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【コミック⑥発売中】デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した  作者: 稲井田そう
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼に殺される主人公に転生した
69/87

犠牲者



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 体育祭が近づき練習の重要性が高まる中、比例するように悪天候が増えていた。堂山が目に見えて焦っていて、最近では朝練習をしようと話をしているらしい。

 晴れていたらどうなっていたことだろう。

 古文の授業を教室で受けながら、雨粒を纏う窓に視線を移す。

 この時期に降る雨の名前は色々あるらしい。春雨なんてストレートなものから、桜雨に花時雨、催花雨と、春に咲く花にちなんだもの。

 そこから派生して、古文の授業では女の子を花に例える慣用句についての話があった。

 花も恥じらう、両手に花、とか。

「しかしながら、落花流水という言葉があるように、男を花で例えることもありますから。結局のところ、好きな女を花で例えた人間が、たまたま昔は多かっただけかもしれませんね」

 投げやりながらそう教師はしめくくり、授業が終わった。僕は自分の席に座ったまま、教室を眺める。

 流水。

 昔の言葉は、水が流れていく様子を示したものが多い気がする。流れない水は腐敗していくばかりだし、腐った水の描写をする詩人は極めて少ないだろうから当然だけど。

 それに流れる水に何かを浮かべれば、近づいたり離れたりするさまを気持ちや人間関係にもたとえられる。万能だ。人は水なしに生きられないし、いつだって必要なもの。イメージもしやすい。世界中、どこでも繋がれる。

「まさに高嶺の花って感じだよね」

「ね~」

 傍の座席で、元村エリが、ショートヘアの女子生徒と話をしている。ひそひそ声で、周囲に聞こえないよう気を配っているが、僕という存在を認識していないらしくこちらにはよく聞こえる。田中ひろしと違い、僕はどこまでも透明人間だ。

 存在感がない、いてもいなくても同じ。そんな特性を生かして、僕は教室の観察を続ける。

 入学式と比べ、教室の人間関係は流水のごとく絶え間なく、くっついたり離れたり移り変わっていた。

『案外、入学式最初の集まりって、違くない?』

 明日加の言う通りだった。特に女子生徒たちが顕著だ。勉強や移動教室で一人にならないため、いじめられないため──いわば自分を守るための相手を知ったうえでの人間関係は消失し、再構築が行われている。

 元村エリと池田まゆも例に漏れない。

 関係解消の果て、それぞれ気を知ったうえで一緒にいる相手を見つけていた。それでいて、互いを認識しようとしない。お互い授業で必要があれば話をするけど、それ以外はぱったりと交流を断じている。ほかの皆も同じ。

 前からこういう空気が苦手だった。

 みんなは、一時的にでも一緒にいる相手、そしてその後に気の知れた相手を見つけられるけど、僕にはその能力がない。

 それに。

「でも、羨ましいよ。顔が良ければ協調性なくてもクールビューティーとか言われるんだから」

「本当だよ。こっちが挨拶しても、どうも、みたいな感じで迷惑そうにしてくるし、あれ私がやったら許されないもん」

 元村エリと女子は密やかに盛り上がりながら、自分たちの前方にいる女子生徒を見る。

 姫ヶ崎ゆりあ。

 一匹狼、クールビューティーという言葉で紹介されることの多かった、さよ獄のヒロイン。

 誰に対してもそっけなく、女子からはああいう形で距離を置かれ、男子生徒からは羨望の眼差しを集めるが、人嫌いというわけでもなく人付き合いが苦手なだけだ。

 資産家の両親のもと厳しく躾けられた彼女は、他者との交流は甘えに繋がると考えており、融資を狙い自分に近づく人間たちもいたことで、心を閉ざしていた。

 そしてデスゲームに巻き込まれ、田中ひろしにより何度も命を救われたことから、徐々に心を開いていく。最初は「あの」「ねぇ」と名前も名字も呼ばなかったのが「田中くん」に変わり、最初こそ助けてもらった田中ひろしの邪魔はしないものの、無視したり静観することが多かったが、漫画の後半、田中ひろしが窮地に立たされた時に彼を助け、「ひろしくん」と呼び方を変えた場面は、多くの読者がさよ獄の好きなシーンとして上げる名場面のひとつだ。

 田中ひろしは、姫ヶ崎ゆりあに一目惚れをしていたらしい。

 一目惚れ。良くわからない感覚だ。男は視覚の発達が女性より優位だから、目で恋をするというけど、女性のほうが色彩を認識する能力が高い、と研究されているような記事を見たことがある。それにアイドルヲタクは男女それぞれいる。

