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【コミック⑥発売中】デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した  作者: 稲井田そう
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼に殺される主人公に転生した
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水葬



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 館内を見て回って、昼食を済ませた僕らは、最後にイルカショーを見ることにした。ショーは、水がかかることも込みでイベントとしている。

 客席の前方には、濡れることを歓迎する小学生たち、その後ろでは、水にかかりたくないがショーは近くで楽しみたいという高齢者が集まっていて、どちらにも該当しない僕らは、客席ごと俯瞰するような後方の席に座っていた。

 イルカが泳ぎ、トレーナーのもと芸を披露している。

 イルカはトレーナーの指示を受けながらものびのびと泳いでいる。観客は魅了され、明日加もまた同じようにイルカに注目している。

 バスケットコートの中の明日加と同じだ。

 どこまでも自由で、輝いている。そういう明るさや華やかさが、僕は好きじゃない。好きじゃないのに目が逸らせなくて、明日加からそういった魅力がすべて消えてくれたらと願う。ここまで落ちてきてほしい。ありえない妄想が脳裏に絡みついて離れない。確かに幸せになってほしいのに、今の明日加を僕が幸せにすることはできないからと、凶暴で汚い独占欲が拭えない。

 羨ましい。

 明日加が眺めるイルカを見て、思う。明日加と同じ種族で羨ましい。イルカと人間は違うけど、同じジャンルで羨ましい。

 羨ましいのに、イルカになろうという努力が出来ない。



「あー楽しかった!」

 明日加は思い切り伸びをする。イルカショーが終わったあとも、僕らは観客席に座っていた。明日加は「どこか近くで泊ってっちゃう?」なんて言っていたけれど、高校生の男女が二人で泊れる場所なんて早々ない。24時間営業のファーストフード店だって、声をかけられて終わりだ。お互いの家には両親がいない。黒辺誠は海外にいる。だからもう、どうでもいい。

「なら、明日も水族館行く?」

「えー! やだ!」

「嫌なんだ。楽しそうにしていたから、てっきり」

 冗談のつもりだったけど、中々に強い拒否だった。ホームステイの終わりまでまだ日がある。一緒にいてもいいし、いなくてもいい。ただ明日加が望むことをしたい。考えていると、明日加がずっと僕を見て怪訝な顔をしていることに気付いた。

「どうしたの」

「なにかひろし、誤解してない?」

「誤解、なにが?」

「私、水族館が楽しいってわけじゃないよ」

「え……」

 予期せぬ言葉に頭が真っ白になった。明日加は水族館に執着を持っていたのではないのか。

「私はひろしと居て楽しかったんだよ! ひろしと行ったから水族館が楽しかったの!」

 明日加は僕を信じられないものを見るようにしている。

 僕はずっとしゃべっていない。ただ明日加を無言で見ていただけだし、明日加は明日加で一人で喋っていた。それに、適当な相槌をうつだけだ。いつもと変わらない。彼女の相手が面倒なんじゃなくて、下手なことを言って傷つけたくないし、僕の言葉で彼女を濁したくなかった。

「……楽しい?」

「うん」

「でも僕、今日、だいぶ黙ってたよ」

「一緒にいてくれるのが、いいの。喋らなくても、傍にいてくれたら」

 明日加は優しくこちらを受け止めるような雰囲気で、目を細めた。イルカが居なくなったプールでは、ゆっくりと波が流れている。

 恋しい。

 僕は明日加の横顔をうかがう。

 伏し目がちに視線を落としていることもあって、夕焼けの儚さに馴染んでいた。

 隣にいて、苦しくなるほどに強く思う。

 僕は明日加が恋しい。




 徳川明日加に報われてほしい。だって頑張っているから。可哀そうだから。最初は同情だった。

 哀れな自分から目を逸らして勝手に憐れんでいるうちはいい。

 なのに僕は、望んだ。

 始まらないデスゲームによる、終わらない明日加との日々を。

 気持ち悪い。期待なんてしても無駄なのに。こうして生きていることすら無駄なのに。

 生きることに僕は絶望的に向いてない。

 なのにどうして、他者との関わりが必須な人間として生まれてきてしまったのだろう。

 そして長谷の言う通り、この良くわからない空虚が寂しさなら目も当てられない。

 人といるのが得意ではないのに、寂しさを感じるなんて矛盾してる。

 殺してほしいなと思う。死ぬ気力も出ない。殺されたい。誰かに。そうすれば、同情してもらえそうだし、何より周囲にあれこれ気遣われずに済む。

 気遣う人間を期待している自分に吐き気がする。

 徳川明日加は悲しむだろう。田中ひろしの死を。僕の死じゃない。僕が死んだって悲しむ人間なんて一人たりともいないけど、田中ひろしの皮を被れば別だった。

 当たり前のことなのに、どうしようもなく受け入れられない。

 自覚して、僕は僕の終わりを悟る。





本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




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