思うまま
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
堂山は体育祭に向けた練習の準備をしようとして、休憩時間、体育倉庫に向かい、試合の得点を表示する電子スコアボードの下敷きになったらしい。
制限時間も表示できる高性能タイプで、ファウルなど違反の回数も計測可能、つまりシンプルな日めくりカレンダーのような得点表ではない分、重量も凄まじいもので、鍛え上げた堂山とはいえ人間の半身の機能を一瞬にして奪ってしまった。
入院期間は最短半年。クラスメイトの反応はといえば当初は驚き、だんだんと怪我の状態が知れてくると、直前の黒辺誠とのやり取りもあり、妹を軽んじた罰ではないかと言うものが出始め、日が過ぎると話題にすらならなくなった。
もはや堂山は僕以上に空気だ。それに拍車をかけたのが、黒辺誠本人の反応だった。
黒辺誠は練習に参加できない分、堂山に練習方法を助言していたらしい。その結果事故を招いてしまったのだと暗い顔をしていた。クラスメイトは彼を励まし、堂山本人も黒辺誠が気に病むことを望まず、クラス全員が参加しているトークアプリの部屋で、気にしてないこと、黒辺誠を責める人間が出ないよう釘をさしていた。
でも、僕は知っている。
堂山の事故の状況は、話を聞けば聞くほど、さよ獄で黒辺誠が仕掛けたトラップの再現だった。
漫画では電子得点スコアボード一台の倒壊ではなく、折り重なったアナログ式のスコアボードが犠牲者に降りかかった。被害者は元村エリ。堂山ではない。そして即死だった。死因は頭部外傷。詳細は簡単に説明できるけれど決して説明してはならないありさまだった。
黒辺誠は、デスゲームでクラスメイト全員を死に導いた。
しかし、何人殺すかにこだわっていない。その時、その瞬間、クラスに存在している人間をデスゲームに参加させたいだけで、わざわざ取っておくことはしない。
デスゲームが始まるまでに邪魔な人間がいれば容赦なく排除する。
痛いほど分かった。
「黒辺さ、今日遅れそうなんだけど勉強会行ってもいい? 補習入っちゃって……」
「全然問題ないよ、姫ヶ崎も大丈夫だよね?」
「どうして私に聞くのよ、黒辺くんのおうちでしょう?」
放課後の教室で、黒辺誠の座席に集う生徒たち。彼と話をしているのは、長谷と姫ヶ崎だ。テストが近くなり、連日黒辺誠の家で勉強会が行われている。参加メンバーは日によって違うみたいだけど、長谷と姫ヶ崎は大体いる──姫ヶ崎に関しては毎回参加しているようだった。
姫ヶ崎は、田中ひろしに幾度となく助けてもらったことから、感謝をフックにして信頼関係を築いていく。一方、黒辺誠は会話のみで親交を深めているようで、二人の仲は急速に近くなっている気がする。
姫ヶ崎を次の標的にしているのだろうか。
黒辺誠の目的が分からない。デスゲームを開くにあたって、姫ヶ崎の家の資金をあてにしている?
