○56日前
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
兄はそれ以降、瞬く間に体調が悪くなってしまった。食欲もなく酷い咳が続くのに、病院に行くことを嫌がり学校を休む。だから宿泊体験の朝、お母さんが私に兄の欠席を知らせても驚くことはなかった。
「お母さん、今日はどうしても判子をもらわなきゃいけない書類があるから会社に行くけど、午後にお兄ちゃんと病院行ってくるから、もしも入院になったら連絡するわね」
「わかった」
惨劇が起きる日は今こうしている間にも近付いてきているけど、流石に熱がありそうな病人に対してドミノ倒しを決行することはしたくない。だから早く元気になったら驚かせたいけど、欠席が続く状態になってしまったのは純粋に心配だ。
それに、いつもならお母さんが家にいるけど、今日は会社に行かなきゃいけないらしいし……。お母さんはもしもに備えているからああいう言い方になったのかもしれないけど、入院という言葉も出たし不安になる。
「ほら、舞。そろそろ出ないと遅刻するわよ」
「うん、いってきます」
兄のいる二階に続く階段を眺めていると、見かねたお母さんが私の背を叩いた。そろそろ行かないと学校に遅刻してしまう。私は後ろ髪を引かれながらお母さんと家を出た。お母さんの会社と私の中学は反対方向で、振り返るとお母さんがぱたぱたと駆けていく背中が見える。
空はまさに快晴といった様子で雲一つない青空だけど、心はちっとも晴れてくれない。
お父さんは今日早く出なきゃいけない日だったし、兄は今家に一人になってしまった。今まで兄が風邪をひいたことなんて殆どない。だから病気慣れもしていないだろうし、残していくのは何だかとても忍びない気がする。
通学鞄を肩にかけながら見慣れた通学路を歩いていくと、もやもやした感情がどんどん溢れ出てきた。
私は顔を見せない方がいい?
やっぱりいつも何か仕掛けてくる相手は外に出ていた方が落ち着ける……とは思うけど、一度死んだとき……病室で一人窓を見つめる前の自分と重なって、私は踵を返した。
学校は遅刻でいい。
家に向かって駆ける。家が見える頃にはあれだけもやもやして曖昧だった私の心は完全に決まっていて、もうずる休みでいいと私は鍵を開け、玄関を開いた。
「は?」
心は部屋で休む兄を看病する気だったのに、当人が靴箱のすぐ近くに立っていたことで私は目を見開いた。顔色も別に悪くなく、部屋着さえ着ていなければ今から通学すると言っても違和感は抱かない姿。兄はじっと興味なさげにこちらを見下ろしている。
私が帰って来たことがバレた? もしかして出掛けようとしていた?
「お兄ちゃん、どうしたの……?」
「舞が走って帰ってくるの部屋から見えたから。どうしたの? 忘れ物? それとも鍵を置いて来たとか?」
どこか値踏みするような兄の目に、私は一度後ずさる。でももう帰ってきてしまったのだと開き直り、私は家に入って扉を閉めた。
「看病しようと思って。お母さんいない間、野垂れ死にみたいになってたら嫌だし」
「ふぅん」
「……だめ?」
淡白な返事に不安になり問いかけると、兄は私から視線を逸らした。
「好きにしな。母さんは仕事行ったし、舞の学校には俺から連絡しておくよ」
「わかった。じゃあお兄ちゃんの看病する」
私は鞄を肩からおろして、リビングへと歩いていく。兄は自分の部屋に戻ることはなく電話機を前にした。
「朝ごはんは?」
「食べてない」
「食欲はありそう?」
「少しは」
兄の短い返答を聞きながら袖をまくりつつ私は台所に立った。
おかゆを作っておこう。作っておけばお母さんも楽だろうし、今食べられなくても病院に行って帰って来た後すぐに食べられるだろう。薬とかって空腹時飲めないものも多いし。あったほうが安心だ。
台所で手を洗っているとカウンター越しに兄が電話をかけているのが見えた。繋がったらしく「いつもお世話になっております」と礼儀正しくはきはきとした声が聞こえてきた。
