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○99日前



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 春休みはあっという間に過ぎ去り、兄はとうとうデスゲームを開催する高校に入学した。高校には漫画に出ていた登場人物もいただろうけど、私は中学三年生に進級しただけで兄の高校に行けるわけもない。


 結局のところ四月も下旬となった今現在、状況は何も変わらず、もどかしさを抱えながら教室でゆかりちゃんのほっぺたをつつくしかなかった。


「いひゃいよ舞ちゃん」

「うん、でも落ち着かなくてね」

「なんとなく察しはつくけど人の頬っぺたで落ち着こうとしないでよぅ」

「うん……」


 ゆかりちゃんの訴えもあり私は手を止めた。三年生になって彼女とはクラスが離れることもなかったから、約九年間一緒にいることとなる。そして、


「お前朝っぱらから何してんだよ」


 今年は岩井も同じクラスになっていた。まぁ、隣のクラスでも彼は入ってくるし、どうでもいい。


「つうかさぁ、進路決めた? 調査表の提出早まるらしいって」

「何で」

「今年から受験のやり方変わるから? なんか対策クラス別でやるらしい。そういうのもあって今のうちに決めとけって原先生が言ってた」


 原先生は岩井の入っている野球部の顧問で、学年主任兼進路担当だから間違いはない。


「ゆかりちゃん進路決めた?」

「まだどことは決めてないけど……でもお洋服とかデザインの専門の科がある高校に行きたいな〜って思ってるよ?」

「えらい……えらすぎる……。岩井は何? 野球の強豪校ランキングそのまま調査表に落とし込む感じ?」

「まだそこまで決めてねえよ。それに野球で高校決めねえし」


 私の問いかけに岩井は気難しい顔をした。岩井は野球部の主将だし、坊主だからてっきりその道で高校に進むとばかり思っていた。


「お前はどうすんだよ、高校」


 岩井の返事に私は言葉を詰まらせた。高校……どうしよう。その前にクラスメイトを皆殺しにしようとする兄を止めなければいけない。兄を止めなければ高校どころじゃないし、受かっていたとしても落ちることになるし……。そもそもこの夏死ねば受験も出来ず高校にも通えない。


「私は夏に大事なことあるから、それまで高校について考えるのはちょっと……」

「は? 遅すぎだろ。しかも夏っていつ頃のこと言ってんの?」

「七月……二十九日あたり」

「なんだその微妙な数字」


 岩井が私を怪訝な顔で見て、ゆかりちゃんはおろおろしている。二人には言えないけど、でも兄はこのままだとクラスメイトを殺してしまう。私はそれを止めたい。ただそれだけの簡単な話だけど、進路の話は難しい。


「早く決めろよ」

「はいはい」

「はいはいじゃなくて、真面目な話進路ちゃんと決めなきゃだろ? ……ったく、こっちの身にもなれよ」

「は?」

「そ、そういえば! 舞ちゃんのお兄ちゃん高校入って海外に旅行するんだよね?」

「うん。そうだ……月末かぁ。宿泊体験」


 兄の高校では入学して早々海外へ二泊三日のホームステイをする行事がある。さすがセキュリティがすべて全自動ネット管理の高校だ。発展している。費用が大変なことになっているのではと思ったけど、兄は入試成績がトップだったから交通費や行事の旅費までも無料らしい。


 さすがにその期間デスゲームを開催することはないと思うけど、もうゲーム開始まで二か月を切った今、何の驚きも提供できない日々が三日続くことはダメージが大きい。


「トランクに入ってついていったらバレるよね」

「X線に通すからすぐ分かっちゃうよぅ。舞ちゃん捕まっちゃうよぉ」

「難しいな……進路と一緒だ……」


 ゆかりちゃんは洋服が好きだから、デザインやお裁縫の高校に入ろうと自分の進路を決めている。岩井はなんだかんだで野球系だろう。坊主だし。でも私は特に行きたい高校は思い当たらない。前だったら兄の高校一択だっただろうけど……。


