5人目『人生の黄昏』
設定はこんな感じです。→平安のお姫様と人外の“鬼”は恋に落ちましたが、鬼は姫の平穏な一生を願って相思相愛のまま離れて言ってしまうのが数十年前の話。姫の寿命がつきる前、鬼が再び姫の前に姿を現す。ていう感じです。
私はずっと前に禁忌を犯した。
愛してはならぬ人ではない者を愛してしまった。
故に私は印をつけられてしまった。
たった一度の契りで付けられたその印は私を人から遠ざけた。
それでも私は人だから、こうして年をとり今、死の床にある。
傍らにはその昔愛した鬼があの頃と変わらずの姿で、私の手を握っていた。
私は彼の姿を認め、口の端をあげた。もう、笑みの形にすらならぬ。
彼はしきりに謝罪の言葉を口にしていた。私はそのようなものなど求めていないというのに。
私は幸せだった。たとえ人としてまっとうな人生を送れなかったとしても。彼が居たおかげで私は私らしくあれたのだ。
普通の女のような生き方は出来なかった。人としての道から外れた一生だった。
それでも私は幸せだったのだ。
今の今まで彼が私の傍らに居なかったとしても。
もう、私は逝かなければならぬ。もう二度と彼と会うとは無いだろう。
それでもいい。ただ、幸せだったという記憶だけを胸にあちらへいこう。
どうせいってしまえば何もかも忘れるのだ。新たな生のために。
だから私は祈っている。彼がいつか安らかになる日が来るように。
彼のそばにいることが出来ないことだけを心残りに。
次に遇うときにはもう既に私に彼の記憶は無いだろうが。また遇えたら私は再び罪を犯して人の道から外れるのだろう。
私は最期がすぐそこまで来ているのを感知した。
私はもう、微笑むしかない。声にならない声を出した。『笑って』と。
彼は微笑んだ。本当に美しかった。漆黒の艶やかな髪と真っ白に透き通る肌と深紅の目。
それは、鬼の証で恐ろしいものの筈なのに、私には世界でただ一人、愛しいものにしか見えなかった。
私は満足感からか、口元が笑みにつり上がるのを感じた。もう、笑うことすら苦痛にしか感じないのに。
私は心の中で愛をつぶやいて、まぶたをとじた。一人で眠るよりずっと心地よかった。
どうか、彼の人のこれからの旅に幸多からんことを。
意味不明な話ですいませんでした。