○306日前
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。
朗読会自体は放送で呼びかけたからか、人が集まらなくて中止……なんてことにはならなかった。
本番まであと五分。朗読会に使ってもいいと許可された体育館には、二年生や三年生が今か今かと朗読会を待ち望み瞳をきらきらさせていた。でも一部の生徒たちは揶揄い半分の好奇心でか、にやにやしている。ゆかりちゃんは皆から少し離れるような位置で立っていた。
そして野島先生が担当として入っているのは一年生のクラスだけど、不思議とそのクラスの生徒達の姿は見えない。私は台本片手に舞台袖でそっと観客席の状況を伺いつつ、周りに目を向けた。兄は一年生の役員と読み合わせの確認をしていて、他の三年生はてきぱきと紙芝居の最終確認を行い、二年生はその補助を行っている。しかし野島先生だけは不安気で時計をちらちら見ていた。
「おかしいわ。見に来てって言ったのに」
なんとなく目を合わせてはいけない気がして俯くけれど、タイミングが遅かった。先生は「私のクラスの子たち、来てねって言ったんだけど一人もいないのよ……」と舞台の幕をぺらぺらめくって確認しながら私に話しかけてくる。
「これで皆、朗読会に来てくれてなかったら悲しいわ。皆の頑張りが無駄になっちゃう」
いや無駄にはならない。というか一年生の生徒が来ないのは野島先生のせいでは……と勘繰りたくなってしまう。現に一年生の役員の皆はしんどそうな顔で俯いているし。
しばらくすると、兄が時計を見て「始めよう」と皆に声をかけた。係がそれぞれの位置について、幕が上がる。紙芝居をめくる係は岩井だ。朗読をしなくてもいいから私もしたかったけど、じゃんけんで負けてしまった。
指定された列に並び、本のページを開く。すぐに私の番が回ってきて、そのあと隣の兄が読む番になる。
「そして彼は言いました。普通じゃなくてもいい。皆それぞれ個性があるんだよ、と」
兄の声に朗読会に来た生徒たちは皆聞きいっている。兄を目当てにここへ来た生徒もいるかもしれない……というか絶対多いだろう。現に皆目をきらきらさせている。
「嬉しい。みんな僕の友達になってくれるんだね! 皆はその言葉に頷きました。彼女は目に涙をいっぱい浮かべて喜びます」
朗読会で扱う話は、幼いころ人と違う部分があって皆から避けられていた少女に友達ができる話だ。話の途中で異世界に行くファンタジー要素もある。絵本の帯には感動と大々的に描かれていて、テレビにも取り上げられたことがあるらしい。野島先生チョイスだ。
今読んでいる場所は、異世界の旅から帰ってきた少女が現実で友達ができるシーン。あとはもう兄が読み終わって終わる。
「そうして、少女には友達が出来ました。皆の輪の中に入ることができた少女は、ずっとずっと皆と一緒に笑っていました……おわり」
兄が読み終えマイクを切るとともに、拍手が沸いた。皆で一斉に頭を下げて、「ありがとうございました」と声を揃えて言う。兄提案のことだけど、練習もしていないのにぴったりと息があった。
「では最後に、今回朗読会を開いていただいた野島先生からの挨拶です」
兄が唐突にまたマイクのスイッチを入れた。そんなこと台本にはのっていない。戸惑う皆は野島先生が何かしたのかと思ったけれど、先生自身も戸惑っていた。
「え、わたしが? えっと、あはは、どうしよう」
けれど野島先生は満更でもない様子だ。兄はさっと先生にマイクを渡すと、自分は委員の皆を伴いさっさと舞台袖へとはけようとする。私も急いで戻った。
「あれ、野島先生にやりたいって言われたの?」
私の問いかけに兄は答えない。すると、勝手に体育館のステージにあるプロジェクターの布スクリーンが降りてきた。皆びっくりしているけど「サプライズ?」と野島先生は浮かれ顔だ。なんだか嫌な予感がする。やがてスクリーンはすべて降りて、後ろのプロジェクターの電源が入りスマホで撮ったような映像が投影され始めた。
