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●256日前



本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

KADOKAWA フロースコミック様にて

漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生

コミカライズ2025/08/29日より開始です。




デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。


そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)

RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




 祖父が倒れた。そう聞いて感じたのは人の死に目に会えるかもしれないという期待だ。しかし人間は刃物で心臓を貫きでもしない限りしぶとく出来ているらしい。あの野島と同じだ。せっかく人が死んでいくところが見れると思ったのに。


 三時間以上かけて父親の実家にたどり着けば、ただ頭と腕に包帯をしただけの祖父に迎え入れられてしまった。


「ひっさびさのドライブ、腕が鳴るなぁ!」


 そう言って祖父は楽しそうに俺を助手席に乗せ運転する。実家に急いで戻った翌日、午前は舞と、午後は俺と出掛けると我儘を言い出した祖父によって、俺はどこへ行くかも分からないまま車に乗せられていた。


 俺が五歳のころ両親が離婚したことで、約五年間祖父母の家で暮らしていた。だから付き合いは長いはずだけど、どうにも今隣で運転する祖父のことは苦手だった。歳のわりにやけに幼く振る舞い、声が大きく空気が読めない。協調性とはかけ離れ、もし同じ歳であったならぞっとするくらいだ。むしろ血の繋がりなんてないはずの舞のほうが祖父と打ち解け、本当の家族のように見える。今朝だって、祖父を庇う舞に苛立ちを覚えたくらいだ。


「お前ももう高校生になるのかぁ、時間の流れは速いなあ」

「まぁ、受かればだけどね」


 昔、まだ俺が幼かった頃、家の近くに住んでいて幼稚園も同じ存在がいた。もともと粗暴で、走り回ったり体を動かすことを好み、回転遊具がお気に入りだった。別に何か害を及ぼしてくる存在ではなかったけど、たまたま遊具に腕を挟み切断されたニュースを見ていた俺は、奴が腕を切るよう誘導した。


 その結果俺と血がつながっているほうの母親にばれて、警戒されるようになった。過度な干渉が始まり刃物などは遠ざけられ、今後生きていくうえで邪魔になると思った俺は母親を切り捨てることにした。


 手間はかかったけど簡単に排除できたしバレたのが収入が低いほうで良かったけど、この祖父はどことなく俺を警戒している気がしてならない。


 老人だし思考力に信頼性はおけないだろうから、そこまで脅威ではない。来月脳の手術をすると言っていたし。でも不愉快なのは確かだった。


「受かるに決まってんだろ。お前は今までおれが会った中で誰より頭がいいんだから。毎日魚食わせてた甲斐があった」


 今日も祖父はくだらない話を続けている。別に高校は受かるだろうし、今日くらい勉強しなくたってどうこうならない。


「お前あれか、好きな子はいるのか」

「好きな子?」

「付き合いてえ子はいないのか? 誰かと付き合ったりふられたりの時期だろお前も。告白されたか?」


 祖父に言われて、この間……ちょうど先週あたりのことを思い出した。クラスでよく授業について聞いてくる女子生徒に呼び出され、告白されたことを。


 でも、下手に肯定すれば面倒なことになりそうで、俺は「ない」と答える。


「お前そんな綺麗な顔してないこたないだろ。孝之のいいところ全部持ってった顔で」

「周りもまだそういうの考えてる感じじゃないよ。受験もあるし」


 実際は、受験もあるからと周囲は思い出作りに奔走している。どうせ最後だから、会えなくなってしまうから。そう言って人を呼び出し告白している。一種の流行と言ってもいい。病が媒介するみたいにどんどん伝染していって、終息の気配はない。


 その洗礼を受けるみたいに俺のもとへ何人かの女子生徒が来たけど、好意を示され真っ先に思い浮かんだのは面倒なことになったという嫌悪だった。


 好きじゃない。そう言ってしまえれば楽なのに、言えば泣かれるか悪評を流されるかだ。一方的な感情なんて向けられる側にとっては暴力でしかない。


「高校になったらお前が恋人連れてこっち来る、なんてこともあるのかねえ……」


 しみじみと祖父がつぶやく。


 俺は恋愛に一切興味が持てない。テレビを見ていれば、人というものは恋愛をどんな風にするかはある程度知識として入ってくる。


 でもそれが自分がすると考えても、誰かを好きになる自分が全く想像できない。誰かに恋をして、欲する。そんなことが出来るだろうか。そもそも今隣で運転する祖父だって、同じ種族で同列の存在である認識すら上手く出来ていない。


 何かしら自分とは違う世界の動物という気持ちで俺は周りを見ている。そんな存在と恋愛なんて出来るだろうか。


 それに「普通」顔を見て、好ましいか好ましくないかを人は判断するらしいけど、俺には全部同じに見える。同じ、動物の顔。識別するために番号を割り当てられているくらいの感想しか抱かない。