 僕は姫ヶ崎ゆりあを見る。思うことがない。あることをのぞいて。

「姫ヶ崎」

 もくもくと自習をしている姫ヶ崎ゆりあに声をかけるのは──黒辺誠だ。

「黒辺くん、どうしたの?」

「先週出された作文の課題、姫ヶ崎はどうしたのかなと思って」

「どうしたって……きちんとやったわ」

「あはは、どんな題材を選んだか気になったってことだよ」

 冷ややかな姫ヶ崎に反し、黒辺誠はにこやかに話をしている。

 姫ヶ崎に関心を持ち、話しかけに行く男子生徒は同じクラスだけではなく、学級委員会繋がりで2年生、3年生の先輩たちもやってくるけど、姫ヶ崎は距離を取り、壁を作り上げ、向けられる好意を徹底的に拒否していた。

 理由は姫ヶ崎の性格もあれど、女子としての処世術らしい。ネットで読んだ。向けられる好意は潰すくらいにしておかないと、変な人間が勘違いしたり、期待するらしい。

 とはいえ徹底しすぎると逆上されるため、さじ加減が必要で、いい塩梅を狙わなくてはいけない──というところまで見たけど最終的に「オスは皆死ねばいい」と強い主張が視界に入り、悪いことをする人間が悪いじゃ駄目なのかと、色々思考が止まらなくなって読むのをやめた。

「黒辺くんも姫ヶ崎ゆりあが好きなのかな」

「最近話してるよね」

 元村エリたちの話し声に、棘がまざる。

 僕が姫ヶ崎に思うことこそ──姫ヶ崎ゆりあと黒辺誠の関係性についてだ。

 最近、二人がよく話をしているのを目にする。お互い先生から能力を買われたことで、学級委員になることを強いられた、というのもあるだろうが、どちらかといえば黒辺誠が近づいているように見える。その距離の詰め方も、自然だ。ほかの男子生徒は人間と人間の関わりを欲し、拒絶されている。黒辺誠もまだ受け入れられては無いだろうが、黒辺誠が一枚上手であり、主導権を握っているように見える。

 姫ヶ崎ゆりあと、黒辺誠。

 漠然と、ペットと人間という言葉が浮かぶ。実際黒辺誠に恋愛はおろか性愛の感情はないだろう。

 何を目的として姫ヶ崎ゆりあに近づいているのだろうか。

 デスゲームに参加させるため……?

「未来科学にしたわ」

「あ、じゃあ俺と一緒だ。姫ヶ崎も科学好きなの?」

「環境問題は受験の時にしたから、日常を題材にするのは、受験対策で、嫌というほどしたし、消去法よ」

「あぁ懐かしいな。結局受験で出たの、大気汚染問題だったよね」

 黒辺誠が言い、僕はぐっと喉が詰まるような錯覚がした。

 作文──いや、文章を書くことが、嫌いだ。元々じゃない。

 田中ひろしとして生きるようになってから。

 中学校三年生の冬のこと、高校受験対策の授業が始まり小論文を書く授業があった。テーマは好きなものについて、という風変わりなものだった。

 本来受験の小論文は社会問題や国際問題、環境にまつわることだが、ある種テンプレート化されており、対策されつくされている。それを憂いた高校側が本来の生徒の能力を知りたいと、あえて自己紹介的なテーマを出したらしい。もはや暗記レベルで小論文を頭に入れた生徒は大混乱に陥り、合格確実と言われていた生徒が軒並み落ちる──なんてことが起きたのが僕らの前の代で起きた。

 そのため、好きなもの、とシンプルなテーマで小論文を書くことになったけど、僕にはこれといって好きなものがなかった。適当に古文や歴史など、受験ウケがよさそうなものを選ぼうとしてみたけれど、明日加がバスケを選ぶさまを見て、やめた。

 そして選んだ題材は、好きなものではなく他人の好きなものについてだった。いわゆる、女の子らしいものが好きな女の子と、女の子らしいものが好きじゃない女の子について。

 結論は女の子らしいものが好きじゃなくても、別に誰も困らないのだから好きでいい、というものだったけど、教師から女の子らしいという表現はどうなのか、差別的だと言われた。

 フリルやピンクを好まない明日加みたいな女の子もいて、でもフリルやピンクを好む女の子もいるし、フリルやピンクの女の子らしさに憧れる男もいる──それを伝えたかったけれど、教師はフリルやピンクを女の子らしいとすること自体アウトらしかった。

 色々伝えたいことを言ってみたけど、どうにもならなくて、どうしたら伝わるか色々考えていたら何も浮かばなくなって結局題材ごと捨てた。

 昔の思い出に囚われていると、「やばい!」と長谷の声が響いた。自然と視線が向く。クラスの皆もそうだった。長谷の声は大きいし響く。でも、嫌な注目の集め方じゃない。馬鹿やってるなぁ、というのんびりした感じだ。見下してるというより、のんびり構えられている。本人にとっては、緊急性があるだろうけど。

「お前のやばいは聞き飽きたわ、なんだよ今度、あれか、お前の好きなコンポタ味のポテチでも出たんか」

「違うって! 堂山! 大怪我! 体育倉庫の下敷きになったって……!」

 その言葉に、しん、と皆が静まり返る。

「……いつ?」

 しかし一人だけ、すぐに反応を示した生徒がいた。まるで、知っていたかのように。

 黒辺誠だった。





本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

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漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

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