語り手はチャンスを逃さない
書きなぐっていますので、誤字脱字その他諸々ありますが温かい目で見てください。
「セレーネ・エヴァローズ、貴様との婚約を破棄する。」
人生で1度しかない王立学園の卒業パーティー。
そんな場でなんとも場違いな宣言をしたのは、金髪に若草色の瞳を持つ見た目だけは1級品のソルレイ・オーガス殿下。世の令嬢たちがお近付きになりたいと思っている人物である。
その隣には肩まで伸びたふわふわな金髪のなんとも愛らしい少女、ノエル・アルーノ男爵令嬢が不安な表情で目の前に立っている少女を見つめている。
「殿下、急になぜそんなことを?」
婚約破棄を言い渡されたのにも関わらず、凛としているこの少女はセレーネ・エヴァローズ公爵令嬢。まっすぐ伸びた銀髪にはちみつ色の瞳。ノエルは可愛い系だとするとセレーネは綺麗系であると誰かが言っていた。
そんなセレーネの発言に聞き捨てならないと言わんばかりの表情で反論するソルレイ。
「白々しい、貴様は私の愛しているノエルを虐めていたんだ!嫉妬をして虐めるなんて醜い。未来の王妃がこのような悪事をするだなんて恥ずかしい、軽蔑する。」
「はて、わたくしはノエル様を虐めたことなどは全くございませんわ。それに軽蔑されるのは殿下の方ではなくって?ありもしない罪を着せて婚約破棄をこのような場所でするなんて。それにわたくしは、殿下の事を好いたことなど1日も有りませんから嫉妬とかいう感情はあいにく持ち合わせておりませんの。一度辞書で嫉妬という意味をお調べになってください。」
「なっ、貴様は私を侮辱するのか!ノエルを虐めていただけでなく、国王になる予定の私を侮辱するとはなんて女だ!!このような女が私の婚約者だったとは人生の汚点だ!!」
「汚点というならわたくしも殿下の婚約者だったことが人生の汚点ですね。」
「貴様!!」
ソルレイの主張に、普段と同じように優雅にふるまいながら反論するセレーネ。どちらの主張が正しいかは普通の人ならわかるだろう。侮辱され顔を真っ赤に怒るソルレイ。国王になる存在と言っている癖に怒りのコントロールが出来ていない。このありさまでは国の先頭に立つことなどできないだろう。敵国に弱みを握られてしまう可能性が高い。きっと国王陛下も同じことを思うだろう。
「そんなに大声出さなくても聞こえております。それで、わたくしが虐めたという証拠はあるのですか?このような場で断罪するのですから確固たる証拠があるということですね?」
「ああ、あるさ!証拠はノエルの態度だ!」
「……はい?」
この場にいる者はセレーネと同じ反応だ。それもそうだ、証拠がノエルの態度だけとは不十分にも程がある。むしろ意味がわからない。理解できる奴がいたらここに連れてきてほしいくらいだ。きっと理解できる奴は同類だと思うが。会場が騒めく中、ソルレイはどこ吹く風。まわりが見えていないのだろう、自分の世界に入って戻ってこない。熱い眼差しでノエルを見つめていると思いきや、セレーネをキッと睨み付ける。
「ノエルは日々私と会うと疲れた顔をするのだ。それは悪性な貴様が虐めているからだろ。教科書を破られ、制服を汚され、食堂ではノエルの手作りの昼食を貶し……ほかにも多々ある。健気に耐えるノエルを見ていると、私はわかるのだ。だから貴様との婚約を破棄、そして愛するノエルと婚約し悪の根源を排除する!セレーネ・エヴァローズは国外追放だ!!」
セレーネに人差し指をビシッと差し、高らかに宣言する姿には何も言えなくなる。横にいるノエルはソルレイに抱き寄せられ、皆には顔が見えない。むしろ今まで一言も喋っていない。そのため彼女の気持ちがわからないのである。セレーネは一瞬、こいつ何を言ってんだ?という顔をしたがさすが淑女の鏡。スッと表情を戻し、扇子で口元を隠す。
