●55日前
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
ホームステイには、元から行くつもりがなかった。わざわざ飛行機に乗り交流の大切さを説かれ睡眠を妨害され、悪戯に騒音を聞きに行くのも馬鹿らしい。
そんなことをしている暇があるなら、舞を手に入れる計画を進めるほうがよほど有意義だ。そう思った。
だから体調不良を装い、当日はあえて親の一方に人身事故が多発する路線を教え、舞と二人でいる空間を作った。一人が帰って来たとき舞がいることに驚いていたけど、もしかしたら感染症かもしれないから休みの連絡を入れておいたことを俺が伝えると、簡単に納得した。
俺が騙す分には手間がかからなくて楽でいいけど、将来的に面倒になりそうで不安を感じる。
だから今日は、ある程度顔色がよくなり回復した演技をした。というより元から体調に異常をきたしている点はない。それとなくいつも通りの調子に戻ったよう見せ、今度は舞の体調が悪いことを匂わせ、朝から共に病院へ行った。
親二人は仕事でいない。俺は適当に風邪に該当する症状を言って薬を処方され、飲む薬が食後ではないといけないことで、舞と一緒に病院に併設されたカフェで昼食をとることになった。
「お兄ちゃん、ちゃんと味する? 何入ってるか分かる……?」
「分かるよ。鮭とほうれん草でしょ?」
「ならいいけど……」
朝も食べていなかったから俺はリゾットを食べ、舞はそんな俺を見て心配しながら落ち着かない様子でホットドッグを食べる。やがて喉が乾いたのか、手元のアイスコーヒーに恐る恐る手を伸ばし、口にしてこの世の終わりのような顔をした。
先ほど舞はコーヒーを注文していた俺に「風邪なんだからコーヒーなんて飲んじゃ駄目でしょ。苦いし」と自分の頼んでいた林檎のジュースと交換させた。風邪薬の飲み合わせは大丈夫かと薬の注意事項を読み、薬の受け渡しカウンターへと走った結果、俺は舞の林檎ジュースを飲んでいる。
「変える?」
「いい……いつかは超えなきゃいけない壁だから……」
そして舞は俺の頼んだコーヒーを飲み、苦悶の顔だ。
「ねぇ、ちゃんと甘いとか苦いとか分かる? 食欲出たみたいでいいことだけど、口がまずいのなくなって味が分かんなくなったからじゃないよね?」
「うん。ちゃんと甘いよ」
舞から貰った林檎ジュースは、甘い。でも甘ったるい味のわりに、そこまで不快でもなかった。
◇
昼を取った後、帰りは少し遠回りをした。病院の近くには美術館がある。舞はこちらを疑うような目で見ていて、仮病を疑われているのかと思ったけれど俺が無理をしていないかの心配だった。
舞は「美術館って中で歩くよ?」とどこまでも俺のことを心配する。罪悪感は抱かないけど、ただただ愉快だった。騙されて滑稽だという意味合いより、舞の頭の中に俺がいることに対する充足感が強い。
そうして見た美術館の展示の内容は医療的な観点から見た絵画で、治療を受ける患者たちや後学のために描かれた作品が並んでいた。
昔であったら切り取られた身体の部位に興奮していたし、そこから溢れる鮮やかさに興奮を覚えていた。なのに昔感じていたはずの彩りは感じられず、人間の身体の一部を描いただけ、まるでそこらを歩いている人間や動物と変わらないようにしか見えなかった。
「ねぇ、展示面白かった? 元気出た?」
会話が許された館内のカフェで舞が首をかしげる。全く得られるものがなかったとも言えず、俺は「そこそこ」と素っ気ない返事をした。
「やっぱり体調悪いんじゃない? 帰る?」
「いや、自分から誘っておいてあれだけど、俺には難しい世界だなと思って」
「はぁ……」
舞は怪訝な顔をした。前までなら、「興味深かった」と答えていた。グロテスクな作品に対して、一般的な回答はそれか、もしくは「怖かった」だから。
個人感情なら「綺麗」だと思ってたかもしれない。今はそこら辺のガードレールと変わらない感覚だ。
「舞は」
「私は絵は描くほうがいいかも。見るのも勉強になるけどね」
「画家でも目指してるの?」
「いや、人間は高みを目指す生き物だから」
それなのに、馬鹿なことを言う舞の唇の血色や、服の裾から伸びる皮膚の色、揺れる黒い髪には、途方もなく鮮やかさを感じる。
「なんか楽しそうだけど何? カフェに来たかったの?」
「いや……」
俺はもう変質しきっているのかもしれない。きっと昔であったなら満足したであろう展示からは何一つ有意義なものを得られず、代わりに美術館近くのカフェでクリームがたっぷりとかかった、見るだけで胸やけがしてくるケーキに目を輝かせる舞に俺の虚ろは一瞬で満たされていった。
◇
美術館のカフェにまで寄ったせいか、外に出たころには日暮れだった。「熱がある時、アイス食べたくなるんじゃない?」なんて舞が言って、コンビニに寄ってアイスを買い、家に帰って舞は俺を寝かしつけようとしたけど、時間は午後三時だった。
結局今寝ても夜眠れなくなると言って、二人でリビングのソファに座り、適当にテレビを付け洋画の再放送をぼんやりと眺めている。
「これ登場人物みんな死んじゃうのかな。お兄ちゃんどう思う?」
「一人は生き残るんじゃない? この状況で全員死んでも感動のラストにはならないでしょ」
映画は大して面白くもない内容だ。ありがちで、テンプレート化された群像劇。でも確かに退屈ではあるのに、舞と手を繋いでいると途方もなく有意義な時間を過ごしているように思えて混乱する。
「誰が生き残るんだろ。やっぱり赤ちゃんかな」
「一人判定なの? 子供って」
くだらない話をしながら、舞の手に何かがあるのかと思って意識的に触れる。舞は「くすぐったい」と離そうとしてきたから、慌てて強く握った。
「なに映画飽きた? 腕相撲する?」
「映画見なよ」
舞は言う通りにまたテレビへ意識を向けていった。
舞の手は自分の皮膚より少し柔らかく白い程度で、特に変わりはない。この腕を引っこ抜いて、自分の手にできれば満足するというほど求めてもいない。あらかた触れて確認し、俺はまたつまらない映画を舞と一緒に見ていたのだった。
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
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漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
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