表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/87

○68日前



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 私の覚えた違和感は、結論から言えば正しかった。


 兄はあれからここ一ヶ月の間に我が家で勉強会を定期的に開くようになったけど、メンバーは固定ではない。しかし姫ヶ崎さんだけは毎回出席している。彼女は兄に気があるようだった。


 兄に対してのみ甘い声で話し、目を潤ませ肩に触れる。初めは気のせいという可能性も加味していたけど、勉強会の回数を重ねる度それは確信に変わっていった。


 姫ヶ崎さんは必ず兄の隣に座り、他の誰かが座っていると、「ええ、私黒辺くんに質問沢山あるんだけれど」と除けたり、さらには兄と二人きりの空間を作り出そうとするなど、行動はどんどん大胆になっている。


 一方の兄はそんな姫ヶ崎さんに対し特に嫌悪や警戒を示すこともなければ、冷たい目で見ることもなく極めて自然に接していた。


 今まで私のクラスメイトがかっこいいと兄をもてはやし、積極的にアピールをしていたとき、兄は彼女たちの見えてないところで氷のような、背筋が凍るような目を向けていた。にも関わらず姫ヶ崎さんに対してはそういう鬼のような対応はしていない。


 漫画の姫ヶ崎さんは誰も好きじゃないという感じの人だった。クールビューティー系で命の危機を何度も主人公のひろしくんに救われ、ようやく心を開いていたくらいだ。


 だから黒辺くんと一時期付き合ってましたなんて裏設定もない。


 ならば、二人がくっついていい感じになれば、恋の力というやつで兄も凶行に走らなくなるかもしれない。そう考えた私は二人の接触の機会を増やして、姫ヶ崎さんと兄をくっつけるべく尽力することにしている。


 幸いなことに兄は勉強会で必ず私を呼ぶ。「お菓子ってどこにあったっけ?」だとか、「ジュースのコップの予備知らない?」など困っている風を装い使い走りをさせられる。カフェのバイトをしてるのと同じだ。


「ねぇ舞、ジュースってまだある?」


 そして今日も、私が台所に立つと同時に兄がリビングから声をかけてきた。私が「あぁ〜分かんないなぁ待ってて」と間抜けな声を出すと、すかさず姫ヶ崎さんが「私も手伝うわ。場所も覚えたしね」と立ち上がろうとする。しかしすぐに「いいよ、いっつも姫ヶ崎やってんじゃん。俺が手伝うよ」と兄のクラスメイトが席を立った。


 姫ヶ崎さん狙い……兄のライバルか。こちらはデスゲーム開催がかかっているのに……。


「舞ちゃん、身体弱いんだって?」

「え?」

「黒辺に聞いたよ。昔は良く入院したって」


 渋々コップにジュースを注いでお菓子の補充をし終えたら、兄のクラスメイトの男子生徒は皆のところへ戻ることなくこちらへ話しかけてきた。


「えっと……」

「あれ、俺のこと誰かわかんない? 結構勉強会来てるつもりなんだけど……」


 分からない。姫ヶ崎さんしか正直気にしてない。


 ひろしくんとかだったら分かるけど、彼は勉強会に来ないし。


「……ごめんなさい」

「謝んなくていいよ。俺は長谷(ながたに)。っていうかごめんな舞ちゃんって馴れ馴れしく呼んで」

「いや、別に……」

「えっとじゃあこれからどう呼べばいいかな? 舞さん?」

「今のままで大丈夫ですよ」

「おっけ。舞ちゃんね」


 長谷……。漫画に出てはいたけどほぼダイジェスト的に死んだ人だと思う。長谷先輩はジュースを飲みながら「最近体調どうなの、元気? 再来月入院だっけ」と問いかけてきた。


「まぁ、最近は元気ですね、ははは」


 本当に兄は一体どういう説明をしてるんだろう。ほかに勉強会に来た人からもちょくちょく体調を心配されるし、「小学校とかも半分行ってないんでしょ? 掛け算割り算独学とか辛かったね!」と労わられるし。


 兄の仕業だとは思うけど、私を病弱にして一体何の利益があるんだろう。「妹が病弱なので早く帰ります」みたいなことを言って面倒なことを避けるにしても、完全に限度を超えていると思う。ここまでする必要は絶対にない。


「今度さ、体調いい時でいいから一緒に出掛けない?」

「出かける? 私も入れてってことですか?」

「うーん。今みたいな人数じゃなくて……俺と舞ちゃんと、お兄ちゃんとあと〜適当な女子いたほうがいいよね。姫ヶ崎とかなら舞ちゃんも知り合いだし」


 長谷先輩はそう言ってジュースのコップを置いた。そしてこちらに真剣な目を向ける。


「俺、舞ちゃんと仲良くなりたいっていうか、何か面白いお弁当作ったりしてるところとかいいなと思っててさ」


 高校に入っても尚、弁当作りは継続している。学校内で会えない分力を入れているくらいだ。でも兄は私の作ったお弁当を見せびらかしたりしてるのだろうか……?