「……まあ、ついにとちくる……あら、失礼。とうとう頭がイカレタのですね。殿下にそのような権限は有りません。第一、婚約については王家と我が公爵家との契約。わたくしはこの婚約をなかったことになるのであれば喜んで受け入れますわ。しかし、わたくしたちだけでどうこうできない問題ですの。おわかり?まあ、あなたの小さな脳みそでお考えになった結果がこれですわね、失礼いたしました。既にわたくしの侍女が学園長室にいらっしゃる国王陛下と父に伝えにいっております。なので婚約は破棄ではなく、白紙になるでしょう。それで、ノエル様はどのように思っておりますの?このおバカさんを好きなんですか?お気持ちを聞かせてくださるかしら。」
淑女の鏡と言われているセレーネから思わぬ言葉がでた。言い直したけど、直し切れていないところが可愛いと思う。素が出ているのか少し口が悪くなっている。先ほどまで顔を(強引に)隠されていたノエルがソルレイの胸を押し離れると、セレーネの元へと駆け寄り、大きな瞳に涙を溜めこの状況の元凶を睨み付ける。
「わ、わたしは……わたしは!ソルレイ王子の事を好きだと思ったことは有りません!むしろ、付き纏われて、勝手にありもしないことを決め付けられて、すごく怖かった!今だってこんな、こんな場違いなところに無理やり連れられて……相手は王族、わたしは男爵家のもの…逆らうことなどできないのに…わたしどうしたらいいのか……助けてください、セレーネ様!!」
「ノ、ノエル!どうしたんだ?私の事が好きなんだろう?あんなに笑顔を見せてくれたじゃないか!あれか?セレーネにまた脅されているんだな?国外追放ではなくもっと……
「騒々しい、こんなハレの日に儂の愚息はなにをしている。婚約破棄?国外追放?挙句の果てには、自分の妄想でそこの令嬢に好かれていると勘違いしたか。愚か者が。」
「父上!妄想ではありません!本当に!」
「黙れ、公の場ではお前の父ではないと何度言ったらわかる。お前に発言を許した覚えはない。」
「っ!」
ここで真打登場。国王陛下とセレーネの父が会場に駆け付けた。威圧感が凄い2人が並ぶと先ほどまでざわついていた会場がしん、と静まり返った。やはり国を治める者はこのくらいの威厳が無いと無理だと思う。
たじろぐソルレイを睨みつけ、重くため息を吐く。会場を見渡し現在の状況を把握するとセレーネの方を向いた。
「セレーネ嬢よ、愚息が申し訳ないことをした。今回の婚約の件は白紙に戻そう。10年間の王妃教育も無駄になってしまった。この慰謝料はおって王家と公爵家で話し合おう。よいか?」
「国王陛下、わたくしはこの10年の王妃教育は無駄ではない事ですわ。なので、慰謝料の代わりに一つお願いがあります。」
「ほう、願いとは?」
「ノエル・アルーノ男爵令嬢を我がエヴァローズ公爵家の養子として迎えたいのですがよろしいでしょうか。」
「セレーネ様…!」
「ノエル様は身分の高い方と両想いでいらっしゃるのですが、お相手のご両親が認めてくれないと相談を受けておりまして。わたくしの両親はノエル様のことをとても気に入っておりますし、ノエル様のご両親も跡継ぎはいるから娘の幸せを……と言ってくれています。あとは国王陛下のお許しだけなのですが……いかがでしょう?」
「ま、待ってくれ!ノエル!私は君を愛している、ほら、贈り物だって受け取ってくれたじゃないか!気が無いのに受け取っていたのか?そうか、君も私を騙していたんだな!グルだったのか!だったら君も国外追放に……!!」