『じゃあさ、このカード少し先生に貸しててくれない?』
『え』
『だってお兄ちゃんにならいつでもあげられるでしょう? 先生これ参考にしたいな〜って、きっと皆喜んでくれるはずだわ!』
『お願いお願いお願い〜!』
『なんだかそれじゃあ私が泥棒したみたい。黒辺さんに悲しい顔してほしくないなぁ!』
流れたのは、私が先生にカードを取られているときの映像だ。先生がお願いと繰り返して幼稚園児みたいに振舞っている映像も流れている。朗読会を見に来ていた他の先生は顔を顰めた。
『こら、そこお話ししないの。それに舞ちゃん。舞ちゃんがもっとちゃんと頑張ってくれないと先生困っちゃうよ?』
『だって、舞ちゃんあんなにカード作るの得意なのに、全然お仕事進めてくれないでしょう? 先生舞ちゃんならもっと出来ると思うんだけどな……』
『あ、そうだ。舞ちゃん色塗りじゃなくて、こっちをやってくれない? 簡単すぎて飽きちゃったんでしょう!』
『はい、これも』
次に映像の中の先生は十枚ほどの画用紙をドン、と私の机に置いた。効果音で補正されているのか結構な音で観客席の生徒たちがびくりと肩を震わせる。
『舞ちゃんは、色塗りじゃなく切り抜き係にしましょう。それで色塗りは、そうね。岩井君やってもらえるかしら?』
これだと、野島先生が私に対してかなり風当たりを強く接しているように見える。周りの目は不安げにこちらへ向いた後、すぐに野島先生のほうへ向いた。
「えっと、こ、これどういうことなの、舞ちゃん?」
私は先程から何もしていない。しかし流れたのが私と映っている時だけだからか、私のせいだと思っているみたいだ。首を横に振っても「嘘よぉ」と否定されてしまった。
「野島先生……これは一体どういうことですか……。この映像を見る限り先生は一部の生徒に対して明らかに対応が異なっているようですが……」
「違います、私は皆と朗読会を成功させたくて……でも何か、舞ちゃんが私を誤解して……」
「分かりました。先生。一旦職員室でお話ししましょう。片付けはしなくていいから他の生徒は教室に戻るように」
他の先生が生徒たちを解散させようとする。もしかしてこの映像は兄が……? 深夜の徘徊はともかく、兄はいつもカメラを持ち歩いていた。てっきり虫を殺す様をスマホよりいい画質で撮影したいみたいな、猟奇的な方向で使いたいからと思っていたけど、確かにスマホと違ってカメラなら没収対象にならない。学校の授業で町の風景を撮ってくる授業だってあるし。
呆然としていると、兄が「帰るよ」と私に呼びかけた。なんとなく複雑な心境のまま、私は彼の後を追ったのだった。
大きな入道雲が浮かぶ空の下、公園の道を兄と一緒に歩いていく。暑さは残っているものの、以前と違って湿った風当たりはなくさっぱりとした秋風が吹いていた。
「お兄ちゃんさぁ、ずっと野島先生のこと撮ってたの?」
手を繋ぎながら問いかける。兄は上手く誤魔化すかもと思ったけれど特に言い訳することもなくあっさり頷いた。
「そうだよ。先生としては明らかに目に余る態度だったし、俺が舞が虐められてますって言っても家族だから信じてもらえないんじゃないかと思って」
「虐められてる?」
「明らかに舞だけ態度違ってたから。それに生徒会にいる他の女子生徒はきつそうな子が多いから、甘えも入っていたんだろうね」
兄はそう言って空を見上げた。しばらく前までは聞こえていた蝉の声は消え、代わりにひぐらしの切ない声があたりに響いている。遠くには公園で遊ぶ小さい子供の姿も見えた。
「それに、あの先生俺のクラスとか、三年の乱暴っぽい生徒には結構役立たずだったんだよ。ペコペコしてるとまではいかないけどさ、注意できなかったり。先生じゃなくて大学生だから仕方ないかもだけどさ」
なんだか、野島先生よりずっと兄のほうが大人に感じた。黒辺くんは小さい頃から周りの子より精神が成熟していた描写が漫画であったし、今だってその傾向を強く感じる。もしかしたら彼にとっては大人も自分と目線が変わらないのかもしれない。
