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○3日後



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 八月一日の朝、兄はすんなり私を解放した。結局手錠は装着したままだったけど、兄の部屋で一緒に映画を見たり小説を読んだり、一緒に料理を作って食べたり一緒に寝ただけだった。


 お風呂やトイレは「今はいいよ。今はね」と何だか凄まじく不穏な言葉を残して手錠を外されたけど、出たらすぐに装着された。



「舞! ほらお饅頭ばっかり食べてないでこっち見て。舞にね、お土産買ってきたの! ほら、可愛いお洋服とぬいぐるみ。あっあとこれ合格祈願のお守り」


 リビングでキャリーバッグを広げた両親が、あれこれとお土産袋を出してくる。よほど楽しかったのか、いつもよりテンションが高い。兄はそんな二人を静かに観察している。


「ほら誠にはオーナメントと水時計よ」

「ありがとう……」


 朝の兄は、「まぁ、帰って来るしね、今はね」とまた不穏な言葉を残して私から手錠を外した。


 それから約半日がたった今、兄は何故か元気がない。両親が帰ってくるまでは元気で二人が帰ってきてから元気がなくなった形だから、どうやら体調不良でもなさそうだ。


「饅頭食べたい?」

「いい」


 口に饅頭を詰めてあげようとしたらやんわり拒絶された。今度は握りこぶしを入れてあげようとすると兄は重々しく口を開く。


「ねえ、お父さん、お母さん。大切な話があるんだけど、話をしてもいいかな」


 団欒とした空気に緊張が走った。リビングの床でせっせと近所や会社の人に渡すお土産を仕分けしていた両親は、操られるみたいに緊張した面持ちで兄の方へ身体を向けた。なんだか、操られているみたいだ……。


 兄は二人の前に正座をして、静かに二人を見据える。


「俺、舞と付き合うことになったよ」


 兄の言葉に両親は愕然とした。私も呆然としている。なんとなくこれから付き合うのかな……とは思ってたけど、まさか両親に今言うとは思わなかった。そういうのってもっとしばらく経ってからでは……実際両親も戸惑っている。しかし兄はぐしゃりと顔を歪ませながら話を続けた。


「中途半端な気持ちは一切無いよ」

「誠……、本気なのか……?」

「うん。舞は、お父さんとお母さんと同じ世界でひとつだけ、かけがえのない家族だから、こんな感情許されないっていうのは、わかってた」


 お父さんに問いかけられ兄はひとつひとつ確かめていくように言葉を紡ぐ。


 両親は悲痛な面持ちで兄を見て、静かに話を聞いていた。


「何度も、何度も諦めようと思った。血が繋がってなくても、舞は俺をちゃんと家族として見てる。でも俺は一人の女の子だと思って見てた。酷い裏切りでしょ。お父さんとお母さんにも。俺は、家族を壊す害なんだって、辛くて……っでも、昨日、舞に好きだって、言ってもらったんだ」


 兄が世間話を両親とするところは当然何度も見て来たけど、こんなにも真剣な話をするところは見たことがない。それは両親も同じことを思っているのか、どこか落ち着かない様子だ。というか私、昨日別に告白してない。なんなんだと思って兄の顔を覗き込んで、身体が凍りついた。


「首を吊ろうとしても、手首を切ろうとしても、生きてたい。お父さんとお母さんに、もっと親孝行してあげたかったなあって、涙溢れて、死ねなくてっ……ごめんなさい」


 声を震わせる兄を見て、お母さんとお父さんは目に涙を浮かべた。「もういい、話すな」「大丈夫よ、私たちは二人を応援するわ」そう二人が兄に声をかけても、兄は頭を下げるのを止めない。


「ごめんなさい……お父さん、お母さん」


 兄は今笑っている。肩と声を震わせているのは涙を堪えているからじゃない。完全に、笑っていることを隠すためだ。兄の口角は上がっている。そしてそれが見えるのは位置的に兄の斜め後ろにいる私だけ。


 一見すれば親子の感動のシーンだけど、もう犯行を披露しているようにしか見えない。


「大丈夫よ誠」

「お父さんとお母さんはお前たちの味方だ!」


 そう言って兄を抱きしめる両親。


 兄は私を見て、「話合せてね?」と声に出さず言って、勝利を確信した笑みを浮かべた。


 今すぐ言ってしまいたい。お父さん、お母さん、この人に騙されてますよと。


 というかデスゲームとか殺傷衝動以前に兄は根本から相当性格が歪んでいるのではないだろうか。


 今の兄には完全に「妹を好きになり両親に申し訳なさを感じている息子」の面影はなく、馬鹿にした目で両親を見ている。最早ゴミを見る目だ。思えば一昨日、「あの親二人、ちょっと心配だよね、騙されやすいっていうか」と鼻で笑いながらカレンダーを見ていた。


