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【コミック⑥発売中】デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した  作者: 稲井田そう
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼に殺される主人公に転生した
64/87

身を焦がすほどの



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




  魚をさばいたことで、黒辺誠は後の作業を免除された。

 元村エリと池田まゆが爪を切っていなかったこと、ささやかながらお揃いのネイルをして切ることに抵抗を見せていたことから、僕が衣をつける係を担った。

 二人はこちらの家庭事情に触れたこともあり申し訳なさそうにしていたが、個人的には助かった。思い出しても今世に役立てられない記憶のなかには、料理も含まれている。

 ようするに最後の仕上げの工程に関わりたくない。ましてや黒辺誠の手前、デメリットはあれどメリットがない。

 元村エリと池田まゆが白身魚とじゃがいもを揚げている間、僕は黒辺誠と洗い物をしていた。

「さっきはありがとう」

 僕が洗い終わった食器を布巾で拭う黒辺誠に声をかけた。彼は「なにが?」と、なんてことのない顔をする。彼は意図して「フォローしたつもりはない委員長」を演じている。ここで「さっきは助けてくれて~」と話を繋げれば、しつこいと邪魔に思われるため、僕は「なんでもない」と話を終える。

 相手は殺人鬼とはいえ、「のちの」がつく。今はまだ殺していない。だから礼を言うのは筋だ。

 どうせ後々殺されるだろうけど。

 心の中で付け足す。

 本当はそんな未来を変えられたらいいな、とも思う。生きていたいわけでもないけど、デスゲームが開かれるべきとも思わないし、大量殺人なんてないほうがいい。

 しかし、田中ひろしは主人公であっても、僕は違う。主人公の資質も精神性もない。

 世の中には一人一人が人生の主人公なんて綺麗ごとがあるけど、僕が主人公の物語なんて誰も読みたくないし、僕の人生において誰かを無理やり脇役にしてしまうのも、抵抗がある。

 でも、一人一人が人生の主人公なんて言いだせる人生。

 きっと自分を肯定できて、周りにも肯定されているのだろう。他人の人生に介入し、いい影響を与えることが出来ると慢心可能な人生、勝ち組だ。まさしく主人公の人生。

 ただ、そういう人間は、さよ獄で──デスゲームで真っ先に殺される。

 僕は調理実習を行う別の班に視線を向けた。

「わりー、少し焦がしちまった!」

 そう言って快活に笑う、背の高い男子生徒──堂山英雄。

 高身長で細身ながら鍛えられた体躯を持ち、明朗快活な見た目と中身で「誰より主人公してる」と、評判のキャラクターだった。初回から主要人物感満載で登場していて、田中ひろしより先に「人の命で遊ぶなんて間違ってるだろ!」と憤り、「こんなこと始めたやつを俺は絶対許さない!」「必ず犯人を暴いてやる!」と意気込んでいたが、2話目で殺された。

 犯人はモブとして描写されるような、前の人生の僕みたいな男子生徒だった。殺した理由は、「ずっと嫌いだった」というもの。殺人を強いられる、という状況はデスゲームの一側面に過ぎない。

 生き残るためという大義名分を得られる、そうした面もデスゲームにはある。

 正直、堂山英雄の退場は気が晴れたし、さよ獄に興味を抱くきっかけになった。

 どんな人間であろうと、誰かを殺す可能性がある。誰かの死因になる可能性がある。自分だけじゃないと思えた。

 ただ、都合がいいかもしれないけど、徳川明日加は誰も殺してほしくないし、誰にも殺されてほしくない。誰の死因にも関わらないでほしい。

「え! 徳川完璧じゃね? すご!」

 長谷の底抜けに明るい声に、反射的に視線を向ける。

 振り返ると明日加が衣をつけた白身魚を揚げ終えたところだった。べたべたのペンキのようにべったりしていたであろう衣が、こんがりとしたきつね色に染まっていて、見た目からでもサクサクしていそうなのが分かる。料理番組や外食でみる、揚げたてのフライ。皮付きのジャガイモも、表面が結晶化したひび割れが見える。

「なんでこんな綺麗にいくの? 俺いっつも焦がして見た目終わるんだけど」

「なんでって言われても……」

 明日加は戸惑っている。彼女は小学校のころから調理実習をなんなくこなしていたし、バレンタインデーではほかのクラスの女子生徒がチョコレートを溶かしてもう一度固め、上からキラキラした装飾を施したものを分配する中、ココアのクッキーを焼いていた。そして今感動している長谷と同じように何故料理が出来るのか質問されていたが、「バスケのクラブチームで作りあうことがあって」とか「合宿で自分たちでやることもあるし」と話をしていた。

 でも、実際の理由は違う。漫画で、「ひろしのお嫁さんになりたい」と、料理を練習していた回想があった。元々料理が得意ではなく、包丁で指を切った経験から忌避感すら抱いていたが、田中ひろしに恋をして、彼のために克服したのだ。

「っていうか長谷って自分で料理するの?」

「するする。ポトフ、肉じゃが、カレー、コロッケのディナールーティーンで生きてるから」

「モデルの動画みたいに言ってんじゃねえよ、つうか何その順番、意味あんの?」

「肉じゃがはカレーになるじゃん。ポトフ肉じゃがにしたら手遅れになるけど」

「意味わかんねー」

 げらげらとほかの男子生徒が笑う。長谷はいわゆるクラスのおちゃらけキャラだ。

 さよ獄において課題がクリアできずダイジェストに殺される人物で、誰かに殺されたり殺したりはなかった。料理をする印象もない。

「焦げる……火力強いとか?」

 明日加は周りの男子生徒に構わず長谷の問いかけに答える。

「弱火じっくり派なんですよ。こー見えて。腹弱いから」

「そっか……じゃあ、なんだろ……」

「なんかさ、色白っぽい表面の部分だけトーストみたいになるか、見た目終わるかの二択っていうか」

「あ、じゃあ二度揚げはどう?」

「二度揚げ?」

「うん。少し揚げて取り出して、余熱で中まで火が通るの待ってから、今度は火力を揚げて色をつけるの。今回それでしたから」

「なる! 天才!」

「そんなことないよ」

 明日加は謙遜している。二度揚げ。知らなかった。そういう工程もあるのかと明日加を見ていると、ふいに焦げ臭い臭いがした。視線を向ければ、元村エリと池田まゆが険しい顔で揚げ物をしている鍋を見ていた。




本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


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