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○54日前



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 兄が宿泊体験学習を欠席して二日が経過した。兄は体調がいい時と悪い時をふらふら繰り返しているみたいで、昨日は食欲があったのに今日は部屋で眠っている。


 どこかへ出かけたがったり、やけに元気な時もあるから一瞬わざとやってるのかなとも思ったけど、仮病の演技を続ける理由がない。兄のことだし普通に言えば休めるだろう。だから私はほぼつきっきりでスポーツドリンクを飲ませたり、一人は退屈だというから話し相手になっていた。


 お母さんはといえば私が兄を看病することに当然反対したけど、兄の「好きにさせてあげて」という言葉に最後は首を縦に振った。


 ということで今現在の時刻は午後七時半。本当は兄がお風呂に入る時間だけど、熱があって微妙らしく私は身体を拭くためのタオルと桶を用意して兄の部屋に向かっている。一応お湯は調整したけど、どうせぬるくなるからと電気ケトルも持ってきた。


「お兄ちゃん、入るよ」


 ノックをして部屋に入ると、兄は壁にもたれるようにしてベッドにいた。夕食のときはわりと元気だったけど、今はぼーっとしている。いつも感じる黒辺君由来であろう刺々しさは感じない。


「身体拭くやつ持ってきたよ。ここ置いておくね」

「拭いてよ」


 即答され反射的に「は?」と聞き返しそうになるのをぎりぎりで耐えた。もっと病人っぽい……という言い方はよくないのかもしれないけど、あまりに意思のこもった返答になんとなく二の足を踏む。


「身体怠いんだよね」

「えっと、じゃあ腕とか背中とかお腹とかは拭くから、下は自分でして」

「ん」


 兄はこちらに身体を向けると、「さあどうぞ」みたいな顔をした。ボタンを外すのも億劫らしい。桶やタオルを置いて兄に近づき、ボタンをてきぱき外していく。中には何も着ていないらしく、人の数倍きめ細かい気がする肌が露わになった。私はなるべく見ないようにしてタオルを絞り、兄の腕から拭いていく。


 だらんとして、力を全く入れてないからかちょっと重い。ごしごししすぎて痛くならないよう気を付けていると、兄はぼそりと呟いた。


「……断ったから」


 何が、というのを兄は言わない。主語がない。


 反応に困っていると兄はこちらを真っすぐ見た。体勢的にベッドに座る兄の前に私が立つ感じだから、上目遣いで見られてはいる。だけどそこはかとなく圧がある。


「な、なにを?」

「姫ヶ崎の告白、断った」


 兄は淡々とした声色だ。人の告白を断った人間の態度とは思えない。むしろふられたみたいな感情の無さだ。


 それなのに、何となく、本当になんとなく心の固くなったものが柔らかくなっていくような、ほっとする感じがした。


 何でだろう。とても安心するし落ち着かなかった気持ちがすっと消えていく。いやでも兄が残酷趣味への関心をちょとでも逸らすチャンスだったのに……。


「後悔しない?」


 自分でもどうしてその言葉が出て来たのかわからない。私はそう言って兄にどう返してほしいのだろう。分からない。


 でも兄が断ったと聞いて、安心したことは紛れもない事実だった。甘えるように口から出てしまった。


 言ってしまった以上、戻って来てくれない。フォローした方がいいことは分かっているけど、どうにも言えない。


 どうしようか考えている間に、兄は私の頭に軽く手をのせた。


「絶対しない」


 兄が口角を上げる。勝ち誇るともいえない、自嘲気味な笑顔に心臓の奥のあたりがじわっと熱くなった。


「っていうか舞こそ、長谷の誘いどうするの」

「え?」


 思ってもみなかった質問が投げかけられ、私は目を瞬く。兄は「断りなよ」とこちらを鋭い目で見てきた。


「言われなくても断るよ。受験で時間ないし」

「受験がなくても」


 兄は自分の体を拭く私の手を掴んだ。一瞬折られるのかと思ったけど、勢いこそすごかっただけで指を置くくらいの力加減だ。


「断りな」

「なんで……いった! 痛い何?」


 反射的に言い返そうとすると、兄は私の指を噛んだ。一瞬人を食べるタイプのサイコパスに進化したのかと思ったけど、そうではないらしく「言うこと聞かないからだよ」と私を見る。


「いや言うこと聞かないって……ライオンのしつけ? 私人間ですけど?」

「知ってるよ」

「こわ……野生化してんじゃん……指跡になってるし……人差し指なんて一番使う指じゃん、なに……」

「人差し指じゃなかったら良かったわけ?」

「親指は論外だし、小指は耐久性なさそうだから薬指ならギリギリ許せるけど、次噛んだら元気になったとき親指でお腹刺すよ」

「なにそれ」

「親指でお腹刺すと痛いんだって。ゆかりちゃんがお兄ちゃんに対してやるらしいよ」


 兄は私の話を鼻で笑った。でも暫く考え込んだ様子で私を見る。


「あのお寺の子さぁ」

「なに? またディスる気? 言っておくけどゆかりちゃんいなきゃ朗読会は成功してなかったし私の一番大事な友達だからね」

「そんなんじゃないよ。冬のことは悪かったって思ってるし」


 じゃあ何だ。一体何を言う気かと兄を睨むと、兄は私を真っすぐ見た。


「ああいう子にとって舞みたいな存在は救いだろうね」

「は?」

「やめな。すぐは? って聞き返すの。性格きつい子だって誤解されるよ」

「だって訳分かんないことばっかり言うじゃん今日……そういえば熱はありそう?」

「ううん、きょう一日ずっと平熱だよ」


 私の心配を兄は馬鹿にしたように返す。しばらくして上体は全部拭き終わった。後は下だ。なんやかんやで膝下もやって、残ってるところはさすがにできないから私は手を止めた。そのまま部屋を後にしようとしてから、兄に声をかける。


「姫ヶ崎さん、きれいな人なのにいいの?」


 ドアノブに手をかけたまま、扉に視線を固定する。秒針の音がやけに大きく感じていると、ぎし、とベッドのスプリングが軋んだ。振り返る前にぽん、と頭に手を乗せられる。ぽん、ぽん。撫でるとはまた違う、私の頭に乗せられた手は触れるくらいの動きで、やがて私の髪をすいた。


「綺麗って言ったって、燃やして骨になれば皆一緒だよ。皮を剥けば、肉の塊だし」


 頭に乗せられた兄の手が離れていく。頬が熱い。心臓の鼓動がやけに激しくなっている気がする。私は振り向いて、視界に入ってきた光景に愕然とした。


 兄の真後ろの本棚。そこの、二段目。


 黒辺くんはそこに扉と鍵を取りつけ、動物を殺した時の感想を書いた日記や、包丁、ナイフ、殺傷性能を高めたエアガンなどをしまった箱を隠していた。温和で完璧で人気者の優等生を擬態するべく、パンドラの箱を封じ込めていた。


 去年の夏、そこには統計学の本や参考書があった。それなのに。


 今兄の後ろに見える本棚の二段目に、並んでいたはずの参考書は見えない。ダークカラーの本棚と揃えたような黒い板が取りつけられ、その下には小さな南京錠が付けられていた。


 去年までは、なかったのに。


 惨劇の一夜が差し迫った、今。


 それが現れた。






本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




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