海の底
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
僕らはデスゲームの三日間、家に帰らなかった。学校では惨劇が繰り広げられているし、その間に警察の邪魔が入らなかったことを考えると、家に居て黒辺誠が殺しに来ても警察は役に立たない。
僕や明日加の両親が殺されているかもしれないと思えど、僕は明日加のほうが重要だった。
黒辺誠が追ってくるかもしれない、という理由からスマホの電源は互いに切り、夜は海、昼はカラオケやカフェで過ごした。それに幸い、22時くらいまで、個室等がないネカフェならば高校生だけでも入れるし、銭湯も昼間なら規約の範囲内で利用ができる場所のほうが多い。昼間にお風呂に入るとすれば、入浴にも困らない。
そうして、生きたまま9月を迎えた僕らを待っていたのは僕らを心配した両親と、両親の通報のもと僕らを探していた警察官の怒りだった。
デスゲームや教室の惨劇に一切触れない周囲を不思議に思い、適当に同級生のSNSアカウントを見ていれば、皆生きていた。デスゲームが開かれた形跡がなかった。
何が起きているのか、黒辺誠はデスゲームを開かなかったのか。
混乱しながらも両親と警察官の手前状況を説明しなければならず、打開策もなく惑う僕の前に立ったのは、明日加だった。
明日加は、自分が自殺をしようとして、僕は明日加を心配し死のうとする明日加に付き添ったと話をした。どうやら僕が明日加の手当をするため、救急箱を取りに行ったとき遺書を認めていたらしく、それらの開示により「突然親に無断で行方不明になった2人の高校生」は、「死のうとした女子高生と、彼女をなんとか根気強く説得し、9月を迎えさせた男子高校生」に変わった。
そうして、みんなより1日遅れで迎えた新学期から日がたち、秋を迎えてもなお、デスゲームの片鱗すら感じさせない穏やかな日々が続いていた。
ただ、夏休み前とは、少し違うけど。
なぜなら明日加が死のうとしたことを、学校は把握している。
僕と明日加、それぞれの両親が学校に僕らがいないか連絡したからだ。連絡を受け、当然教師たちは僕がめちゃくちゃにした教室を確認したけれど、僕の自殺用セッティングは明日加が死のうとしたのを止めた時のものだと解釈された。
だからか、僕と明日加を一人にしないように、ある程度監視下に置こうという学校の目論見なのか、普段黒辺誠が頼まれるようなクラスの人間のノートを集め別の教室に運ぶ仕事を明日加と一緒に任された。
とはいえ、教師にも教師の事情がある。ほかの生徒から部活の相談があると呼ばれ、退出した。この場で明日加が死のうとしたらどうするのかと思えど、衝動的に自殺をするのは僕のほうだ。
「水槽、魚じゃなくてクラゲがあればいいのに」
明日加がそう言って後ろから抱きついてきた。背中に明日加の全部があたっている。柔らかくて、温かい。石鹸の香りがする。そんなことを思う自分が気持ち悪くて死にたくなる。
僕は平静を装いノートの整理を続ける。黒辺誠、と綺麗に書かれた名前が視界に入る。
黒辺誠は、黒辺誠のままだ。相変わらずクラスメイト全員、物のように見ながらも優等生を演じている。ただ奇妙なことに、彼と妹が手を繋いで歩く姿が目撃され、姫ヶ崎は黒辺誠の勉強会に参加していたような頃から一変し、クールビューティーどころか淡々と感情を無くしたようにして過ごしている。
デスゲームが開かれるのが延期されたのか、黒辺誠は別の事件を起こそうとしているのか、分からない。
けれど、デスゲームが開かれれば、僕は明日加と共に死ぬ。
そう決めながら、日々を過ごしている。それは漫画で徳川明日加が一人で死んでいった教室で、水槽を横目に集めたノートを運んでいる今日も同じだ。
「知ってる?」
明日加が問う。
耳元で囁かれたからか、妙に緊張して身体が強張る。
「イルカって肉食なんだよ」
明日加が僕を抱きしめる。まるで、どこにも流されないよう、捕らえているみたいだった。
でも、いい。僕のほんとうの姿を知っている彼女の思うままがいい。
なにもない僕を欲してくれる彼女となら、どこへでも行けるし、どこにも行かない。
いつの日か、明日加が僕のほんとうの価値──無価値な存在だということに気づき、不要としてもいい。なんでもいい。
徳川明日加が──いや、明日加が死ぬときに、生きていてよかったと思いながら、なるべく怖い思いも痛い思いもすることなく寂しくない状態で死んでくれたらそれでいい。僕のことを忘れてくれていたら、もっといい。
明日加の走馬灯が、どうか、安らかに、優しくあたたかなものでありますように。
僕はそう思いながら、彼女の腕に触れた。
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