「舞、お父さんとお母さん、許してくれるって……、俺たち、一緒にいてもいいって。ねぇ舞、舞が大学卒業したら結婚しようね。俺それくらい本気なんだ」

「そうだ、舞ちゃん……安心してくれ……二人を父さんも母さんも応援するから……」

「私たちがついてるわ! 大丈夫よ!」


 兄の言葉に両親は私を見て呼びかける。戸惑いつつ近付いていくと、両親は私と兄をぎゅうぎゅうに抱きしめ、その未来を祝福してくれる。そして兄は「良かったね、舞」と昏く巣喰うように私を見つめていたのだった。





「なんでお母さんとお父さんに言ったの?」

「だって、舞が高校に入ればさすがに二人で出歩くのも違和感を覚えるだろうし。それに今のうちオープンにしてたほうが結婚もしやすいでしょ」


 兄の作り出した感動劇を終えた後、私は兄の部屋へと向かった。するとやはりというべきか、兄はけろりとした顔で私を待ち構えていた。


 兄が私の手を握っても周囲に違和感を抱かせない空間の支配力については恐れもあったけど、ここまで遺憾なく発揮されるとは全く思っていなかった。


「それにしても笑えるよ。二人のことは応援するから……だって」


 涼しい顔でしれっと言いのけ、兄は私の口に饅頭を詰めた。美味しい。いやどこまでもとんでもない人間だ。


 それに兄は今まで人を馬鹿にしたような態度をうっすら出していたけど、今は完全にこちらを馬鹿にした笑い方をしている。


「っていうか私結婚するとか聞いてないし」

「……嫌なの?」


 不意に兄は寂しそうな目で静かに呟いた。私は立っていて兄は座っているから、自動的に上目遣いで見つめられている。なんだかこの感じはとても……。


「俺と結婚するのは、嫌なの? 舞にとって」

「順番を、きちんと守って頂ければ……」

「順番って、手を繋ぐ、抱きしめるとか?」


 突然目の色が変わった兄は立ち上がって私の手を握り出す。これは相当まずい流れでは。逃げようと後ずさると、そのまま腕を引かれ兄に飛び込み抱きしめられた。背中を押されるように支えられ、身体が隙間なくぴったりとくっつく。


「うわあ」

「前に、舞に着替え覗かれたとき、こうしてたら舞すっごいどきどきしてくれたよね……?」

「覗いてないしあれはお兄ちゃんの方が露出狂だったっていうか、とにかく離れて心臓が死ぬから」


 あれは忘れもしない出来事だ。扉を開けたらシャツのボタンが全部外れている兄がいて、私の腕を掴むと壁際に追い詰めてきた。私は心臓が潰れそうになり危うく死ぬところだったのだ。あの後復讐を考えに考え、いっそ兄がお風呂に入っている時に防水性のある着ぐるみ……ビーチボール着ぐるみを着て飛び込んでやろうと考えたけど、資金が足りず先送りにした。絶対今度やってやる。


「これくらいじゃ死なないよ。これから順番に、もっと凄いことするようになるんだから」


 兄は私の首筋をなぞると、顔を近づけてくる。


「一回眠ってもらった時、おでこにして、この間は頬にしたけど、唇には初めてだから、ちゃんと覚えておいてね」

「え、あっ、えっ? うっ」


 文句を言おうとすると、唇が重ねられた。そのまま一歩も動けず呆然としていると、兄の顔が離れていく。


「……」

「どうしたの舞、顔真っ赤だよ」

「当然でしょ!? っていうかおでこにしたって何? それ知らないんだけど!? 寝てる間ってなに!?」

「ここに、こうして、キスした」


 後頭部を抑えられ額に口づけられる。唇が離れる音がして、その音でもまた心臓が潰されそうになっていると、兄はくすくす笑う。何だこれ。完全にやらっれっぱなしだ。私は兄を驚かせたいのに。


「段々長くするから、息継ぎ覚えてね」

「……お兄ちゃん、ちょっと」


 楽しそうに笑う兄の頬に軽く触れ顔を寄せる。そして私は反抗する意思、そしていつもの驚かせる意味も全部込めたキスをした。




本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




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