
夜の学校、暗いトンネル、廃病院、お墓。聞くだけでも鳥肌が立つ恐怖をイメージしてしまう訳で、それを一人で抱え込めない時、俺は誰かと共有したくなる。わかるかな?
「いや、わかんねえ。俺は自己完結できるしな」
この思いを告げた時、連れないことを言いながら冷めた目を向けてきた俺の幼なじみ。
え? 嘘だろうと、呆然としたものだけど、何故かこいつ、毎年俺の心霊スポットめぐりに付き合ってくれている。共有したい願望を叶えてくれてる訳だ。
もう、何年目だろうか?
「十年だな。社会人二年目」
夏の盆がくれば集まり、二人で肝試しをしている。
そして今年も二人集まり、今は俺が助手席、幼なじみが運転席で夜のドライブだ。ちなみに目的地は珍しく幼なじみの案。で、さっきからどこ向かってるんだ?
「ああ、もういいか。トンネルだな。後、お墓。そろそろ着くぞ」
心霊スポットの定番か。
「もちろん、降りるからな」
この男、いつも冷静なのが玉に瑕。付き合ってくれるのは嬉しいんだが一緒になって怖いと言いたいんだがな。言いたいんだがな。
「何だよその不服そうな顔は。嫌がっても駄目だからな。今日は俺主導」
左手に森右手に畑の道を進みトンネルの前に到着すると路肩に車を止め、俺たちは降りる。入り口前には街灯が明かりを灯し、夜に一つ浮かび上がっていた。
「いくか」
この男躊躇がない。
点灯を促す傾いた看板、木々があるのに虫の鳴き声が聞こえず、夏なのに冷たい風が吹き抜け、小山に何もかもを飲み込んでしまうかのうにトンネルが空いている。見えないって怖い……。
「電灯あるだろ、ライトも持ってるだろ、ほれ」
そう言って、平気そうに歩き出していく。決心する暇もない。もう少し恐怖を共有しようよ。
トンネルの天井にはオレンジの明かりが申し訳無さそうに連なってるだけで、暗いことに変わりはない。
「だったら、このトンネルの逸話を話してやるよ」
え、嫌なんだが、これ以上は許容範囲外なんだが。
「このトンネルで亡くなった男の話なんだがな──」
俺の否定は置いてきぼり。
「──その日、その男は約束をしていて急いでたんだ。自転車を全力で漕いでいたらしくてな。この先にある交差点、見晴らしがあまりよくなくてな、右手から車に気付かなかったみたいでな。接触事故だ。検証して車側もその男も速度を落としてなくてな、両者とも来ないだろうと思って起きた事故だったそうだ」
嫌だけど聞いてしまう。
「でだ。その男、約束がよほど大事だったのか、頭を打って朦朧としてたのか、轢かれにも関わらず、ひしゃげた自転車を漕ぎだした。事故現場に駆け付けた救急隊員の話では血が点々とずっと続いてこのトンネルまで続いてたらしい。見つけた時にはその男は事切れていたんだと。現場にいたら助かったかもしれないのにな」
でるのか?
「無念だっただろうな」
でるんだな?
「進めばわかるだろ?」
不適な笑みを浮かべる幼なじみ。彼が口を閉じると足音しか聞こえなくなった。
しばらくの無言。
トンネルの奥へとどんどん進む。
「ああ!」
ぬあ!? 急に大声だすなよ。驚くだろ。
「悪い悪い、もう一つ逸話があってな思い出したんだ」
本当か? わざとだろ?
「ふふっ。夏の夜長に少女の泣き声が聞こえてくるって噂があるんだ。今日みたいな雨上がりの涼しい夜に耳にすることが多いらしくてな。耳にした人が確認しに行った後、帰って来なかったなんて話も……」
なんか、聞こえないか?
「……泣き声?」
おいおいおいおい、嘘だろう……。そう、思いたいが確かに、すすり泣く声が耳に届いてくる。思わず立ち止まってしまう。
「いや、確かに聞こえるな」
俺だけじゃないんだな。
「確かめるか」
幼なじみは躊躇なく歩みだす。
おいおい、待て待て。
「いや、本当に困ってる子だったら、助けないとだろ?」
いや、こんな夜のトンネルに女の子がいるか?
「だから、確かめるんだろ?」
ああ、正論だけど。物語だとその正義感が命を落とすんだぞ。
「…………」
振り向いた幼なじみは呆れた顔をしていた。なんだ、その目は。人でなしって言うのか。怖いものは怖いんだよ。
幼なじみはそれから何も言わずに、再び歩みを始める。仕方なくその背を追うしかなかった。
「いるな」
幼なじみがかざしたライトに照らされ浮かび上がるのは、黒髪の制服を
着た少女。トンネルの端で蹲り膝を抱え肩を震わせている。
バクバクしてる。心臓がバクバクしてる。いるよ。いるよ。手が振るえてる。どうしよう、どうしよう、どうしよう?