 どうせ一枚皮を剥いでしまえば皆同じなのに、どうしてそこまで執着を持つのか、まるで理解できない。


「どうだろうね。案外大学生になってもできなかったりして」

「はははは! そんなわけないだろ!」


 耳障りな声が車内に響く。いっそ無理やりハンドルを切らせて、電柱にでも突っ込めば少しはこの苛立ちも収まるだろうか。人との会話を想定していない声量に辟易していると、祖父は「舞もいつか彼氏連れてくんのかなぁ。殴っちまいそうだ」と遠くを見据えた。


 この目だ。


 俺が最も祖父の中で気に入らないのはこの目だった。坂で突き飛ばしたら死ぬような空気の読めない老人なのに、すべてを知ったような目をたまに祖父はする。


「お前は舞と上手くやってるか?」

「なに、突然」

「何の脈絡もなく突然妹出来たろ。連れ子で。お前のことだから虐めたりはないだろうが、どう思ってるんだろうと思ってな」


 鋭くこちらを切りつけるようにそう言われる。俺が妹のことをどう思っているか。


 答えは単純だ。なんとも思っていない。


 明日死のうがどうでもいい。でも、そう正直に答えることは適当ではないことを俺は知っている。


 どんな質問であろうと、俺の答えはいつだって正しくない。


「いい妹だよ」

「いい妹ってなんだ?」


 手のかからなくて俺に害がない妹。世間一般で言えば舞はいい妹ではないと思う。


 悪戯を繰り返し、池を見れば飛び込む人間を好む人間なんてどこにもいない。


 厄介だし手間がかかる。


 でも虫を集められなくなることを除けば、池に入るのは舞だった。


「なんていうか、見ていて飽きないなとは思う。ちゃんと叱ればいうこと聞くし、勉強も頑張ってるし。変な子相手にもちゃんと接してるみたいだしね」


 穴に埋まるのも舞。大音量を出す時きちんと舞は防音処理をする。だから俺がただ耳栓をつけていれば防げる。


 思い返してみれば本当に舞は行動の派手さのわりに、実害もなければ煩わしさもない。徹底している。それが舞の理解できない点だと思う。何かしらの行動には荒さがあるのに、人に害を与えることは絶対にしない。


 まるで自分さえ傷付き、俺にだけ迷惑をかけることだけに尽力しているような気がしてくる。そこが舞の理解できない点で、どうでもいいけれど気持ちの悪い、気味の悪い点でもある。


「まぁ、仲良さそうで安心したよ。なんか距離あるみてえに見えたからな。よかったよかった」


 そう言って祖父は「ファミレスでも行くか!」とハンドルを切る。


 舞は俺にとっていい妹。そうかそうじゃないかは分からないけれど、悪い妹ではないと思う。少なくとも排除は不要だと思う。


 今のところは。











 結局、祖父は自分勝手な人だった。俺をファミレスに連れて行ったかと思えば「好きなもの選んでいいぞ」という割に適当に選んだハンバーグセットにパフェを追加してきた。


 そもそもセットにアイスがついているから、パフェと重なる。一方祖父はさっさと雑炊を平らげ俺が食べている間一方的にしゃべってきて、鬱陶しくて仕方がない。そうして拷問のような時間を過ごしようやく家に帰る時間となった。


「楽しかったな、また行こうな」

「そうだね」


 出来ればもう行きたくない。来月手術を受けるというし、脳に関することならリハビリも必要だろう。あと半年は会いたくない。もうこりごりだ。


 窓の景色を眺めていると、すっかり日が暮れて空は夕焼けで赤く染まっていた。心なしか地面に降り積もる雪も赤く染まって見える。祖父自身も話し疲れたのか、行きとは一転して静かだ。


「よし、着いたぞ」


 徐々に車のスピードが落ち、祖父は家の前に車を止めた。「車庫に入れてくるから土産冷蔵庫に入れといてくれ」と、先ほどファミレスで買ったケーキの箱を差し出してくる。


「わかった」


 俺は箱を片手に車から出た。車内のぬるい空気に晒されていたからか、外の冷たく乾いた空気が心地よく感じる。それでもすぐに指先はかじかんできて俺は足を早めた。玄関近くには大きな雪だるまがある。おそらく舞が作ったのだろう。もう中三になるというのに、何を考えているんだか。そう思った次の瞬間、


「ウワアアアアアアアア」


 玄関にあった雪だるまを突き崩すように、兜と甲冑を着た舞が現れた。声が完全にそうだ。雪だるまの後ろに立っていたのかもしれない。がしゃがしゃと甲冑を響かせこちらにやってくる。


「なに舞。おじいちゃんの甲冑勝手に借りたの? それ高いやつだよ?」

「許可は出てる」


 じゃあ、祖父が静かだったのはこれの前ふりか何かか。ため息を吐くのを我慢していると、後ろから愉快そうに祖父がやってきた。


「おう舞、どうだ甲冑は」

「めっちゃ重い……、あとこれ夏は無理だね。今でも暑いよ、汗で死にそう」

「じゃあ片付けは任せて風呂行ってこい」


 二人は、本当の家族のように笑いあっている。面倒くさい。俺は白けた気持ちで家の中へと入ったのだった。






本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。

『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』

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