「はい、黒辺舞の兄です。はい……昨日から熱が下がらなくて、今日病院に行くのですが、念の為明日明後日とお休みします……」
兄の言葉に、「は?」と大きな声が出そうになるのをはっとして堪えた。
今日の欠席連絡だけなら分かる。でも何で明日も明後日も? 明日以降は普通にお母さんは家での仕事だし、私がいる意味なんてないのでは……。戸惑っている間にも兄は申し訳なさそうな声色で先生と話を続けた。
「すみません、大丈夫です……僕の風邪をうつしてしまって……う、はい……今母が手離せなくて……すいません、よろしくお願いします……」
兄は咳き込みながら電話を切った。呼吸が苦しかったのか大きな溜息を吐いている。水を差しだそうとするとけろっとした顔でこちらを向いて、私は唖然とした。
「え、水は? 咳は?」
「電話が終われば消えるよ」
「え……っていうかお兄ちゃんなんで明日明後日の欠席連絡入れてたの……?」
「だって、もしインフルエンザとか感染力の高い病気だったら、症状が出てないだけで舞に感染しているかもしれないし。そうなると舞、ウイルスばら撒くことになるよ? いいの?」
兄の言うことは何一つ間違ってない。正論だ。でもこちらを半ば脅すように捲し立てる姿はインフルエンザに感染しているようは全く見えない。果たして兄はインフルエンザなのだろうか。季節的に今は六月だし。もっと別の病気の可能性だってあるけれど……
「勉強は俺が教えてあげるから、心配しないで」
兄はカウンターキッチンに肘を置きながらこちらを覗き込んだ。挙句の果てに「おかゆまだ?」と急かしてきて、カウンターをつんつんつつく。
なんだかいいように言いくるめられているような気がしてならない。でも兄を一人にするのも問題だし、早く元気になってもらいたい。
その為に通学を三日犠牲にするのは別にいいかと、私は兄の監視を受けながらおかゆ作りを始めたのだった。
◇
「……お母さん遅くない?」
兄が私の作ったおかゆを食べ終え、ついでに「今日は普通のなんだね」と余計な一言を付け足してからしばらくした頃。時計を確認すると針は十一時過ぎを示していた。いつのまにか大きく差し込み始めた日差しを横目に兄を見る。ソファでくつろぐ兄は、病に苦しむ様子はない。
お母さんは一旦会社に行き、そして家に戻り病院に連れて行くと言っていた。お母さんが家を出たのは、推定朝八時。もう三時間が経っている。それはあまりに遅すぎるような。
「お母さん、どうしたんだろうね」
「人身事故の影響でお母さんの使ってる路線、遅延したからね」
からねってなんだ。私が抗議をする前に兄は自分のスマホを気怠げに操作して、こちらに差し出してきた。画面には遅延情報とあり、お母さんが使っている別の路線が事故にあったことを示していた。
「早いルートだと思って勧めたけど、失敗だったかな」
「え」
「お母さんがいつも使ってるルートより早く行けるよって、別のルート教えてあげたんだけど、飛び降りで結局一番遅くなったみたい。飛び降り多いらしいね、この路線。ホームドアないんだって」
一瞬、兄の仕業ではと勘ぐってしまう。
だって、兄はとても今愉快そうだ。「自分の思い通りに進むと気分がいい」とでも言いたげな、全くもって心の痛んだ様子がない。
でも、人身事故なんて操作しようがないし……。それに兄なら真っ先に轢かれる瞬間を見に行ってしまうと思う。
「ねぇお兄ちゃ……」
「何か熱下がって来た気がする。勉強教えてあげるから二階行こう」
「え、わ、分かった。うん……」
何だか、また上手く言いくるめられている気がする。私はどこか兄の態度に違和感を抱きながら、差し出された手を取ったのだった。
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
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漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




