臨廻点
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
到着したのは、普段授業を受ける本校舎と渡り廊下で繋がっている、科学室や美術室など特別授業が行われる特別棟の広場だった。人の気配がなく、本校舎から流れる昼の放送だけが微かに聞こえる。
「調理実習、何も食べてなかったでしょ」
二人で渡り廊下そばの段差に腰掛けていると、明日加はラップに包んだポテトと半分の白身魚のフライを僕に見せた。
「あ……」
どうやら半分取っておいてくれたらしい。
「ありがとう……でも、明日加はお腹すかないの? 部活もあるのに」
「部活のあと、お菓子とか食べるし、それにバレンタインくらいしかひろしに作ったりしなかったな~なんて思って。ほら、彼女になったわけだし? まぁ調理実習だから私だけが作ったわけじゃないけどね」
いたずらっぽく明日加が笑う。
「長谷褒めてたじゃん」
「え、見てたの?」
意外そうに明日加が聞き返す。
「長谷声大きいから、聞こえるよ」
「明るいよね長谷、小学校の頃の……名前出てこない、3年の頃の隣のクラスの先生いたじゃん……」
「小島?」
「そう! 小島先生くらい声大きいよね」
明日加は微笑む。懐かしいなと思う。田中ひろしとして生まれて僕として生きているから、小学校中学校とおそらく田中ひろしらしい過ごし方はしてないけど。
「あ、ほら食べたほうがいいよ。ゆっくり食べれなくなっちゃう」
「あ、うん」
僕は白身魚のフライを食べる。
「時間たってるから、ふにゃっとしてるかもだけど」
ラップに包んでいたぶん、水分で柔らかくなっているけれど、ところどころ揚げたての名残がある。
「おいしい」
「そう? 良かった。実は衣にちょっと塩と胡椒混ぜてるんだよね」
「隠し味ってこと」
「うん。お母さんがやってるから」
明日加はどこかほっとした顔をしている。
──ゆっくり食べれなくなっちゃう。
昼休憩のうちに食べたほうがいいと誰かに伝えるとき、たぶん、「終わっちゃう」といった言い方をする人間のほうが多い。前の人生、小学校で同じ人が連続して担任になることはなかった。給食の時、六年間、六人の教師から急かされ続けたけど、「休み時間が終わるよ」
「授業始まっちゃうよ」だった。
──ゆっくり食べられなくなっちゃう。
明日加と話しながら、明日加の言葉が頭の中で繰り返される。ゆっくり食べても、問題ないとしてくれてるみたいだ。
もう箸の持ち方は覚えてるし、飲み込むように食べることもない。だから、もう速度なんて関係ない。明日加はただ、田中ひろしに言葉をかけただけだ。
「ありがとう」
僕は徳川明日加にお礼を言う。
「そんなしんみりお礼言われることじゃないけど? やめてよ、調理実習のだし、半分こだし」
「嬉しかったから」
「なに? やだ! そういうのもっとちゃんとしてるの作ってるときに言ってよ」
明日加は手をぶんぶん横に振る。
「ちゃんとしてるのってなに?」
「え……フルコースとか?」
「フルコース……?」
思案の果てに突拍子もない答えが飛び出してきた。
「フィッシュアンドチップスも、ちゃんとしてるでしょ」
「えぇ~調理実習だもん」
明日加の謎のこだわりに、戸惑っていれば、彼女は「決めた!」と僕を改めて見る。
「デートの時、私お弁当作ってくるから、そのとき、ありがとうって言って」
「いつでも言うよ」
そういうと明日加は「やだ!」とふざけながら笑う。やけに子供っぽい振る舞いにおかしくなりながら、僕は彼女と過ごした。
夏休みが始まるまで、行事は4つある。中間テストと、体育祭、オーストラリアのホームステイ、そして期末テストだ。
体育祭は、高校進学のときのパンフレットに文化祭とならぶ学生生活の二代行事として取り扱われていたけれど、直近に中間テストもあり栄嶺高校ではそこまで重要視されていない。体育祭委員として運営に関わるならまだしも、一般生徒は体育祭近くの体育が、種目であるリレーや騎馬戦になる程度だった。
そして四月現在、体育祭の練習をするにはまだ早いが、しばらくすれば体育祭の練習になるので迂闊に何かを始められない、なんてカリキュラム都合と行事都合が直撃した体育は、バスケットボールが行われていた。
