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【コミック⑥発売中】デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した  作者: 稲井田そう
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼に殺される主人公に転生した
77/87

今日が誕生日



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 ホームステイが終わり迎えた登校日。僕は学校に行く前に、徳川明日加と待ち合わせをした。

「おはよう! ごめん、寝坊しちゃって」

 田中ひろしのロールプレイ。一人自室で練習していた甲斐があって完璧だ。

 徳川明日加の好きな田中ひろし。変な中身の入ってない田中ひろし。

 だというのに徳川明日加は、どこか愕然とするように僕を見ていた。


 漫画のまま、田中ひろしとして振る舞う。

 暗い僕から適度に明るく、それでいて弱気で善良な田中ひろしに生まれ変わる。不良漫画にいるような激しい人間に変貌したわけではないし、そもそもクラスの人間は僕に関心が無い。ホームステイにより海外の文化に触れたこともあってか、正規品の田中ひろしはクラスの人間に拒絶されることなく浸透していった。

 しかし、想定外がひとつあった。

「調子はどう……? 連絡、取れなくて心配したわ」

 休憩時間、人気のない廊下で姫ヶ崎が声をひそめる。そばにいるのは黒辺誠だ。

 彼は体調不良を理由にホームステイを欠席した。

 黒辺誠を取り巻く回想に、ホームステイの場面はなかった。体育祭もだ。彼にとっては普段の授業も行事も変わらない。だから描写されなかった可能性は大いにある。

 しかし漫画と異なり、妹がトラックに撥ねられ、堂山が消え、黒辺誠は漫画よりずっと想像のつかない化け物として君臨している。

 姫ヶ崎との接触も、漫画にはない。

「体調が悪かったからね」

「……家には、一人だった?」

「家族がいたよ」

「それは妹さん……?」

「どうして?」

 黒辺誠が静かに問う。姫ヶ崎の質問は、本人の声音や調子により同級生としての心配に覆われているように見えるが、黒辺誠への固執した感情がちらついている。それを黒辺誠も気付いているらしい。姫ヶ崎の黒辺誠への想いはもはやクラスの誰もが認識していて、黒辺誠も受け止めているていで動いていたが、今の声音には明確な拒絶も含まれていた。

「いや……」

「悪いけど、先生に呼ばれてるんだ」

 黒辺誠は立ち去っていく。

 姫ヶ崎はばつが悪そうな顔で去っていく。

 黒辺誠の邪魔になった人間は消される。堂山のように。姫ヶ崎もおそらく例に漏れない。でも、丁度いい。黒辺誠が姫ヶ崎を邪魔に思っている間、徳川明日加が狙われることはないだろう。

 非情だろうが姑息だろうが、どうでもいい。誰がどうなろうと徳川明日加が生きていれば。

 そして傍観者は、僕だけではない。

「なんかさ」

 黒辺誠と姫ヶ崎のやり取りを見ていたのは、僕だけじゃなかった。

 元村エリとその同行者もいた。彼女たちは姿を隠すこともせず見ていたし、おそらく黒辺誠も彼女たちを認識していたと思う。黒辺誠が不愉快に思えば、きっと二人も消される。

「ざまあって感じ。姫ヶ崎ゆりあ」

 元村エリが言う。彼女は姫ヶ崎との相性が悪く、とうとうフルネームで呼ぶようになっていた。

「エリちゃん!」

 元村エリの同行者が窘める。

「だってさ、何でも持ってるじゃん。そのうえ黒辺くんまで狙ってさ、欲しがりすぎじゃない? 調子乗りすぎでしょ」

「何でも持ってるって言ったって、もしかしたら、何かあるかもしれないし……」

「何かってなに?」

「え……なんだろ」

「それに黒辺くんの妹まで嫉妬してる感じじゃない? 付き合ってもないのに」

 元村エリの言う通りだった。先ほどの姫ヶ崎の感じを見るに、彼女は妹にまで嫉妬をしている。義理で血が繋がっておらず、結婚できるからといえばそれまでだが、それはそれとして、異常にも感じた。

「確かに……行き過ぎたとは思うな……」

 元村エリの同行者も同じ所感らしい。

「まぁ、黒辺の妹もアレっぽいけどね」

「アレ?」

「ブラコンっていうか、黒辺、優しいじゃん? その分我儘そう」

「エリちゃん会ったことあるの?」

「無いけどさ、同じ高校行きたいとか言ってるって黒辺くん言ってて、引いた。中三でさ、いくら身体弱くてもお兄ちゃんと同じ高校行きたいってなる? キモくない? 姫ヶ崎ゆりあもヤバいけどさ、妹も相当でしょ。黒辺可哀そう」

「エリちゃん」

 元村エリの同行者がとうとう我慢ならないといった様子で声を荒げた。

「良くないよ、見てもないのに」

「は……? 前も姫ヶ崎ゆりあのこと言ったときそんな感じだったけどさ、何?」

「何って?」

「意味わかんないんだけど、普通そんなわざわざ良くないとか言う? 前から思ってたんだけど押し付けがましいよ」

「押し付けがましいって」

「そういうの、すーぐ聞いてくるの、キモい」

 そう言って元村エリは同行者を置いて去って行く。小学校からの経験則だけど、こうした軋轢は大抵戻らない。表面上仲直りをしても、ワンシーズン過ぎればグループの改変が起きるし、陰口の言い合いが始まる。この場合、元村エリが誰かを見つけ、一方的に悪口を言いそうだけど。

 でも二人はデスゲーム終盤も助け合っていたはずだ。姫ヶ崎の変化により、水の波紋のように影響が広がっているということか。

 元村エリの同行者は、くるりと踵を返す。目に涙を浮かべていた。可哀そう、とは思わなかったが、僕は声をかける。

「大丈夫……?」

「田中くん……」

 彼女は僕を見て、ダムが決壊するかのようにぼろぼろ泣き出した。ややこしいことになった、と胃と背中のあたりがもやもやする。普通は同情するのに、次の授業の始まりが気になる。

「えっと……どっか、行く? 場所変える?」

 このまま教室に連れていくのは酷すぎる。それは分かる。声を出せばより一層涙が出てしまうと耐えるように、彼女は静かに頷いた。

「じゃあ、えっと、俺の後ろについてきて、ください」

 僕は先陣をきって歩く。なるべく彼女の泣き顔を晒さないように。でも、堂山や黒辺と違い僕の身長はあまり高くない。田中ひろしのステータスはどこまでも平均値だ。平凡なんてモノローグで卑下していたけど、平均値が一番難しい。普通になれないこちらからしたら、それ以上何を望むのか、という気持ちになる。

 それは、元村エリが姫ヶ崎ゆりあに向けている感情と同じかもしれない。姫ヶ崎ゆりあの場合は持ちすぎているにも関わらずまだ求めるのか、という状況だけど。

 そして求めている先が黒辺誠、因果だ。ある意味、理にかなっているかもしれない。黒辺誠を得るなんてありえない、ましてや黒辺誠が誰かを求めるなんてもっとないだろう。

 それこそ、徳川明日加が田中ひろしではなく僕を選ぶくらい。

 それくらい、ありえない。

 徳川明日加と僕でたとえる自分に吐き気がする。



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


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