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【コミック⑥発売中】デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した  作者: 稲井田そう
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼に殺される主人公に転生した
63/87

黒辺誠の作るもの



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 交際については二人だけの秘密にしよう、と、明日加と約束をした。

 理由は黒辺誠になにかしらの影響を与え、デスゲーム開催を前にして新たな悲劇を生まないためだ。

 何が原因かはわからないが、黒辺誠は妹をトラック事故に遭わせている。池に突き落すよりずっと死亡率が高いし、なにより目撃されるリスクも大きい。

 地域情報を掲載した物件サイトやマップレビューで調べたところ、黒辺誠が義妹を突き落した池のある公園は利用客が少なく、夜間、残業帰りの社会人がショートカットに使う程度、日中はほとんど人の目がないことで、小さい子を遊ばせられないとあった。

 そんな場所と大通り。

 どちらが殺人に適しているかなんて考えるまでもない。にもかかわらず黒辺誠は大通りでの凶行に至った。理路整然と論理的に思考し人を騙すことが可能な知能指数と、サイコパス──常人とは考えられない衝動性が重なっての行動だろう。

 黒辺誠の行動は漫画より悪化している。デスゲームが始まる8月29日を前にして、実験的に同級生を殺す可能性は否定できない。二人のうち一人を殺し、残したほうの反応を見るため、僕か明日加を狙うかもしれない。実際、漫画の作中、池田まゆと元村エリが憂き目にあっていた。

 それに彼は、クラスメイト全員を殺すことを目標としていたわけではない。

 永遠に続く退屈に見切りをつけただけ。

「黒辺くん、すごい綺麗だね……」

 入学式から二週間後に行われた調理実習の時間。池田まゆが感激したような声を上げる。視線の先にいるのは黒辺誠だ。黒のエプロンを身に着けた彼は、包丁を片手に「そんなことないよ」と謙遜する。

 この高校では5月の末からオーストラリアで海外学習を行う。それにあたって、家庭科ではその国の文化を料理から学ぼうと、フィッシュアンドチップスを作ることになった。

 本場の人間に怒られるような説明の仕方をするならば、白身魚のフライと、フライドポテトだ。調理工程としては、白身魚に衣をつけて揚げる。ジャガイモは切って素揚げ。調理実習は途中休憩込みで100分ほどだが、そこまで時間を要するものではない。だからか魚をさばく工程も追加されていた。

 調理班は家庭科教師により、四人一組で無造作に振り分けられており、調理経験の有無が考慮されていない。挙句、魚をさばく──グロテスクなものへの耐性のあるなしによって、いろんな場所から「違う」「なにこれ」「無理だ」と、混乱の声が響いているが、黒辺誠は気に留めることなく、そのまま標本にでもできそうな一匹の鱈を簡単にさばいていた。

「お料理好きなの?」

 元村エリが問う。黒辺誠、池田まゆ、元村エリ──そして僕。なんの因果か僕はデスゲームの主催者、ゲームの過程で実験的に殺される犠牲者たちとフィッシュアンドチップスを作ることになった。

「妹が料理が好きで、その影響かな」

 黒辺誠がにこやかに話す。

 嘘をついているようには全く見えないが、嘘だった。

 黒辺誠は命を奪うことに余念がないゆえに、彼は自宅の縁側の下に解剖後の虫を置いている。自分より小型の生き物への残虐性は往々にしてエスカレートする。解剖対象が虫から魚にいってもおかしくない。黒辺誠の妹である黒辺舞は、彼に兄を越えた執着を持っている。愛する彼の為に料理を作ることもあるだろうが、黒辺誠が黒辺舞から影響を受けることは絶対にない。