しかし黒辺誠のデスゲーム資金は、学校にある職員用パソコンを使い、教師しか利用できないサーバーにアクセス、周辺企業にフィッシング詐欺を働き意図的に送金させたものだ。本来職員用パソコンも教師しか利用できないサーバーも生徒は使えないが、黒辺誠を信頼する教師は多く、また手伝いとしてほかの生徒に見せられないようなファイルの整理をさせ、善意──偽りに違いないが、黒辺誠の見せかけの善意を利用する人間もいた。
その結果、黒辺誠は多くの資金を集め、デスゲームを開いた。大胆な犯行だが、黒辺誠が自分で選んだ結末を思えば、犯行の発覚は視野に入れており、デスゲームを開く邪魔にすらならなければそれで良かったのだろう。
どうせ、死ぬ。
引き返す気がなかったからこそ、後戻りできない道を選んだ。
退屈を紛らわす、一瞬を求めて。
「ひろし」
黒辺誠と姫ヶ崎を眺めていると、こつん、と机を指先でつつかれた。明日加だ。教室で話しかけてくることは、初めてだった。みんなの前で、田中ひろしの名前を呼ぶこともだ。
「どうしたの……?」
色々な意味でどうしたのか。問いかければ、明日加は僕を見下ろすように見つめる。
「な、なに」
「テスト前で部活休みになったからさ、二人で勉強しようよ」
「いいけど……」
「じゃあ、行こ」
そう言って明日加は僕の鞄を掴む。あまりに大胆な行動にどきっとして、「あ、明日加」と思わず声が上ずり、しまったと気付く。明日加を名前で呼んでしまった。周囲の様子を慌てて窺うけれど、みな黒辺誠と姫ヶ崎に注目していて、僕の発言には気付いていないようだった。
「誰も見てないから大丈夫だよ」
明日加が試すように言う。どことなく不機嫌そうな気がして、何か不快なことを言ったのか、それとも不快な態度を取っていたのかとより焦りを覚える。
「……それに、みんな姫ヶ崎さんのこと見てるしね」
流すように視線を動かす明日加の眼差しは、昏く、冷たかった。
明日加が勉強場所に指定したのは、高校のそば、公民館の自習室だった。
環境問題、エコのポスターが張り巡らされているその場所は、「まずはこの場所から! 日没でないのなら照明なんていらない!」と主張するように薄暗い。冷房がなく雨が入り込まない程度に開かれた窓に、鬱陶しすぎない湿度と雨の匂いがする室内で明日加は呟いた。
「体育祭やらなそうだよね」
「うん」
雨により、体育祭が延期になり、振替日も雨になった。二度あることは三度あるというが、次に雨が降れば、今年の体育祭は中止になる。
堂山がいなくなったことや、体育祭が少なからず起因していたことで、うちのクラスの体育祭への熱意や盛り上がりは地の底にまで落ちていた。それに拍車をかけるように雨が続いていることで、皆、体育祭より後のテストを見越している。なにより黒辺誠の勉強会が、そこまで近づいていないテストの存在感を強め、体育祭の重要性を薄めていた。
「明日加はどう、体育祭、やりたい?」
「私はあんまり興味ないかも。中学の頃はひとりひとり鉢巻きとか巻いてたけど、高校はそういうの無いじゃん」
誰が何組か、クラス対抗種目での識別用の鉢巻きは、小学校と中学校とあった。鉢巻きは出席番号がふられており、好きな人と交換すると両想いになれる、なんて言われていた。
鉢巻き交換をしあえる段階で十分両想いだろうと思うが、田中ひろしと徳川明日加は漫画の中で互いの鉢巻きを交換し合ったうえで田中ひろしは姫ヶ崎を選び徳川明日加は一人で死んでいる。
田中ひろしの鈍感性は本当に酷いもので、鉢巻き交換の意味を知らなかった。
徳川明日加の言うことをなんとなく聞いただけにすぎない。徳川明日加の走馬灯回想でそのあたりの場面が取り上げられていた。徳川明日加は田中ひろしと鉢巻きを交換した後、『鉢巻き交換の意味って知ってる?』と一縷の望みをもって問いかけたが、田中ひろしは『全然知らない、教えて?』と無邪気に答えたのだ。鈍感さは度を過ぎれば凶器になる。想いは口にしなければ伝わらないというが、口にしたところで伝わらない場合も無限にあるのだ。
徳川明日加はその後、田中ひろしに意味を伝えることはしなかった。自分の気持ちを伝え、関係が壊れることを恐れたのだ。