「声かければ?」
無理、無理、無理、無理、無理。
「だよな」
待て待て待て、本当に躊躇無いな。
「問題無い、問題無い」
幼なじみは平然と少女の側まで近づくと対面でしゃがむ。
「大丈夫か?」
「…………」
「死んでないか?」
返事がない。いきなりガバッと襲いかかって──。
「……死んでなんかない……泣いてるだけ」
──はこず、ゆっくり顔を半分ほど上げたみたいだ。暗くて、はっきりとは見えない。幼なじみもライトを真っ正面から向けるほど非道じゃない。
「おお、そうか。どうした?」
「……置いてかれた」
「姥捨山か?」
「うばやま? よくわからないけど違う。肝試ししてたら、友達だけ逃げて置いてかれた。怖くて動けない」
「同じ穴の狢か」
「あなむじ?」
「いや、いい。立てるか? 送ってってやるよ? トンネルの出口まで」
「そこは家までじゃないの?」
確かに。
そう、頷いてる間に、彼女はすくっと立ち上がり、スカートの埃を払う。
「見知らぬおっさんとそんな長い時間一緒にいたいか? それに友達とやらはまだ待ってるかもしれないだろ?」
確かに。
「だったら、いいけど……」
不安なんだろうな。
「えっと……じゃあ……よろしくお願いします」
腰まで、曲げてお辞儀するとはいい子だな。
「だな、礼儀正しい。じゃあ行くか」
「はい」
そうして、トンネルを三人で進む。途中、幼なじみが手を合わせた時は見えてるのかと思ったが、単にさっき話をした男が亡くなった場所だとか。いや、十分怖い。女の子と一緒になって安らかに居眠り下さいと拝んどいた。それを、見て幼なじみは笑いやがったが。
仲間が一人増え心強かったが、ここまで。
「じゃあな」
バイバイ。
トンネルをでると、女の子の友人たちは待っていた。助けに戻るのと怖いの板挟みで二の足を踏んでいたようで、俺たちを見た途端に謝りながら彼女に抱きついていた。
俺たちは女の子達のお辞儀を背にしてトンネルを戻り、墓へと車を進めた。テレビで登山の帰り道は大変なのに放送されないとか言ってるけど、帰りも同じ距離歩くから、怖いのよな。怖かったのよな。
「着いたぞ」
幼なじみは車を止めるとさっさとドアを開け、車を降りる。俺も習い降りると、蝉の泣き声が、遠くからは蛙の泣き声も聞こえてくる。
小高い山の上に墓地はあるみたいでここまでは急斜面を登っていていた。
まだ、ここは更地で駐車場として使っているのだろう。ほんのちょっと先に小屋が見えるぐらい。お寺ではなく寄り合い所っぽい建物に思える。街灯なんかなく、ライトだけが頼りだ。
「行くか」
おう、そんなものまで持ってきてるのか。
俺が周囲を観察してる間に車の後に回ってたと思っていたが。どうやらトランクから、お供え用に花束を持ってきてたようだ。
「目的なく歩いてもしょうがないだろ?」
こんな夜中に供えられても迷惑だろうなそのお墓の主は。
「そうなのか?」
俺に聞くなよ。
「まあ、いいや。あっちの奥だ行くぞ」
暗い夜長なのよ。真っ昼間にあっけらかんと言うテンションだよそれは。ライト消すと真っ暗なのよ。待ってくれてもいいのよ。
追いかけ、小屋の裏手にまで行くと暗がりながら、お墓が並んでいるのはわかり、こじんまりとした印象。
なんで、不気味に思うんだろう。進む足が自然遅くなる。でないよな?
「でるかもな」
脅かすなよ。怖がりたいけど、でては欲しくないんだよ。
「わがままだな」
一度振り返るも幼なじみは墓地内へと歩みを緩めることなく進む。戸惑いがない。
俺は、そのまま、おっかなびっくりすながら、一つのお墓の前で足を止めるまで付いていくしかなかった。
立派なお墓だった。周りは外柵囲まれ正面両隅には小さいながら灯籠も備えている。掃除も行き届いていて枯れ葉一つ落ちていない。盆だ、昼間に家族の者が来てたのだろう花も供えてある。
ライトに照らされちらと見えた墓標には佐藤家と彫られていた。ありふれた名前だな。知り合いなのか?
幼なじみは徐に墓標の前で膝を折り、ライトを側に起き、花束を供え両手を合わせる。
「お前の……かな……だ……どな」
ん? なんか言ったか?
「ほれ、お前も手を合わせとけ」
幼なじみは俺が疑問符を浮かべてることなど知らずにそう促してくる。答えてくれる気もなさそうなので、とりあえず手を合わせておく。
見ず知らずの誰かさん。幼なじみがお世話になったのかは分かりませんが、お礼をしときます。
「やっぱシュールだな」
なぜ笑う。俺は手を合わせるのが下手なのか? 今さらだが線香はいいのか?
「夜だし、火の用心ってとこもあけど、仏と繋げる必要もないしな。まあ、それより今日はどうだった?」
ああ、怖かったよ、実はな今もまだ怖いわけで、早よ帰ろう。
「ふっ、そうか。来年も行くか?」
「おう、次はお前が怖がるところに行こう」
こうして、お盆の夜長は過ぎて行く。
強いて、言うならハートフルホラーなんですかね? これ?
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