 考えてみても、兄があのお弁当を見せびらかして回るイメージが浮かばない。不思議に思っていると兄がすっとこちらにやってきた。


「あんまり舞のことからかうのやめてよ、本気にして考え込んで、熱出すから」

「いや俺本気だし、舞ちゃん、俺本気だからね!」


 兄の友人の言葉にこちらに気付いたほかのクラスメイトたちが「ロリコンかよ」と長谷先輩を囃し立てる。


 兄を見ると、私を不服そうに睨んでいた。私は兄と違って誰かを病人扱いしないし、変なイメージを吹き込んだりしない。


 なんでそんな目をされなくちゃいけないんだと見返すと、兄は皆のほうへ戻っていった。





「横着しない。この円の半径の面積までちゃんと出さないと後から分からなくなるよ」


 兄がとん、とノートに書かれた図形を指差す。前はたまにだったけど、兄はいつ頃からかほぼ毎日勉強を教えてくれるようになった。


 兄は確かに優秀でテストは全て高成績。塾へ行ったり家庭教師を雇うより兄に教わった方が経済的だし頭も良くなると思う。


 そして私の進路が決まらない問題も、いつの間にか解決していた。というのも両親曰く、「舞が行きたい高校がなければ是非ともお兄ちゃんと一緒の高校に行ってもらいたい」そうだ。


 私は別になりたいこともまだ決まってないし、進路希望調査を確定として出すのもまだ先だ。先生に聞けば最終的に十月までには……という話だったし、今のうち最難関である兄の高校を志望すれば、ほかの高校を選ぶことになったとしても偏差値を下げるだけ。あとから偏差値の高い高校へ行きたいと選ぶよりずっと楽だ。


 私は面積の答えを出しながら兄に振り返える。


「ねえ、私の合格率どんな感じかな?」

「まだ分からないよ。当日の結果がすべてだしね」

「お兄ちゃん的には?」

「半分くらいじゃない?」

「うわぁ」


 兄の力をもってしても合格率は半分だ。となると他の高校の合格率も微妙ということになる。驚き提供時間を減らせば勉強時間に充てられるけど、出来ればそれはしたくない。これから頑張ればいけるだろうか。


 とりあえず秘策として学んでいたあれを試してみよう。


『お兄ちゃん、ちょっとここ分からないんだけど』


 ノートを示し私はスペイン語で兄へと話しかけた。 


 これは、私が受験勉強と驚きの提供を両立させようとした結果だ。日本語以外の言語の習得である。他国の言語を習得し続ければ、受験でかなり有利になるし、兄を驚かせることが出来る。この間までただ日本語を話し英訳に難を示していた私が、突然スペイン語で話すのだ。きっと兄には相当な驚きのはず。勝利を確信して兄の方を振り向くと、兄は特に目を見開いてもいなければ驚いた様子も無かった。


「どこが分からないの? この斜線のところ?」

『そこじゃなくてこのルートが……』

「ああ、それは……」


 平然と兄は私の指摘した箇所を解説しようとする。


 嘘でしょ、通じてる……?


 驚きのあまり言葉を紡げないでいると、兄はそのままノートを覗き込むように顔を近づけてくる。


「何驚いてるの? 何ならスペイン語で教えてあげようか?」

「結構です……」

「じゃあちゃんと勉強しようね」

「はい……」


 私が驚いてどうするんだ。っていうかまさか通じているとは思わなかった。何なんだ兄は。どこまで優秀でいれば気が済むんだ。中国語やフランス語、イタリア語は学校の選択授業で学ぶところが多いからとスペイン語を選択したのに、まさか履修済みだとは。兄はよく勉強中音楽を聞いていると言っていたけど、そういうリスニングでもしているのだろうか。


「……そういえば今日、長谷になんて言われてたの?」

「なんてって?」

「今のままで大丈夫ですよ、の前」


 兄の言葉をヒントに今日した会話を思い返す。今のままで大丈夫ってことは、ちゃん付けでいいか聞かれた時だ。


「舞ちゃんって呼んでいいか聞かれた。私が長谷先輩の名前わかんなくて、ちょっと馴れ馴れしかったかもごめんみたいな話で」

「へぇ……」


 私の言葉に、兄は白けたような表情を見せる。何でそんな顔をしてくるのかよく分からない。何の地雷踏んだ……? 最近の兄は本当に良く分からない。何なんだろう一体。


「長谷と遊びに行くの?」

「別に行かないけど」

「そう。まぁ病弱で通ってるからどのみち無理だろうけどね」

「それさぁ、なんで私生きてるのも奇跡みたいな状態になってるの? お兄ちゃんの高校で」


 ついでに今まで気になっていたことを尋ねると、兄はさも悪びれず「死にかけてはいたでしょ」と言ってのけた。


「は?」

「たまたま交通事故にあった話したら、あっちの理解力がなくてそういう話になっただけ。否定しても面倒くさいし今度はこっちが嘘つき扱いされるだろうから、きちんと話合わせておいて」


 兄は私を冷えた目で見た。兄は別に話をすることが下手なわけじゃないし、誤解をさせる話の仕方だってしない。私は戸惑ったまま頷いたのだった。






本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i762351i761913
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