 私はどうしようかと考えながら、窓の外の青空を眺めたのだった。





 考え事をしている間に放課後になってしまい、私は慌てて教材をカバンに詰めた。ノートはぼーっとしながらでも取れたけど、所々抜けがあるように感じなくもない。まぁいいかと昇降口へ駆け下りると、校門のところに兄の姿が見えた。周りを人が囲んでいて遠くからでも割と目立っている。


 兄は卒業したはずなのに、私を迎えにわざわざ中学校へ来ていた。中学と家は歩いて移動する距離だけど、高校は五つ駅が違うから時間もかかるけど、毎日迎えは続いている。理由は分からない。


 良いお兄ちゃんアピールどころか過保護シスコンアピールの域まで来てる気がするけど、周囲は「優しい妹想いのお兄ちゃん」として兄を見ている。この間なんて担任に「シスコンとか、からかわれそうで……」なんて言ったら「誰がそんな酷いことを言うんだ!」「良いお兄さんじゃないか!」と強めに言われてしまったばかりだ。


「お兄ちゃ……」


 兄に声をかけようとして、私は足を止める。


 その隣には長くさらさらな黒髪を流す、すらりとした美人が立っていた。間違いなくさよ獄のヒロインである姫ヶ崎さんだ。どうして彼女がここに……?


「舞、おかえり」

「あ……」


 兄が私に気付いた後、姫ヶ崎さんも続いてこちらを見た。「この子が黒辺くんの妹さん?」と首を傾げ私は慌てて会釈をする。


「初めまして、黒辺舞と申します」

「こちらこそ初めまして。私の名前は姫ヶ崎ゆりあ。お兄さんと同じクラスで、一緒に学級委員をやっているの」


 そのプロフィールはすべて知っている。漫画のモノローグ欄のところに出ていた。でも何で姫ヶ崎さんがいるんだろう。漫画では兄と親密である設定なんてなかったし、学級委員でもなかった。どちらかというと彼女は高嶺の花。男子生徒との付き合いだって殆どない。一匹狼系クールビューティーなはずだ。


「今日、家で勉強会をしようと思うんだ」


 兄はちらりと後ろを見やると、確かに兄と同じ制服を着た生徒たちがひょっこり顔をのぞかせた。漫画で見たことのある姿も見える。たぶん省略されたことで兄の部屋での勉強会はあったのかもしれない。でも、妹を中学に迎えに来るまではなかったんじゃないかと思う。


「え、じゃあ迎えに来なくてよかったのに」

「駄目だよ。道端で倒れたら危ないでしょう?」


 兄は首を横に振るけれど、彼の背後に立つ他のクラスメイトの反応は異質なものだ。「ああ、妹ちゃん病弱だったっけ」「一昨日まで入院してたんだよな」なんてありもしない私の来歴を語っている。


「舞も来たことだし、行こうか」


 兄に促されるまま集団は動いていく。意味も分からず兄の顔を見ると「気分はどう?」とこちらの体調を気遣うそぶりをみせた。すぐに後ろから兄のクラスメイトが私に話しかけてくる。


「つうか黒辺の妹めっちゃかわいくない? 今中三?」

「はい……」

「まじか、今年受験なんだー、大変だね。入院して半分も通えてなかったんでしょ?」


 いや、二年は交通事故の入院があったけど一年は皆勤賞をもらって賞状が家にある……。やはりクラスメイトからは私への印象が操作されている気がしてならない。


 兄を見ると「大変だったよね」と私に同意を求めてくる。あまりの圧におそるおそる頷くと、クラスメイトたちは「でもこんな可愛くて病弱なら過保護なのも頷けるわー」と勝手に盛り上がっていた。


「確かに」


 私と一緒に兄を挟むようにして歩く姫ヶ崎さんがこちらを見て頷く。


「妹さん、かわいいものね」


 でも、その声の温度が少し冷えたように感じて、私は違和感を覚えていたのだった。




本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

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漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

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