転生
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
結論から言えば僕らは三日間共に過ごすことが出来なかった。僕が担任ではなく学校に連絡してしまっていたことで、欠席の一報を受けた職員が疑いではなく明日加と僕だけでは心細いだろうと緊急連絡先である両親に電話をして、急遽僕の両親も明日加の両親も自宅に戻ることとなったのだ。
いわば心配の副産物。
そのためホームステイ予定だった残りの日数、僕は医者に診てもらい自宅待機、明日加も感染症の疑いにより自宅待機を余儀なくされた。
そうして僕は、登校日までベッドに横たわり、授業を受けずただただ明日加と僕、そしてデスゲームについて考えていた。
僕は明日加が恋しい。
同時に、僕は分不相応の期待を抱いている。
明日加は喋らずとも傍にいてくれたらいいと言った。その言葉に、僕は安堵した。
だから駄目だった。
徳川明日加は、僕を好きなわけではない。田中ひろしが好きだ。僕がたまたま関与している皮に恋をしている。
中身は僕。頑張ってようやく人並みに辿り着けるか運頼みで、空っぽで、暗く、暗いなりの面白さも持ちえない、どうしようもない僕だ。
この中身を理解したい人間も理解できる人間も誰もいやしない。好かれるはずがない。僕を好きな人間なんて現れない。一生だ。僕が僕である限り、僕は誰とも繋がれない。
にも関わらず、田中ひろしに恋をしている徳川明日加の言葉を受け、僕は安堵した。
たとえるなら、他人向けの贈り物を勝手に奪い取り、喜んでいるのと同じだ。なんて醜いことだろう。
徳川明日加は田中ひろしに恋をしている。原作の設定、さよ獄を1話でも読めばどんな人間でも理解できるはずの事象を、僕はすっかり忘れていた。
田中ひろしに向けられていた好意をあたかも自分に向けられているものだと誤認していた。
これでは漫画を全話読んだなんてとても言えない。ファンですと言いながら常時主人公の名前を間違え続けているようなものだ。失笑される。
徳川明日加と一緒にいる価値もなければ、田中ひろしとしてその恋心を享受できる資格はない。
そうして自分の愚かさを認めていると、渦潮のようにざわついていた心の内が、ふっと穏やかになった。
前の人生、大学進学について悩んでいた時もそうだった。
大学にまで行って、どうするのか。人生好転するのか。働いたほうがいいんじゃないのか。でも大学に行ったほうが人生は安定するんじゃないか。悩んでいるうちに、進路希望調査があって、母親に言った。
『えぇ~大学行くの? お金ないよ~大学行きたいなんて言ってなかったじゃん』
まるで夕食のメニューについて我儘を言うのと変わりない声音だった。
考えて考えて、疲れてもういいやと、大学を受けることにした。考えることは疲れる。人の気持ちを考えることはなおさらだ。
どうせ死ねばいいや。ずっとそれで生きている。どうせ死ねばいい。死にたいのだから。だから、生きていたくないわりにバイトも出来たし人と関われないのに接客業を選んだ。安定を求めて悩む割に、突然すべてがどうでも良くなるから。
どうせ死ぬんだから、どうせこの先生きていてもいいことなんてないんだから、もうどうだっていいや。
僕の人生、それがすべて。死んだ日もそうだった。
ダンプカーで女子大生が轢かれて、その日、一生懸命まとめたレポートにミスがあったことを教授から指摘されて、それが少しきつく感じて、頑張ってるのに、なんて報われないことが辛く感じて、報われない人生なのにこの期に及んでまだ期待しようとしている自分に気付いて、気持ち悪くなって寂しくなって怖くなって死のうと決めた。
悩むことに疲れた。
人っぽい振る舞いにも飽きた。
どうせ幸せになれないのに頑張ることが嫌になった。
報われたいから飛び降りた。
なのにただの自殺だと嫌だなんて変なプライドがあって、事故現場近くの歩道橋を選んだ。
死ぬ間際、死ぬことが怖いとか嫌だと思うことがなかった。
ああやっと終わる、という安心感だった。
ほっとしてふわっとした。
あの安堵が欲しい。
誰のことも考えたくない。
自分含めて。
僕が手を離せばいいだけだ。
徳川明日加の幸せに僕は必要がない。僕が手を離せばいいだけだった。最初からこうすれば良かったのにどうして彼女に好きだなんて言ったんだろう。
馬鹿みたいだなと思う。馬鹿みたいだった。
生まれてきたことも全部。
そのことに気付いたきっかけが、明日加への想いを自覚してなんてあまりに皮肉だ。
恋をしたことで、自らの命を水泡に帰した人魚姫よりずっと、愚かだ。
だから僕は、これを楔として、もう二度と思いあがることなく田中ひろしとして徹底しようと決めた。
演技なんてやったことがないし、結局のところ僕は僕だ。でも、やり切るしかない。それに数多の人間が未遂で終わらせ、時には失敗する中で、僕は自殺を完遂させた。
死のうと思うのならば何でもできるはず──そんな励ましの言葉に共感できたことは一度だってなかったけれど、今の僕には追い風だった。
一回死んだのだから、どうとも出来る。
今度こそ僕は僕を殺して、田中ひろしとして生まれる。
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