男子と女子は分かれているけど、体育館はバスケットゴールが4つあり、壇上側では男子が後方側では女子の試合が同時展開されている。
そして明日加は水の中を自由に泳ぎ、なおかつ舞うように飛ぶイルカのように、縦横無尽にコートを駆けていた。ドリブルをしながら走っているのが嘘みたいだ。それに男女問わずほかの生徒がドリブルをした後、ゴール近くで立ち止まりシュートをする一方、明日加はゴール下まで加速したまま流れるようにボールを投げるし、ボールは吸い込まれるようにリングに入っていく。ショーを見ているみたいだし、実際、明日加とほかの女子生徒の実力に差がありすぎる。味方の女子たちも分かっているのか、自分にボールが来るとすぐに明日加に回していて、体育の授業というより徳川明日加のバスケットショーとして垂れ幕でも下げているほうが最もらしい。
そして男子側も男子側で一方的な試合が繰り広げられている。
「黒辺と堂山一緒のチームにしたの誰だよ」
「先生じゃん? 四月だし適当にチーム組ますとぼっち出るから」
「これ十分適当に組んでるだろ。どうにかなんねえのこれ? 黒辺助っ人に貰えない?」
「まず黒辺たちに勝たないと黒辺貰えないだろ」
「無理じゃん」
同じクラスの男子たちが呆れながら言う。男子たちはサッカー部だ。一定数のコミュ力と運動神経を持たないと、サッカー部には入れない。いわば精鋭。帰宅部の僕から見ても一方的な試合が繰り広げられていると分かるのだから、彼らから見ればなおさら一方的だと分かるのだろう。
「つか堂山がこえーわ。ブロックの勢いどうなってんだよ。あんなん反則だろ」
「体育で怪我したくねえ」
堂山は鍛えているのか体質なのか、運動部でもないのにがっしりとしているし、筋肉だなというのが傍目に見て分かる体格をしていた。歩いているだけでも圧を感じる。
「黒辺ーごめーん!」
不思議に思っているとコートラインを大きく超え、真横に長谷が吹っ飛んできた。
どうやら相手チームを避けるにあたって走っていたが、勢い余ったらしい。それでもなんとか黒辺誠にパスをして、自分は壁に衝突している。
「いってて」
長谷は帰宅部でバイトをしている。怪我レベルまで全力を出す必要はないのに。
「保健室行く?」
僕は長谷に声をかける。
「大丈夫、大丈夫、いけるいける」
長谷はそれまで着ていたジャージを脱ぎ、腰にまき始めた。コートの中では長谷からボールを受け取った黒辺誠がドリブルをして、自分の陣地から相手のゴールへ軽く駆けている。
「えっと田中……くん?」
「うん」
長谷はおそるおそる問いかけてくる。多分漫画なら田中ひろしはすぐ名前を覚えてもらっていただろうが、僕だから曖昧そうだ。田中ひろしは、明るいとまでは言えないけど僕より性格は暗くない。だから覚えている限りで田中ひろしっぽく話をしようとしたら、明日加に「高校デビュー?」と言われて、なんだかものすごく変な顔をされたのでやめた。
田中ひろしとして生まれたから、田中ひろしの模倣が可能だと思ったけど、どうやら駄目らしい。田中ひろしっぽいものどころか、暗い人間の演じるさよ獄の田中ひろし物真似になるのかもしれない。
「ありがと、俺長谷! じゃ!」
長谷は簡潔に言って試合に復帰する。知ってる、とは言わなかった。
自分が目立つ自覚がないようだ。声が大きくて、クラスでいつも笑っているから、多分さよ獄の知識がなくても長谷の名前を知らない人間は少なそうなのに。
でも不思議だ。長谷は声が大きいし、下手すれば堂山より大きい。廊下で長谷の笑い声が聞こえることなんて、一度や二度じゃない。
でも、堂山のような圧を感じない。押し付けがましさもない。視界になじむ。
「黒辺パス!」
ぼんやり試合を眺めていると、堂山の声が響く。黒辺誠が徹底的にマークされていた。しかし黒辺誠はそのままの位置でシュートフォームに移行する。
「黒辺パス!」
ゴール近くにいる堂山の声が繰り返されるが、黒辺はそのままシュートを打った。明日加でも狙わないような、スリーポイントシュートラインからかなり遠い位置で放たれたボールは、まるで予定調和であるかのように弧を描き、リングにかすることなくゴールにおさまった。
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