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【コミック⑥発売中】デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した  作者: 稲井田そう
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼に殺される主人公に転生した
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不在通知



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。





「ごめん……授業……間に合わなくなっちゃうのに」

 僕と元村エリの同行者は、中庭に移動した。授業が始まってしまったけれど、彼女にとっては好都合だろう。人に見られずに済む。僕も泣いている女子生徒と一緒にいるところを誰かに見られずに済む。

 薄情だなと思う。でも本心だった。たぶん彼女がただ落ち込んでいるだけなら同情できた。涙を目の当たりにすると、もう、傍にいる誰かが傷ついているのではなく災害に遭うような認識に変わってしまって、とにかくこの混乱に過ぎ去ってもらいたいという忌避感が勝つ。

「気にしないで」

 そんなこと出来やしないのに言う。辛い、苦しい、悲しい、許せない、すべて「気にしない」ことが最適解とされている。そんなこと出来ればやってる。それが一番難しい。「気にしない」ことが幸せの近道、なんてされているけど本当にどうすればいいのだろう。何でも気にせず済むなんて、もはや黒辺誠のようなサイコパスでない限り難しいのではと疑問が浮かぶ。

 でも、自分で口にしてよくわかった。

 それしか、ないのだ。

 気にしないでと言うほかない。何もないから、ありあわせのものでなんとかするしかないように、「気にしない」以外に手段がない。

「気にしないでって言われても、気にするだろうけど」

 僕は続けた。彼女は「ごめんね」と力なく笑う。

「エリちゃん、怒らせちゃった……」

「うん」

 元村エリは怒っていた。姫ヶ崎ゆりあに対しても、黒辺舞に対しても、そして今隣にいる彼女に対しても。

「仲良くしたいんだけどな……もう、駄目なのかな……」

「いや、間に合うんじゃない?」

「え?」

 彼女は目を丸くした。

 人間関係において、僕より手遅れな人間は見たことがない。それに。

「元村さんが怒っていたのは、味方してもらえなかったから……かもしれない、から」

 元村エリの機嫌が悪くなったのは、姫ヶ崎ゆりあを批判したとき、今僕の隣にいる彼女が同調しなかった瞬間からだった気がする。そこから、確かめるように黒辺舞の批判に移行した。たぶん、彼女が自分に同調するか、黒辺舞を使って試した。

「味方って?」

「言葉通りの意味というか……悪口を言っていたし、一緒に姫ヶ崎を悪く言ってほしかったかもしれないけど……第一に、ただ、聞いてほしかったんじゃないかな。姫ヶ崎を、悪く思ってること。陰口はいけないことだけど、なんていうんだろう、クラスで姫ヶ崎のこと、悪く思っちゃいけない雰囲気が、あるじゃん」

 黒辺誠が、姫ヶ崎に対して「姫ヶ崎のこと知ればみんな好きになる」と言ったらしい。黒辺誠の評価は、絶対だ。クラスメイトは高嶺の花ではなく、クラスの女子生徒として姫ヶ崎ゆりあに一目置くようになった。彼女に敵意を向けていた女子生徒たちも、手のひらを返し、彼女に化粧の仕方や美容法について聞いている。

 でも元村エリは違った。徹頭徹尾、彼女と距離を置いていた。

「元村さんは、姫ヶ崎が嫌いでも自分と一緒にいてくれるか、知りたかったのかも」

「そんな……エリちゃんが、誰をどんなふうに思ってても、友達なのに……!」

「でも、まぁ、好きなものが一緒じゃないと……つまんないとか、いるんじゃない? 僕は分からないけど……」

 クラスの人間たちが友達を形成していく過程を見ていたけど、野球部は野球部、サッカー部はサッカー部で集まる。そして試合があればその話をするし、テレビで試合の中継があれば翌日はその話だ。

 同じものを好きじゃないと、一緒にいられない。そんなことはないだろうけど、好きなものが共通していると仲良くなりやすいのは確かだ。

 同時に、嫌いなものが一緒で盛り上がることもある。共通の敵を見つけて排除することで団結することだってあるし、前の人生では何度か憂き目に遭った。

「あと、分からないけど、あなたは私の味方って言われても、安心できないとか……あるのかもしれない。友達だと思ってても、自分だけじゃないかって悩んだり、してる人はいるみたいだし」

 友達なんていたことがないから良くわからないけど、他人事として見ていた教室やネットで見る悩みを総括すれば、友達が作れる人間だって不安を抱えている。

「だから、元村さんのしたことはいいことじゃないし、どうしてそうしたかは元村さんにしか分からないけど……僕は、試したんじゃないかなと思う」

「そうかな……もう、嫌われちゃったかも……」

「だとしても……元村さんと友達になれたなら、他にも合う人はいるだろうし……」

「エリちゃんの代わりなんて誰もなれないよ!」

 彼女は涙をこぼした。ああ駄目だ。これだから僕は駄目だ。相手の意に沿うことが出来ない。共感性に欠けている。少なくとも元村という、若干攻撃的な人間と一緒に居られたのなら、他にも人と繋がれる。励ましたかったけど、彼女の悲しみは友達を失うことではなく、元村エリの喪失だ。

「ご、ごめん……元村さんを捨てろって言いたいわけじゃなくて……せ、世界中に嫌われたわけじゃないだろうからって、言いたくて……」

「あぁ……う、ううん、私のほうこそ……ごめん」

 彼女がハッとした顔で首を横に振ったあと、一度うつむき、沈黙が訪れた。

 人と関わると、こういうことが繰り返されるのかもしれない。

 そう思うと、疲れた。つくづく人間に向いてない。こんなことが繰り返される日常を送りながら、みんなどうやって仕事をしたり勉強をしたりして、普通でいられるんだろう。

 というか、田中ひろしとして生きるのであれば、今後もこんなことが続くのか。

 普通に、なれない。

 普通になりたかったし、実際、土台は整っている。あとは僕の心次第。なのに絶望的な気持ちになってきた。なれない、なれない、なれないと心の中で誰とも分からない声が繰り返される。

 僕は普通になれない。

「こんな風に……エリちゃんとも、誤解……があったりするのかな」

 ふいに彼女が呟いた。

「え?」

「さっきの田中くんの話、私勝手にエリちゃんなんかもういらないよって言われた気がして、でも、誤解で……田中くん、私のこと考えてくれてたのに、それ、私知らなくてさ……同じように、エリちゃんの知らないこと、あるのかなって……」

「ああ……」

「……私、エリちゃんと話、してみる」

 彼女は意を決した顔で僕を見た。

「それに、もう嫌われちゃったなら、嫌われちゃったらどうしようって悩まずに話が出来るかもしれないし」

 ──ずるいけどね。と彼女が続ける。

「まぁ」

 ずるいこと、なのか。どうせ嫌われてるからどうでもいいと話をすることは。

 考えていると、彼女は立ち上がり、「ありがとう、田中くん」と笑みを浮かべた。

「いや、僕は何もしてないよ」

「でも一緒にいてくれたし」

「泣いてたから、置き去りにはできない……」

 言いながら気付いた。女の子が泣く、というイレギュラーのせいで、田中ひろしの模倣を忘れていた。

「ありがとう田中くん。私ちょっと目冷やしてから教室に行くね」

 彼女は軽い足取りで去っていく。太陽に反射する白シャツの背中を眺めながら、駄目だろうなと気が重くなった。

 田中ひろしとして助言出来ていたら、主人公の言葉で事態は好転していただろう。

 でも僕の言葉で彼女が立ち直るのは無理だ。

 僕の言葉は、誰にも届かない。




本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

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漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


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