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○257日後



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 デスゲームが開催されるはずだった夏から、特に兄が事件を起こすことなく時は過ぎ春が訪れた。私がよく飛び込んでいた池の周りを囲う木々は軒並み桃色に染まり、桜の花がはらはらと散っている。夏は蝉が合唱していたけど、今は平日の昼間だというのに宴会や会社員の親睦会らしき花見客で賑わっていた。


「ほらおじいちゃん、こっちは桜がもう見頃だよ。そっちももうすぐ咲くんじゃないかな」


 私はおじいちゃんと繋がっているスマホのカメラを桜の木々に向けていく。おじいちゃんはリハビリも難なく終え、今は近所の人たちとバンドを結成しているらしい。向こうの画面にはアコースティックギターやマイクが覗いている。


『もうそんな咲いたか! 今年は一段と綺麗に見えるなぁ。舞が高校受かったからか!』


 そして私はといえば無事受験に合格し、「さよ獄」の舞台であり兄がいる高校に無事合格。この春から一緒に高校に通っている。


 そこでは、兄の勉強会では見ていなかった「さよ獄」に出ていた生徒たちを見かけた。


 でもどことなくさよ獄の彼ら、彼女らとは異なっていて、もしかしたら私が何もしなくても兄は惨劇の一夜を起こさなかったように思うこともある。


 主人公であるひろしくんも、ありふれた普通の生徒から兄の次に優秀な生徒になっていたし、姫ヶ崎さんを思っているはずの彼には幼馴染の彼女までいた。


 一度図書室で会ったけれど、ひろしくんは私を見て「だからか」と呟いてそのまま立ち去っていった。


「おじいちゃん、俺の時はそんな喜んでなかったよね」


 兄が隣でぼそりと呟く。しかし声は拾えていたのかおじいちゃんは朗らかに笑った。


『まぁ誠の時は受かるだろうなと思ってたからな』

「それ私が馬鹿で落ちるの心配だったってこと!?」

『ははは。舞も奇跡を起こせる奴だってのはきちんとじいちゃん分かってたからな!!』

「明らかに誤魔化してるよね?」

『ほら、お前たち学校あるだろ。こんなところで老人と電話してないではよ行って勉強してこい』

「あっ」


 おじいちゃんはとうとう通話を切ってしまった。私は兄と顔を見合わせる。


「切られたんだけど……」

「丁度いいんじゃない? 俺もそろそろ舞と二人でいたかったし」


 兄はそう言って私の手をぎゅっと握る。


 高校にも無事受かり、兄もデスゲームを開催することはなかった。絵に描いたような平和な日々だけど、兄の私へのあれこれは日増しに強くなっている。


 朝は兄の声掛けによる起床から始まり、家にいるときはずっと一緒にいる。学校へ行くのも休み時間も放課後も全部一緒だ。友達できるかな、と不安に思ったけど兄の行動を面白がる子もいて、今の所クラスで浮いたりはしていない。


 家では親が傍にいれば別だけど、居なければ距離も近い。隣にいる時も、今までは拳骨くらいの距離は空いて居たのにまさかのゼロ距離で最早兄が私にめりこんでいるか、私が兄にめりこんでいるような状態だ。


「お兄ちゃんさぁ、なんか最近距離近くない?」

「嫌なの?」

「嫌じゃないけどさ、お兄ちゃん以外の人と関わる機会を減らされてる気がしてるんだけど」

「今更?」


 兄は馬鹿にしたように笑う。完全に確信犯だこの顔は。私はやり返したい気持ちになって、今日の驚きはどうしようか考える。


 というのも、デスゲームが中止に終わっても、私の兄へ贈る「予想外の提供」は、ややその姿を変え継続しているからだ。


 今まで散々暴れ続けたのだから、突然やめたらやめたで兄に精神的な負荷がかかる。兄は頭がおかしいけどストレスを感じないわけがない。


 だから兄への配慮だ。よって徐々に「予想外の提供」を減らしていき、毎日だったものが二日に一度、三日に一度とその頻度を減らしている。


「あ、今日のお弁当、ちゃんと小さいほうから開けてね」

「順番あるんだ? 逆だとどうなるの」

「開かない」


 お弁当作りだって続けている。結局弁当で兄を驚かせたことは一度も無く、悔しいからだ。


「それにしても、今日は本当に気持ちいいくらいの快晴だね。なんか入道雲も出ちゃってるし」


 私は伸びをしながら空を見上げた。去年の夏に見たような大きい入道雲が浮かんでいて、ことり池の傍にいることも相まって、懐かしい気持ちになってくる。


 去年の夏、私は池に飛び込んでいた。いっそ今やったら驚くかもと考えつつ、これから学校に行くからとやめる。


「やめてよ。危ないことしないで」


 心の中を言い当てられたとしか思えない返答に、驚きながら振り返えると、お兄ちゃんは笑っていた。


「なんかさあ、私が驚かせたいのにお兄ちゃんに驚かされてばっかりでむかつく」

「なんでよ。俺は毎日驚かされてるけど」

「嘘だあ」

「本当だよ」


 兄はそう言って私の唇をふさいだ。目を瞬いてる間に「今だって驚いてるし」なんて私の頬をむに、と引っ張る。


「いや今の驚かせたほうじゃん」

「違うよ。ほら行こう舞」

「うん」


 兄が私の手を引いた。私は悔しいけど嬉しくて兄の手をぎゅっと握る。兄は子供みたいに笑い、そのまま二人で桜並木の道を歩いて行ったのだった。





本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




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― 新着の感想 ―
[良い点] お兄ちゃんの心情の移り変わりが丁寧に書いてあって気持ちがとても理解できました。 『驚きを提供する』という妹ちゃんの行動力が思い切りが良くて読んでて楽しかったです。 [気になる点] ないよ…
[一言] 大幅改稿版、読ませていただきました。 改稿前のものも以前読みました。 前のものよりお兄ちゃんのサイコパス度マシマシ、ラブ度マシマシ、と言った所でしょうか。 面白かったです! 特にサイコ…
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