『じゃあ、死体は……? 一番最初に、黒辺だって放送のあった死体は誰の……⁉』

 漫画で、田中ひろしが黒辺誠に発した台詞だ。

『妹』

 表情一つ変えず、黒辺誠は言っていた。

『どうして⁉ た、大切な家族じゃ……』

『妹は、能力に問題はなかった。客観的に見て、欠点らしいものは、身内以外と付き合おうとしない、とかかな』

 今思えば、黒辺誠の返事は答えになっていなかった。

 田中ひろしは家族という定義のもと大切さを問いていたけど、黒辺誠が言及していたのは有用性のみ。家族と大切は繋がらない。

『俺を優先するようにしたのは俺だったけど、欲してほしくはなかった。でも、どんどん酷くなってて、最近、ずっと煩かった』

 耳障りな蠅を殺したような報告だった。

「妹いるんだ」

 そんなこと知る由もない池田まゆが盛り上がる。

「うん」

「え~、黒辺くんに似てる?」

「どうだろう。似てるって言われたことはないし、性格もだいぶ違うからな……」

 黒辺誠は返答に悩むようにふるまっている。自分に似ている存在なんて欲していないだろうし、そもそも人間の姿かたちに関心なんてない。

「写真とかないの?」

「あんまり写真撮らないんだよね……妹、身体壊しがちで、冬に入院したりして、一緒に出かけるのって祖父の家に行くとかだから」

 黒辺誠が包丁を手に視線を落とす。興味がないから撮らないのだろうが、もっともらしい説明を受けた元村エリは、しまった、と感情のままの表情を出した。

 黒辺舞に病弱な設定は無かったはずだ。

 隠れて、毒を盛っている? デスゲームの死体偽装をするため、弱らせているのだろうか。

 それとも本当に病弱なのか。

「田中は兄弟いる?」

 黒辺誠が僕を見た。元村エリとの会話に飽きたらしい。

「いない」

 田中ひろしに兄弟姉妹はいない。家族構成はテンプレート的な、問題のない父親と母親。

 手に入れることが難しい、普通の家族。

「そっか」

 黒辺誠はクラスメイトとの会話に完全に飽きたらしい。簡単に終わらせてきた。すると先ほどの過ちの空気を変えようとしてか、元村エリが僕に顔を向けた。

「ほしい?」

 面倒だなと思った。欲しいと思ったところで手に入らない。そして姉や妹など姉妹を口に出せばからかいの対象になる。兄や弟が欲しいといったところで、空想の話に終わる。

 それに、家族といってもいろんな事情があるものなのに。

 でも、こういう話を面倒だと思わない人間のほうが多くて、揚げ足取りのように気にする僕のほうに落ち度があるのだ。これが普通のコミュニケーションだから。

「ほしいと思ったことはあるよ」

「お兄ちゃんがいいとか黒辺くんみたいに妹とか、ある?」

「いや……兄弟や姉妹が欲しいというより、何かあったとき、近くにいざるをえない理由のある人が欲しかったのかも。強制的にっていうか」

 僕にすすんで近づこうとする人間はいない。ただ、兄弟姉妹であれば少なからず関係性に名前がついていて、僕のそばにいる理由を持っている。

 名前がついている関係性は羨ましい。「恋人だからそばにいていい」「友人だから話しかけてもいい」と許しが見えるから。

 だからといって、なんでもしていいわけじゃないし、それらに苦しめられている人間もいるだろうけど。

「なんか、むずかしいね……」

 それまで黙っていた池田まゆが呟く。元村エリが「ね」と同調した。

「兄弟姉妹だから、近くにいなきゃいけない義務なんてないけどさ」

 黒辺誠が呟く。

「まぁ、各々家庭事情あるからね、田中が兄弟姉妹のあるなし選んでるわけじゃないし、選べないじゃん。田中の両親が、弟妹どうにかしてやりたくて、どうにもできなかった結果かもしれないし」

 そうして、元村エリを見た。

 なんだこの状況は。今僕は、殺人鬼にフォローされているのか。

 元村エリは「あ……」と僕を見る。何か言おうとしているが、黒辺誠が「衣の準備しなきゃね」と準備をはじめ、池田まゆが追随して話は終わった。




本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

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