どこにも行かない
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
5月31日から6月2日の2泊3日、オーストラリアのホームステイ。
それを待たずして、長谷が転校した。母親が倒れて手術が必要になり、経済状況が大きく変わってのことだった。
「ずっと悩んでいたみたいなんだ」
黒辺誠は視線を落とす。クラスメイトの突然の転校にショックを受けている表情、そのものだ。だからこそ恐怖を覚えた。
黒辺誠が、なにかをした。長谷の転校は漫画のシナリオにない。そして黒辺舞について話をしていた。長谷が黒辺舞になにをしたかは分からないが、デスゲームの計画に邪魔だったのだろうことは容易に想像できる。
そうした中、迫ってきたオーストラリアのホームステイ。
気が気ではなかった。デスゲームの開催が早まる可能性は十分にある。
ホームステイのスケジュールはこうだ。朝8時半に空港に集合し、9時半の便で発つ。そこから約10時間のフライトを行い、到着は20時。
僕は一緒に空港へ行こうと明日加を誘った。
「でも良かった間に合って。ひろし、全然起きてこないんだもん。びっくりしちゃった。初じゃない? 時差に合わせようとして失敗したんでしょ~」
最寄り駅のホーム。僕と明日加はベンチに座っていた。平日ということもあり、周囲は学生とサラリーマンでごった返している。転落防止のために設置されたホームドアがあるからか、ぶつかっても誰かを落とすことはないだろうと、我関せず突き進んでいる人もいれば、すいすいと隙間を縫うように進む人、様々だ。
「えっと、次に乗って……乗り換えがなくて直通だから……」
キャリーカートを横に置いた明日加がスマホを見ている。普段、予定時間より先立っての行動を心がけているけど、今日僕は明日加を待たせた。予定では3本ほど余裕をもった電車に乗るつもりだったけど、この電車に乗らなければ間に合わない。
「ひろしのお母さんとお父さんもひろし置いてうちのお母さんとお父さんと出発しちゃってたしさ、私と約束してなかったら危なかったね。なんだろう、虫の知らせだったのかな?」
僕の両親と、明日加の両親はホームステイに合わせ、一緒に旅行することになっていた。明日加の両親が旅行のペアチケットを2組買い、僕の両親を誘ってくれたのだ。
『まもなく、四番線に、特急、末無海公園行きがまいります。末幸、別治には、止まりません』
駅のホームで、軽快ながらやけに重苦しく響くメロディアナウンスが響く。
明日加は立ち上がろうとした。僕は前を見据えたまま、彼女の手を握る。さっきまで拳を握りしめていたから、汗ばんでいると思う。明日加は批判もせず、「ひろし」と問いかけてきた。僕は返事をしない。
『白線の内側にお下がりください』
アナウンスが繰り返される。
電子掲示板には、電車がまいりますと赤字で表示されているだろう。
僕は見ない。ただ前を見据える。
「ひろし、ねぇ、どうしたの」
電車がホームに滑り込むようにして、止まった。
僕は明日加を見ない。何も言わない。
「電車行っちゃうよ」
ただただ、明日加の手を握る。明日加は立ち上がろうとしない。
早く行け、走り出せ、早く行け、走りだせ、電車に向かって祈る。
時間切れを告げるメロディが響く。明日加はとうとう黙った。
電車が走り出してから、僕はゆっくりと彼女に顔を向ける。
ホームステイに行く気はさらさらなかった。行かせる気もなかった。
でもすべて伝えて反対されても、僕はどうにもできない。明日加をどこかに閉じ込めておけたらそんなにいいことはないけど、僕はデスゲームを開くことができる黒辺誠のような財力もなければ計画性もない。こうするほかなかった。
「明日加」
手遅れになってから、僕はようやく口を開く。
「行くの、やめない?」
もう取り返しがつかない。明日加の一年生の思い出をどぶに捨てたも同然だ。ついでに言えば、彼女のオーストラリアまでのフライトの費用や宿泊費諸々も水の泡、徳川家には顔向けできない。
明日加はじっと僕を見ていた。多分、僕が無言で明日加の手を握り続けている間もずっと。
「いいよ」
でも明日加の許しがあれば、十分だった。
今の僕に必要なものはそれだけだ。それ以外何もいらない。
不自然に電車のアナウンスが止まる。停車時刻の表示が不自然に消えた。
「葉山線で人身事故だって」
「マジかよいい加減にしてくれよ」
ホームに立つ人々が口々にいう。
「死ぬなら一人で迷惑かけずに死んでくれよ」
一人、掲示板を見つめるサラリーマンが吐き捨てるように言った。
誰か死んでいるかもしれない。
でも聞いたことがある。意を決してホームに飛び込む人間もいるけど、その遺品の鞄の中を調べると、とてもその日、死のうと思っていたとは思えない品物があったらしい。
旅行のパンフレット、誰かへのプレゼント、展覧会のチケット。
これがあるから生きていたいという自分への応援かもしれないし、未来を見ている状況であってもなお、嫌なことがあったのかもしれない。
もしかしたらこの世界から消えるつもりなんてなくて、突き落されたりとか、ぶつかって落ちて何も言えずに死んだのかもしれない。
何も知らない間、人の命が日々失われている。でも関心を持っていたらきりがない。
生きていけない。
本当はデスゲーム開催の阻止に努めるのが一番だろう。でも僕は、僕が守りたいのは明日加ひとりだ。
明日加がいればいい。
明日加さえ許してくれるならば、なにもかもどうでもいい。
誰が死んだっていい。
「明日加」
僕は彼女の名前を呼ぶ。
「水族館に行かない?」
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
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RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