姫ヶ崎ゆりあと出会う前、中学生の田中ひろしであれば、押せばどうにかなりそうだったが、高校の夏、すべてが手遅れになった。
徳川明日加は命がけの初恋を守り抜いた果てに、科学室の水槽を眺めながら「鉢巻き交換の意味は」と、呟き、息絶える。
最期まで好きだと、言うことはなかった。
幼馴染の関係に甘んじた自業自得という読者の声もあったが、読者は徳川明日加の末路を知っている。しかし徳川明日加視点だと自分の人生が高校一年生の夏に終わる想像なんて出来るはずもなく、未来を見ていた。自分の気持ちを打ち明けられずとも無理はない。
「交換してって、言えば良かったかも。こうして、一緒にいられるって分かってたら」
明日加が僕を見る。
僕と明日加は、漫画と異なり鉢巻き交換をしていない。
「そっか」
「っていうか、ひろし、私のこと好きなら鉢巻き交換しないって誘ってよ」
「自分だって誘わなかったのに?」
「だってやだって言われたら嫌だもん」
「僕だって嫌だよ、断られたら、勝手に傷つく」
僕は視線をそらす。田中ひろしっぽくない言い方だった。
壁には私語厳禁という張り紙も環境問題の啓蒙ポスターと並んでいるが、部屋には僕と明日加しかない。遠くに見える受付は電気がついているが、誰もいない。
さらに奥の事務室には施設を管理している初老の男性の姿が見えるものの、饅頭を食べながら地域広報を読んでいた。こちらに関心がないのがありありとわかる。
「ねぇ、夏休みどこか行かない?」
「え」
「二年になったら、大学選びとかで忙しくなるだろうしさ、三年生は受験でしょ? だから今のうち、どこか行きたい」
「あぁ……」
確かに明日加の言う通りだ。二年生になれば大学受験に向けて色々忙しくなる。高校の夏を満喫出来るのは今のうちだ。
色々な意味で。
僕らは、生きていけないから。二年生になることはない。黒辺誠のデスゲームにより、死ぬ。二年生の夏どころか、九月を迎えることも出来ない。
「明日加は行きたいところある?」
「え~っとね、夏ってところがいい。夏祭りに、花火大会! あと、海とか!」
「じゃあ、全部行こう」
「え、いいの?」
「もちろん。明日加が行きたいところ、全部行こう」
僕は微笑む。けれど、明日加はなぜか不満げな顔をした。
「明日加……?」
「ね、ひろしの行きたいところないの?」
じっと、試すような目で見つめられる。またこの瞳だ。いつもきらきらしている浅瀬のような明日加の目が、陰りを帯び、深い海の底を覗き込んでいるような、そんな気持ちになる瞳。
「明日加の行きたいところがいいと思う」
「どうでもいいってこと」
「違うよ。明日加に楽しんでもらいたいから」
「私はひろしがいるならどこでもいいもん」
だろうなと思う。徳川明日加は田中ひろしのことが好きなのだから。命をかけて守るほどの愛だ。
でも僕は違う。僕単体では、明日加を楽しませることが出来ない。
「ずっと……黙ったままでも?」
意地の悪い質問だと、言いながら思う。どうして聞いたか分からない。衝動的だった。声にした瞬間しまったと思ったが、もう取り返しがつかない。
しかし明日加は「もちろん」と即答した。
「一緒にいたいんだよ。話がしたかったら話すし。一人で行きたくないから誘うんじゃないもん。っていうかひろしさぁ、わりといつも黙ってるじゃん。小さいころから。今更だよ」
ふてくされるように明日加は言う。
なんだか、ほっとした。自分でも不思議なくらい。
その理由を、いつものように考えて考えて、答えを導き出してしまえばすべてが終わる気がして、思考を止めた。
僕はしばらく黙った後、壁に張られている海の環境保全ポスターを差す。
「水族館……とか、どう」
僕は徳川明日加の走馬灯を思い出す。彼女は小学校の頃に行った水族館で、デートがしたいと願っていた。
限りある時間、僕は出来る限り、彼女の想いに沿いたい。
明日加の望みを叶えて、生きたい。
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




