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【コミック⑥発売中】デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した  作者: 稲井田そう
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼に殺される主人公に転生した
61/87

近づく惨劇



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 入学式を終え、教室に戻る道すがら、僕は集団から逸れトイレの個室に入った。

 スマホを取り出し、ニュースサイトを開く。

 デスゲームの黒幕である黒辺誠は、 幼少期から命の喪失に強い関心を持っていたが、それが顕著になったのは中学三年生の冬に、白猫が乗用車に撥ねられるのを見たことだ。

 白い毛が赤く染まり、先ほどまで動いていたものが見るも無残になったさまを見て興奮したのはもちろんのこと、生きていた時は猫を気にしていなかった人々が、死にゆく瞬間、突如猫に注目し取り囲んでいたところを見て、人間だったらどうなるのだろうとデスゲームを開くことを思いついたらしい。

 そうした心の動きについて、月曜日の駅のホームを観察していたり、そういう周期を計算して調べることもあったんじゃないか、と漫画家はインタビューで答えていた。

 とはいえ、その本質を想像し行動することには、危険が伴う。

 黒辺誠の精神性について漫画家は明言を避けていた。彼を肯定するような発言をすることは殺人の肯定に繋がりかねないし、さよ獄がカルト的人気を誇るのと同じように、黒辺誠も同種の関心が向いていた。うかつに批判的なコメントをすれば彼を崇拝するファンの逆鱗に触れる。田中ひろしへのコメントが無難な最適解だったのだろう。それですら、ひろしではなく黒辺誠について言ってほしいと要望が集まっていたし、そもそも田中ひろしへの所感は編集者を通して発表されたものかつ、連載終了記念として出版社に頼まれ組まれたインタビューだ。

 だから、黒辺誠については予測ができない。物語の展開を知っていても、勝てる気がしない。

 そもそも勝てるはずもないのだ。相手は常軌を逸している。天才だ。僕は凡人以下で普通になれないことは共通していても、対極にいる。

『わき見運転か トラックが女子中学生と接触』

 徳川明日加が保護者に詰められなかったり、僕がクラゲのストラップを持っているように、漫画で発生する事象が変わるのならば、黒辺誠の周囲もなにか変更があるのかもしれない。

 そう思って、デスゲームを開くに至ったきっかけとして最有力候補である事故について調べた。

 ふつうは猫が大通りで派手に轢かれてもニュースにはならない。法的解釈をすれば猫を殺すことは器物破損だ。とはいえ、空き缶をつぶす動画を投稿しても炎上することはないけど、猫をつぶす動画は炎上する。どこまでも曖昧な善悪に僕らは支配されていて、だからこそ、一縷の望みを託した。

 SNSならば、猫が轢かれていて可哀そう、程度の呟きくらいは分かるだろうと。

 結果だけ言えば大豊作だった。

 同時に、最悪の未来も確定した。

 大通りで事故が起きたニュースについて呟く人間はたくさんいた。当たり前だ。

 轢かれたのは猫じゃなく人間だったのだから。

 そして過失を起こしたのは乗用車より殺傷性の高いトラックだった。

 乗用車に轢かれた猫は死んだけれど、トラックに撥ねられた女子中学生は近くのゴミ捨て場に投げ出されたことで、奇跡的に一命を取り留め、軽傷で済んだらしい。

 その女子中学生の名前は──黒辺舞。

 黒辺誠の、義妹。

 周りに冷たくプライドの高い彼女は、長い黒髪の美人で、黒辺誠と雰囲気が似ているが血が繋がっていない。だからなのか黒辺誠に兄を超えた感情を抱いており、彼にだけ心を開いていた。

 しかし、黒辺誠は他者からの好意を利用することはあっても感謝したり、応えようとはしない。それどころか自分に対して必要以上に干渉してくる義妹を疎ましく感じ、幼いころから池に突き落したり、あえて助け、周囲から「妹思いの兄」として評価を集めていた。

 そんな黒辺誠の狡猾さに影響されてか、黒辺舞の排他的な性格は加速し、友達はいないが教室の空気を支配する女王として君臨していたという。いじめを行うことはないが、彼女が忌まわしく思う、邪魔だと思った存在は周囲の目につき、勝手な解釈のもと排除される。小学校が一緒だろうと、地元に根ざした寺の子供だろうと変わらない。災禍そのもの。

 だが、自分の教室の支配者にすぎない。弱肉強食の頂点には至れない。

 最終的に黒辺誠の偽装死体の道具として殺されるが、母親と父親が旅行に出かけ兄と二人で過ごせると浮かれた彼女は、凶行の果て誰に助けを求めることもできず死んでいった。

 つまり物語の都合上、黒辺舞は夏、デスゲーム開催前日の8月28日までは命の保証がなされているはずの存在だ。

 でも、そうでないのは徳川明日加の事件が起きなかった──いい意味での変化があるように、悪い意味での変化もあるということだ。

 猫は偶発的に起きた事故だが、黒辺誠は人為的に事故を起こし、義妹を殺そうとした。

 間違いなく、漫画の時より悪化している。

 僕はニュースサイトを開いていたタブを閉じ、履歴を消去する。万が一にでもこんなことを調べていると知られたら、黒辺誠に殺されかねない。

 僕は入念に痕跡を消してから、個室を出た、その時だった。

「あ、同じクラスの」

 声をかけられ顔を上げる。確かに聞き覚えがあったのに、無警戒に目を合わせたことに後悔した。

「黒辺、誠──」

 目の前に、黒辺誠がいた。

 ここは教室から離れたトイレだ。わざわざ来る必要がない。だからこそ選んだ。呼び捨てにしてしまった。初歩的なミスに背筋が凍る。彼は誰にも共感しない。しかし不愉快という感情は持っている。

「ご、ごめん、呼び捨てにしちゃって、新入生のあいさつで、聞いたままで覚えてて……」

 僕はすぐに謝罪した。黒辺誠は「気にしないで」と笑みを浮かべる。

「俺のほうも、ごめん。君の名前知らなくて、名前聞いてもいい」

「田中、ひろし……」

「田中くん」

「あ、田中で、大丈夫。中学みんなそうだったし」

「分かった。俺も黒辺でいいよ」

 ──よろしくね。

 淀みない声だ。まだ学級委員長は決まってないけど、クラスをまとめる優等生であることが、一言で分かるくらい。

「よ、よろしく」

 僕はそのまま去ろうとする。しかし、黒辺誠は「手」と呟いた。

「え」

「洗い忘れてる」

 用は足してない。純粋に不衛生であることの指摘だ。にもかかわらず、手洗い目的以外でここへ来たことを見透かされている気がして、僕は動揺を隠すように手を洗う。黒辺誠は僕を一瞥した後、隣で手を洗い始めた。

「ちょっと汚いもの触っちゃって、手洗いに来たんだ。入学式だからかもしれないけど、どこも混んでて……でも良かった、丁度いいところ見つかって。穴場だね、ここ」

 黒辺誠が微笑む。先ほどと変わらない笑顔だった。

「うん」

 汚いものとは、いったいなんのことか。聞けるはずもない。

「じゃあ、これで」

 僕はその場を後にする。なるべく、黒辺誠から逃げていると悟られないように。廊下の曲がり角にさしかかったところで、振り返る。黒辺誠はいない。まだ手を洗っているのだろう。僕は階段を登っていく。

 黒辺誠は、8月29日、30日、31日の3日間、デスゲームという名の惨劇を繰り広げる。

 このままいけば、クラスメイトは全員黒辺誠によって殺される。




本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




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