波大抵
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
しん、と一度静まり返った後、「すっげー!」と男子たちの声が響く。女子たちは声を発さず、黒辺誠に見惚れている。
黒辺誠は中学での表彰経験や、新入生代表挨拶に選ばれたことからも、優秀な人間として有名だった。英語教師が黒辺誠を指名し、難題をつきつけ間違えさせたうえで解法を教える──なんて授業の進め方をしようとしたときも、黒辺誠は平然と最適解を示してみせた。
だから、黒辺誠は一目置かれるどころか、入学早々圧倒的な立ち位置にいた。
けれど決定打はこれだったんだな、と思う。さよ獄に描写されていないだけで。
性格がよくて優しいという要素で注目が集まることはない。
皆、能力に惹かれる。才能に惹かれる。結果だ。地道にこつこつ、なんていうけれど結局派手なものが勝つ。地道に頑張っていても、それが当たり前にされるしそれが報われるとも限らない。
なのに何にもなれないものも、何も持ってないことも許されない。派手で華やかで明るいものにならないと大切にされない。
「ありがとー! 黒辺! 助かった! めっちゃごめん! 痛かったよな」
長谷が言う。
「ううん、それより長谷、壁とかぶつかってたけど大丈夫だった?」
「まじでロケットになったかと思った」
「あはは」
黒辺誠が笑っている。楽しくないだろうけど、周囲も笑っているから合わせている。
でも、黒辺誠が心から笑うのは、許されないことをしているときだけだ。
体育を終えた僕は、廊下に立っていた。
栄嶺高等学校は、教育重点校──いわば生徒が一定の学力をもち、学校側も発展的な教育の場を受けられる設備を整えた高校として国の指定を受けている。
そのため、周辺の状況に加えほかの高校より広かったり、最新の設備があったりするけど、その代償として教室と教室の距離があったり、移動が大変だったりする。
そして僕らの教室から男子更衣室は近いものの女子更衣室は遠い。男子は男子更衣室で、女子は教室で着替えることになり、僕は廊下でほかの男子たちと一緒に女子の着替えを待っていた。体育が終わっても黒辺誠の話題性は相変わらずで、さながらヒーローとして男子たちに囲まれている。
僕はそっと群れから離れ、スマホを取り出す。
『虹月丘連続殺傷事件』
今から一年前、黒辺誠の住んでいた地域で発生していた連続通り魔の事件だ。被害者は少女から女子大生とすべて女性。犯行中、第三者に発見された場合をのぞき、被害者は手首や足首、頭部に顔の一部を切り取られるなど。残虐な犯行で地域を震撼させた。
犯人は、黒辺誠とは無関係の男。さよ獄の漫画では語られていない、無から湧き出た殺人鬼。
さよ獄とは別にもともといたのか、さよ獄でもいたが描写されていないのか、なにも分からない。
しかし、黒辺誠と関係している。
僕は空色中学──黒辺誠の出身中学を入力し、刺傷と物騒なワードを追加で入れる。
『女子大生刺傷 虹月および星見伏連続通り魔の関連性』
ヒットしたネットニュースの文字列を目でなぞる。
タイトル通り、女子大生が男により切りつけられた事件だ。そして、連続通り魔の犯人による最後の事件でもある。
被害者は野島さやか、21歳。教育実習生として黒辺誠の中学──空色中学で研修中、参加していた生徒会での朗読会が中止となり、学校から帰宅となったところを襲われたらしい。ニュースサイトに掲載されている公式配信には、犯人が逮捕される様子とともに野次馬が映っているが、そこに黒辺誠の姿がある。
『空色中学 朗読会』
続けて検索すると、幼稚園のホームページのブログがヒットする。
空色中学生徒会による朗読会は、毎年の恒例行事らしい。去年以外はすべて幼稚園で行われていた様子だった。
そしてネットニュースを読むに、朗読会は学校で行われている。
おそらく理由は、近隣で通り魔事件が多発しているからだ。事件が起きている中、中学校の生徒の身も幼稚園生の身も危ない。
その采配は正しく、近くで女子大生が襲われた。
僕は次にSNSサイトを開き、空色中学の生徒を調べていく。ネットで個人が特定されるようなことを書かないなんてプリントが定期的に配られているけど、どんなに危険性を訴えたところで書く人間は書く。
『野島やば』
在校生による鍵アカウントとの会話だ。鍵アカウントは発言こそ公開されないものの、話をしている相手が公開アカウントであれば話の内容は予測できる。おそらく鍵アカウントが誰、と言ったのだろう。『教育実習生だよ』と返事が続く。
『男子にえこひいきしてたり、会長の妹が作ったもの勝手にとってくビデオ流れて途中退場してった』
『じゃあ教師になれない?』
『やらかしても先生になれるんだ』
おそらく、鍵アカウントと野島さやかの進退について話をしている。ここから分かるのは、野島さやかが朗読会で帰宅するようなトラブルに見舞われ、意図せず早期帰宅を余儀なくされたことだ。
そして通り魔に狙われた。
生徒会長は、黒辺誠。会長の妹は、黒辺舞。通り魔を焚き付け連続通り魔を起こしたか、野島さやかが邪魔になって殺させようとしたか。
もしくは、ただ殺戮の衝動か。
黒辺誠には、殺戮への極めて強い欲求がある。慢性的な退屈感や日常への閉塞感はサイコパスの傾向として見られるものだが、殺戮欲求および人の命を奪うこととサイコパスであるかは別問題だ。
猟奇殺人や大量殺人を行う者をサイコパスだと称する人間は多いが、実際のところサイコパスの素因を持つ者が、良心の欠如による行動の多彩化、衝動性による実行性のため殺戮を行いやすいだけで、サイコパスが必ずしも殺戮に興味を抱くかは異なる。
たとえば、人を騙すことに強い関心を持つサイコパスは、周囲の人間関係を壊すだけにとどまり人の命を奪うことに興味を抱かない場合もあるし、支配を好む人間は共感性の薄さから合理的な判断を求められる現場で、法や倫理に守られた形で活躍している場合もある。知能指数が低ければ、問題を起こす暴力的な人間として扱われ、人生が始まりすぐ法の下、生涯の大半を懲役の消化で終えることもあるだろう。全員が全員、四肢や五感に不便なく生まれてくるわけではない。
しかし、黒辺誠の場合は異なる。
元来の知能指数の高さ、身体能力、すべてにおいて完璧な状態で生まれた。家庭内の経済状況、教育への投資状況、両親の彼への思想、周囲の環境、人間ひとりが育つ上で、なにも、問題はない。むしろ恵まれている。
そのうえで、サイコパスの素因が重なった。
人間が一生を始めるにあたって最高の環境で、惨劇を作り出す彼が完成した。
どうにかならなかったのかと思う。それだけ持っていたら、一つくらい諦めてもいいだろうに。大量殺人なんてせず、普通に生きればいいのに。
でも、普通に生きられない僕が言うのもおかしいかと考え直していると、スマホに通知が入った。
明日加からだ。
『今日一緒に帰らない?』
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