だとしたら、ストレスもかかるだろうと思う。かといってクラスメイトに対してデスゲームを開いて殺戮を繰り広げていい訳じゃないけど、今は開いてないわけだし同情はする。
そういうの、漫画とか関係なしに一番嫌いそうだから、どうも出来ないけど。
「はい」
すっと目の前に伸びている影を見つめながら歩いていると、横から少し硬いもので二の腕を刺された。カッターでもあてられてるのかとどきっとしたけど、刃物特有の感じはない。目をやると私が先生に没収されていたカードだった。
「取り戻しておいた」
「え、あ、ありがとう……」
私の作った兄を驚かせるためのカード。それを兄に渡されてしまった。その時点でもう意味はないけど、でも少しだけ嬉しい。
「これ、お兄ちゃんを驚かせるつもりだったんだけどな」
「うん。驚いたよ。よく出来てると思う」
「そういうのじゃなくて、うわああああみたいな、心臓止まる級の驚きがほしいの」
「前から思ってたけど、なんでそんなに驚かせたいの?」
兄の言葉に、足を止める。さすがにクラスメイトを殺さないためにとは言えない。私は少し考えて、兄の瞳をまっすぐ見た。
「世界が、終わっちゃうから」
昏い揺らめく水底のような瞳が、じっとこちらを巣食うみたいに向けられる。べったりとした空の青色とはやけにアンバランスに見えた。
「だから、私はお兄ちゃんの驚く顔が見てみたいんだ」
笑みを浮かべる。兄は少し呆気にとられた感じもあるけど、瞳の奥は冷えていてこちらを見透かすようだ。しばらくして兄がこちらに一歩踏み出した。ぽんと頭に手をのせられ、気づけばぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。
「わっ、ちょっと、何?」
「何か生意気だなって思ったから、虐めたくなった」
「やめてよ、カラスに襲撃されたみたいになっちゃうから、勢いが強いよ! 撫でる感じじゃないじゃん!」
わさわさ、なんだか粘土みたいに髪の毛をこねられているけど、力任せじゃないから痛くない。やがて気が済んだのか兄は私の頭をむちゃくちゃに撫でるのを止めた。
「よく頑張ったね、舞」
「え」
「朗読会」
いやに兄の声が優しくて、今度は私が呆気に取られてしまう。ただただ目を瞬かせていると、兄は「行くよ」と青空の中私の手を引いたのだった。
「あ、そうだお母さんに電池買ってこいって言われたの忘れた。悪いけど舞留守番できる?」
家の前に辿り着くと兄がはっとして振り返った。私も行こうか迷ったけど今日はお母さんが鍵を忘れていたと言っていたから、開けておかないとお母さんが待ちぼうけを喰らってしまう。そろそろ帰ってくる頃だし。
「ついでにお昼も買ってくるけど何食べたい?」
「上に明太子どんって乗ってるパスタ。」
「それちょっと高いやつでしょ、まぁいいや。戸締りはちゃんとしててね」
「はいはい」
「はいは一回でしょ」
そう言う兄を見送り、私は一人で家へと帰った。手を洗ってうがいもしてからリビングのソファに雪崩れるみたいに座る。コンビニまでは大通りしかないし、危険もないだろう。
それに猫が轢かれるのは冬だ。兄を驚かせるために何か出来ないかと考え、穴でも掘るかと私は庭に出る。
今日は大穴じゃなく小さな穴が沢山ある感じでいこう。
しばらく掘りあたりを見渡す。庭にモグラ叩きでもしているのかという穴が開いたけれど、兄はまだ帰ってこない。スマホはリビングに置きっぱだ。私は手の土を払い落としてリビングに入る。靴を脱ぐのが面倒だから膝立ち移動だ。じりじり動いて机に這いよると、途中で何かを踏みつけた。
「うわ」
リモコンだ。ボタンが馬鹿になってないか気になるけど、まだ土もついていそうだ。私はしぶしぶ靴を脱ぎ庭へと放ると洗面台へ向かった。洗った手を拭きながらリビングに戻ると、入ってきた光景に絶句した。
さっきリモコンを踏んだときに押してしまったのだろう。テレビが点いている。何かリアルタイムで野次馬を撮影しているらしいその映像には兄の姿があった。目が釘付けになっていると画面が突然切り替わっていく。