執着してした相手が他の男と愛し合う仲と知り、騙されたと喚く姿はまさに滑稽。これは喜劇にしたら面白いのでは?と思う。ソルレイの喚く姿に静まり返っていた会場が再び騒めきだした。先ほどまでセレーネの腕にしがみついていたノエルは小さく舌打ちをし、ソルレイを睨む。可愛い顔をしているのに舌打ちをするとは大物だな。
「何を仰っているのですか?わたしは先ほど迷惑だと申し上げました。贈り物だって丁重に御付きの方にお返ししています。それにセレーネ様の言うように、わたしにはお付き合いしている方がいます!仮にいなくても人の話を聞かない、勝手に物事を決める、高慢ちきな人を誰が好きになるものですか!!」
「ふふ、初めから殿下はノエル様の眼中にはなかったということですわ。お可哀想に。もう現実を見てくださいませ。……陛下、いかがですか?ノエル様のお相手はあの堅物騎士団長のチャーリー様ですわ。陛下もあのお方には早く結婚してもらいたいとおっしゃっておりましたし……悪くないお話でしょう。」
「なんと!チャーリーとはまことか!これは乗らない手はない……が、しかしアルーノ男爵令嬢、そなたは良いのか?チャーリーは出来る男だが、幾分歳が離れすぎている。それに、儂が許可をすれば男爵家との縁を切ってしまうことになる。」
「はい、両親はわたしの幸せを願ってくれていますので、わたしはその思いに答えたいです。私自身が幸せになりたいのです。年が離れていようがチャーリー様への気持ちは変わりありません。」
「それならば話は早い、公爵家への養子の件は了承した。後日書類を届ける。皆の者、最後の晴れ舞台に愚息のせいで台無しにしてしまったこと、申し訳ない。これより仕切り直しといこうではないか、心行くまで楽しんでくれ。」
ソルレイは別室に連れていかれ、この騒動は幕を閉じた。こんな騒動はパーティーの余興で十分だろう。騒動の元凶ソルレイは継承権剥奪の上、離宮で幽閉だろう。さて、私はこの後のパーティーをさらに盛り上げよう。
「セレーネ・エヴァローズ公爵令嬢、この度は我が愚弟のせいで大変な迷惑をかけたね。婚約が白紙になったということはこれから婚約者を探すのだろう?」
「エ、エンディミオン王太子殿下、いらしていたのですか!?い、いつから?」
「パーティーが始まった時には既にここにいたよ。となると、最初からだ。ノエル・アルーノ男爵令嬢、君にも迷惑をかけたね。大変申し訳なかった。お詫びと言ってはなんだが、チャーリーに7日間休暇を与えてもらえるように手配しよう。それで御両親とチャーリーの御両親に挨拶に行くといい。」
「王太子殿下……ありがとうございます!あ、セレーネ様はお返しいたします!セレーネ様、今日は本当にありがとうございました!大好きです!」
「あ、ノエル様!まっ……」
何かを察したノエルはニコニコしながらセレーネの腕を離し、エヴァローズ公爵の元へと行った。さて、会場のど真ん中で顔を真っ赤にした現在フリーの公爵令嬢と、この国の王太子こと私がいるわけで。次は何が起こるかと期待している他の者がいる。国王とエヴァローズ公爵はこの後の展開を知っているせいか呆れ顔だ。しかしこのチャンスを逃したら手に入らなくなるかもしれないなら、場所は選ばないさ。
「セレーネ、私の顔を見て?」
「ひゃっ……!」
扇子で顔を隠しているセレーネの頭を撫でる。さあ、私の気持ちを受け入れておくれ。長年抑えてきたこの気持ちを。
「愛しいセレーネ、私は初めて会った時から君の虜だ。私と結婚していただけますか?」
その後、「結婚ではなく婚約だろう!」と叫ぶ公爵と豪快に笑う国王、それに返事はないが私を見て固まっているセレーネ。空気を読んで始まる演奏。未だ固まるセレーネの手を引きダンスに誘おう。早く君のその可愛い口から返事を聞かせて。
読んできただき、ありがとうございました。