あの人が しい
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
「恋しい……じゃないでしょうか」
長谷が言う。
「恋しい?」
「そうです。名探偵長谷くん、実は人の心研究大学客員助教授サポーターをしてるので、分かります」
「知ってる難しい単語全部並べてるとかじゃないよね」
「バレた?」
ふははは、と長谷はまた笑う。
「人の気持ち大学院ぼっち専攻パリ部門の長谷くんとしてはね、一人と孤独は違うという定義なんですよ」
「一人と孤独は違う」
「はい。一人焼肉とか、一人カラオケとか、一人で部屋でじっとしてるのが好きな人はたくさんいらっしゃるじゃないですか。大人数が嫌いなパターンとか、うるさいのが無理とか諸説ありますけど」
僕だ。一人で、部屋でじっとしているのが好きだ。
「でもそういう人が皆、孤独が好きかどうかは別の話なんですね」
「別……」
「おん。孤独は、もう、書いて字のごとく、孤独です。無が好き。物語の人物も、何にも関わりたくない状態だと長谷くん定義してます。生身だろうがなんだろうが、何とも関わりたくない状態。悟りの境地です。一人というのは、一人の状態が好きなだけです。基本放っておいてほしいけど、誰かと都合が合って、波長が合えば、ちょっとした時間、一緒にいてもいい。でも基本寂しくない。一人が好きなわけなのです」
「うん……」
一人が好き。たしかにそうだ。
やがて長谷はどこか、自分の脆いところを自分でえぐるような、苦々しい面立ちで呟く。
「……なんかさ、子供会の集まりとか、ありませんでしたか」
「あったよ」
明日加との思い出がある。
「俺んちさ……母さんだけなのですよ」
長谷が告げた。
反応しないように努めた。告白の先、無限に繰り返される一瞬の空気を知ってるから。
自分から言ったりすることはないけど、二人そろっている前提で話をされたり、何気ないコミュニケーションで無限に繰り返される申し訳なさを帯びた気遣いと沈黙の、一瞬。
精一杯だった。
「で、母さんが働いてるので、俺は一人で地域のやつとか出るわけですが……一人で行ってるの、俺だけです。長谷くん家の中で一人は慣れてます。でも……そういう地域の集まりで、知り合い? とかいて、こう……うっすら気遣われつつ、ぽつん、みたいなとき、すげー虚無に襲われるんですよ」
長谷は「お菓子食えるけど!」と誤魔化すように笑う。でも目が笑ってない。悪意があるのではなく、無理に盛り上げようとしている。痛いほど分かった。空気を保たせようとしているのが。
「でも、母さん的には家で一人でいるより、楽しいだろって思ってるから、行かなきゃいけなくて……でも、小6とかは、自分の小遣いで、お菓子買って、行ってきた~って嘘ついてた、なんか、途方もなく、自分だけ遠くて、絶対、どうにもならないなぁって苦しくなるから」
「長谷」
「でも、そういう感情とはまた別の虚無がある。それが、恋しい。誰でもいいからそばにいてほしいじゃなくて、その人と、一人でいること、選べるならその人と一緒がいいとか、一緒でもいいかもしれない、という選択肢が生まれる、その過程で心が痛くなる。慣れてないから。一人好きの世界に誰かに励まされたいとか褒められたいという新たな選択肢が出てきちゃうから、虚無になったりする。開拓されてるわけです。ソロプレイヤーの心が」
長谷は普段よりずっと落ち着いた様子で話をしている。笑い転げている長谷、今の長谷、どちらが偽物というよりどちらも長谷な気がした。黙っていると、長谷はいつも通りの表情に戻る。
「わりーな。なんか相談のりたいのに、変な空気にしちゃって」
「全然」
僕は一切の気遣いをせず言った。長谷の望むものを、僕は知っている。
届くかどうかは、分からないけど。
「……黒辺の妹も、さ」
長谷が呟く。
「ん?」
どうして今、黒辺誠の妹の話を出すのか。
「母さんだけみたいなの、バレたっていうか……勉強会のとき、母さんと話してるの、見られて……俺焦っちゃってさ~、自爆したんだけど……結構、ふーんって感じで、それで、今、田中にも話して……」
長谷は少し照れくさそうに話す。へにゃり、と音がしそうな、朗らかさがあれど押し付けがましさのない明るい表情に、わずかな朱色がさして見える。
「恋しいを、学んだ」
長谷は切なげに呟いた後「ふははは」とわざとらしく笑う。
「黒辺に言ったんだよね。妹ちゃん、好きだって」
そんなこと、絶対駄目だ。叫びそうになった。相手が悪い。長谷が告白をして、それこそデスゲームの支障となる存在になれば、彼は消されてしまう。
「長谷──」
「変なこと話して、悪かったな! じゃあな!」
長谷は僕を置いて走っていく。追いかけたけれど長谷の足は速く、追いつくことが出来なかった。
そのあと、長谷は妹の話をしなかった。だから触れることも出来ずしばらくたったころ、クラスに激震が走った。
突然長谷が転校したのだ。
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