『緊急速報です。虹月丘付近で多発していた連続殺人事件の犯人が現行犯逮捕された模様です。また、その場に倒れていた野島さやかさん二十一歳女性が意識不明の重体となっております。犯人は移送され、現場には事件の凄惨さを物語る血痕が点々と残っています』
リポーターの人がカメラマンを引き連れて、学校のすぐそばの薄暗い路地へと入っていく。そこには黒々とした血の跡があって言葉を失った。テロップには野島先生の名前が表示され、黄色く大きな文字で意識不明の重体と書かれている。
視界に入ってきた映像に頭が追い付かない。嫌な予感がして、私は兄の部屋に向かった。
入るなりすぐさまSDカードを探す。容量が無くなったのは先生を録画していたからと思ったけど、別の可能性だってある。殺していなかっただけで、犯人を探して、そして見ていた可能性もある。どんなに探し回っても引き出しにも机にもない。黒辺くんがお気に入りの猟奇的な記録をしまう本棚の細工はされておらず参考書がただ並べられているだけだった。でも、統計学という、この間も見た文字に私の心臓の鼓動が激しくなる。
もしも兄が殺人鬼が次に殺す場所を予想しようとしていて、そして夜な夜な現場に居合わせようと出ていたのだったとしたら……。
想像だし確証もないけど、絶対的に否定できる理由だってない。心臓の鼓動が激しくなりながらも次に縁側へ向かった。
死体安置箱の裏側に手を差し込む。一斗缶を開くと案の定メモ帳とともにSDカードがあった。
私はそれを手に取り、すぐに家のパソコンで再生させる。
『はぁ、はぁ、あ、あーあ』
始まった映像は撮影者が駆けることでフレームが揺れる光景だった。時折映り込む街灯で、かろうじて外であることがわかる。暗く車の音はほとんどしないから、深夜だろう。声は兄のものだ。これを撮影していたのだ。
『なんだ、死んでるのか』
溜息交じりに一瞬だけ人が倒れているところが映って、映像は切られてしまう。場所が変わっていくだけでその繰り返しだ。ただ徐々に兄は苛立ってる様子で『また計算ずれた……』『どこにいるんだろ、犯人。死んでる奴ばっかり……』と声が少し入っている。
それだけで、兄が深夜徘徊をしていた理由がはっきりとわかった。
殺している最中を撮りたかったのだ。兄は。でももう被害者が死んでしまったから、兄は苛立っている。取り憑かれたようにメモ帳をめくると、ニュースで聞く犯人情報のメモがあって、次に起きる場所を予想している計算式と、さらに――、
『野島 犯人が狙う女の特徴と一致 金曜日の昼に帰らせればバッティングできるかも?』
浮き立つ心が抑えきれないのか、踊るような走り書きの後に犯人が学校近くで犯行を重ねるようになるのがいつ頃かを計算したらしいメモ書きがある。
心臓の鼓動が、煩い。私は力をふり絞るようにパソコンからSDカードを取り出し、メモと一緒に元にあった場所へと戻した。
私の妄想、なんかじゃない。もしかして兄は虫を殺すことしかせず、デスゲームなんて開催しないんじゃないかと、心のどこかで抱いていた私の甘い期待が粉々に叩き潰された気がした。
私が、何とかしなければ。
兄は絶対に高一の夏、クラスメイト全員を、殺してしまう。
本作のコミカライズを担当してくださったぺぷ先生と新しいコミカライズがスタートしますのでご連絡です。
『愛され聖女は闇落ち悪役を救いたい』
KADOKAWA フロースコミック様にて
漫画/ぺぷ先生 キャラクター原案/春野薫久先生
コミカライズ2025/08/29日より開始です。
デスゲーム漫画の黒幕殺人鬼の妹に転生して失敗した。小説版にはない二人のその後も収録したコミック最終巻⑥巻が発売中です。
そして本作が韓国のRIDIさん(電子ストアサイトです。国内でいうシーモアさんやピッコマさんです)
RIDIAWARD2024(2024年のお祭り)の次に来るマンガ賞を受賞しました。ありがとうございます。




