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○255日前



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 予定通りというべきか日曜日の昼間、私たちはおじいちゃんの家を発った。寂しいけれど月曜日から学校だし仕方がない。おじいちゃんとは帰り際、「来年の正月は遊びに来るし年も越す」と約束した。


 私の高校受験はどうするんだと言われてしまったけど、勉強はおじいちゃんの家でだって出来る。それに来月手術を控えたおじいちゃんと未来の約束をしたかったし、私自身来年があるか分からない身だ。丁度いい。


 後部座席に座り単語帳をぱらぱらめくる兄を横目に私はスマホを操作する。一応勉強をしている間は邪魔が出来ない。ただでさえ今お母さんは助手席に座りお父さんは運転しているのだ。勉強を邪魔するなと怒られ、外出禁止ペナルティが加えられるのはまずい。


 この間だって池に飛び込むのは寒いからと庭に埋まり、風船を何十個も用意して屋根から飛び降りたのだ。炭酸ガスを用いて庭に虹色の噴水を作ったりと平和なこともしたけど、ペットボトルロケットを背中に装着し川向うへ飛ぼうとしたことが決定打となって私は先週一週間の寄り道禁止を食らっている。


 どうしたものかと考えていると兄は単語帳をぽんと座席において外を見始めた。勉強は終わりらしい。


「お兄ちゃん飲み物いる?」

「いらないかな」

「本当に美味しいんだよ。受験勉強にもぴったりだよ」

「それ危なくない?」


 兄は両親や私の手前、困ったような顔をするけど実際は私が危ないものを持っていたら嬉々として虫や動物の拷問に使うと思う。私はごそごそ鞄からペットボトルを取り出すと兄に渡した。


「おいしい水。源泉かけ流し」

「汚いでしょ」


 私の言葉を冗談と理解している兄がペットボトルのふたを開いた。その瞬間勢いよく蝶が飛び出していく。プラスチックでできているから、瞬くというより吹き出すみたいだ。兄は予測済みだったのか大して驚かず私に蝶を返してきた。お母さんがすかさず「悪戯しないの」とこちらを注意してくる。


「悪戯じゃないよ。お兄ちゃんの受験の息抜きだよ」

「もう、言い訳しない。ほらそこのファミレスでお昼食べるから、それまではじっとしてて」


 まるで空腹で落ち着きのない子供への振る舞いだ。でも確かに今は十二時ちょっと過ぎで、朝ご飯をおじいちゃんと五時に食べたきりだからおなかも空いてきた。驚きグッズのストックも潰えたし、大人しくしていると交差点に差し掛かったところでお父さんが「あぁ〜」と奇妙な唸り声を上げた。


「だめだ。ファミレスの駐車場、立体駐車場にするため工事してるって。ここを右に曲がったところに止めてくださいって書いてある。俺ちょっと止めてくるから先に三人はファミレスに向かっててくれ」

「分かったわ」


 お父さんの言葉にお母さんが頷き、三人で車を降りた。駐車場に向かっていくお父さんを見送り、私たちはファミレスへと向かう。


「そういえばお兄ちゃんおじいちゃんとファミレス行ってなかったっけ? 何食べたの?」

「ハンバーグランチ」

「今日は?」

「同じ」

「ハンバーグ大好きじゃん」

「まぁ」


 兄は食べ物に特別興味を示している様子はない。嫌いなものもないからお弁当作りは色々制限がなくて楽だけど、好きなものをみちみちに箱に詰めて驚きと喜びの両方を提供できないのは少しもどかしい。暫くファミレスまで歩いていると、大きな信号を挟んだ向こう側に工事しているらしい駐車場が見えてきた。


 もうすぐ着くと思ったものの、視界に工事現場が映り込んだ瞬間、背筋に冷たいものが走った。


 工事している建物は三階建てだ。立体駐車場なのだからありえない改装でもないと思う。でも、漫画で読んだ猫が轢かれてしまう瞬間の背景に、よく似ていた。


 ――もしかして、駅ビルじゃなくて駐車場の工事現場だった……?


 思えば駅ビルに取り付けられている電子パネルは漫画では描写されてなかった。描くのが面倒くさかったのかと思っていたけど、そもそも駐車場を描いていたのだったらパネルは不要だ。それに信号機なんてこの街はどれも同じ。この交差点だって漫画で見た背景とは何ら変わりがない……。


「ねぇ、ここじゃなくて歩道橋とか通ることにしない?」

「何言ってるの? それじゃあ遠回りでしょう?」


 お母さんが呆れた声を出す。兄のほうを見ると彼はどこか上の空だった。


 おかしい。お母さんがいる時兄は絶対に善人ぶって私に注意をするはずなのに。彼の視線の先を追うと、丁度白猫が歩道の隅で頭をかいているところだった。


 流石にここで轢かれることはないだろう。ここに突っ込んでいくことは自殺志願と同じ。車の通りも多いし猫だって騒音で気付く。こんなところには飛び出さない。


 そう思った次の瞬間だった。


 すっと、頭をかいていた白猫が交差点の中央に向かっていく。横には待ち構えていたみたいにトラックが走ってきていた。


 轢かれる。


 私は咄嗟に地面を蹴った。後ろではお母さんの「舞!」と悲鳴に似た声が響く。幸い車に轢かれることなく中央にいる猫に駆け寄ることが出来た。私は必死に猫に手を伸ばす。


「えっうそ」


 しかしその手を躱すように猫は向かいの歩道に駆けて行き、そのまま住宅街へと進んでいった。


 これで猫は轢かれない。だからお兄ちゃんも死なない。あれ、でもこれ私が向かった意味とは……手を伸ばしながらそう思った瞬間、トラックのランプが視界に入った。クラクションと共に轟音が鳴り響く。大きな熱が身体にぶつかってきたと同時に、視界の隅に兄が見えた。


「お兄ちゃ……」


 ぽん、と身体が空へはじき出される浮遊感を覚える。これは、ベランダでバンジーをしていたのと、同じような……。景色が回転してそのまま一気に落下したのを感じた途端、視界が真っ暗になる。そして私は、どこかへとぐちゃぐちゃに溶けていった。





本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




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