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冒険者


 夜になりダジは戻ってこないけどダレスは一冊の本を大事そうに抱えて持って帰ってきた。

 僕達には何も言わずテーブルの椅子に座り、どこかで買ってきたのかろうそくを取り出して灯して読み始める。

 無表情だったのに本の表紙を開いた途端に楽しそうに笑う。


 レイトは特に気にした様子はなく、俺を鞄に納めると行って来くると告げて宿を出た。


 夜の道はさっきよりも大きな賑わいを見せている。

 屋台の数も増えていて、冒険者達は屋台に並び串肉などを買って小腹を満たしていた。

 所々にある食事処や酒場等もどこも騒々しい。


 お祭りのような雰囲気だ。

 子供も小遣いを持って屋台で買い食いをしていたり平和なものだと和む。


 途中いい匂いのする屋台に寄ってソースのかかった焼かれた串肉をレイトは一つ買い、少し路地に入って差し込む。


「食べていいよ」


 美味しそうな匂いが鞄の中身いっぱいに広がりり思わず齧り付いた。

 俺でも噛み切れるくらいに柔らかくてソースも程よく絶品の一品だ。

 お腹いっぱいになって「もういいよ」と告げると残りを食べ始めた。


 レイトマジいいやつと感動してしまう。


 串肉を食べ終わり残った串を売っていたお店のゴミ箱に入れてギルドへと向かった。


 冒険者ギルドはレイトの言った通りに閑散としており受付には猫耳のお姉さんが一人座っているだけで暇そうにしていた。

 レイトがカウンターの前に立つとそのお姉さんは姿勢をただし決まり文句を言う。


「こんばんは!ご依頼ですか?」


「冒険者登録をしたいのですが……「登録ですね!コチラに記入をお願いします!文字を書けなくても代筆可能です!」」


 レイトが言い終わる前に用紙と羽ペンを取り出し記入を促す。


「え~っと……俺は冒険者登録してあるのですが、お願いしたいのは別の人で」


 レイトの他に誰もいないのを確認して怪訝な顔をするお姉さん。

 なんか僕のせいで変になって申し訳ないから鞄から出てお姉さんの目の前にパタパタと浮かぶ。


「僕がその登録希望なんですか……」


 受付のお姉さんは目をパチパチと瞬きをし驚いた様子で僕を見る。


「よ、妖精いいいいいいいい!?」


 お姉さんの驚きの叫びがギルド内で響いた。

 この様子に僕とレイトは苦笑いしお姉さんはワタワタしている。

 そうこうしていると奥からもう一人の女性が現れた。


「ジェニス!何騒いでるのよ!

びっくりしてお茶こぼしちゃったじゃない!!」


 ジェニスと呼ばれた猫耳の女性は未だパニックの様子で、もう一人の女性の肩を掴み口をパクパクさせて僕の方を指差す。

 女性は怪訝な顔をしながら僕達の方を、というよりレイトを見て更に怪訝な顔をし、「普通の人間じゃない」と視線を動かし、次に浮かんでいる僕を見て2度見をした。


「ええええええええええええええ!?」


 お姉さんもですか……。


 やっぱり妖精という存在はレイトの言うとおりかなり珍しいようだ……。


 今度たカウンター横にある階段から誰かがドスドスと足音を立てて降りてくる。


「こんな時間に何騒いでるんだ!!」


 筋肉隆々の傷が多い強面の男か降りてきて一喝する。

 受付嬢は多少冷静になり僕の事を説明した。

 男は受付嬢の言葉に「何を馬鹿な事を」と小馬鹿にしカウンターにいる僕を見てポカンと呆けた。

 そんな男を受付嬢さんはジトメめで睨みつける。


 とりあえずそんな様子を見せられて僕はともかくレイトは苦笑いで立っているだけしか出来ないでいた。






 気を取り直した男がカウンターにドカっと座り僕に顔を近づけて凝視する。


「こいつは本当に妖精だな……。

お前本当に冒険者なりに来たのか?」


「は、はい」


 目の前にあるいかつい顔にタジタジになりながらも答える。

 男は腕を組みうんうんと何かを考え始めた。

 因みにお姉さん二人は物陰から僕を観察していた。


「まあいっか。

とりあえず手続きを進めるからこの紙を記入……出来るか?」


 置いてある羽ペンの所に降り立ち持ち上げようとするがびくともしない。


 僕のそんな踏ん張りをレイトと男が上から見ている。


 自分の非力さに涙が……。


 目尻を湿らせて肩をガックシ落とし飛び上がる。


「ま、まあお前にはちとお重かったか!

代筆してやるから質問に答えてくれ!」


 僕の落ち込みぷりに男がフォローしてくれる。


「まず名前だな」


「シローです」


「年齢は?」


「生まれたばかりです」


「ん?年齢は?」


「生まれたばかりです」


「……年齢は?」


 男は頭に青筋立て威圧感を放って再三聞いてくる。

 その雰囲気がめちゃくちゃ怖くて正直に言う。


「……0歳です……」


「あのなぁ……冷やかしなら「嘘じゃないです~!!ソウルタブオープン!!」」


 ゆでダコのように真っ赤になった男は怒りを抑えて諭すように言うのを遮り自分のソウルタブを見せた。

 男は年齢をまじまじと見てまた呆ける。


 レイトもまさか本当に生まれたばかりとは思っていなかったらしく驚いていた。

 ちゃんと確認をしてもらえたという事でソウルタブは閉じた。

 個人情報はあまり見せたくなかったのにと心の中で愚痴を言う。


 男はまたハッと気を取り直して記入し、何か言いたそうだが先に記入しようって感じで次の質問に移る。


「性別は……見ればわかるな」


 一瞬視線を股間に移して登録用紙に記入する。

 なんと言うかこの体になってから裸なのにあまり羞恥心が芽生えないのはなんでだろうか……。


「次、職業は?」


「……無職です」


「は?」


「無職です!!」


「あ、ああ……、そういえば生まれたばっかだって言ってたな……」


 用紙に記入していく。


「次はレベルだが……」


「レベル1です!」


 開き直ってもう普通に答える。

 男は本当に困惑顔で記入していく。


「次は戦闘スタイルだな。

まあ後衛だろうな」


 僕が応えるまでもなく用紙に書き込む。


「次はスキルだが何か魔法スキルはあるか?」


「結界魔法持ってます」


「ほお!よりゃレアスキルだな。

他に攻撃魔法とかは使えないのか?」


「これから勉強しようかと……」


「まあ生まれたばかりなら伸びしろは大いにあるな。

簡易の物だが得意魔法を調べれ道具があるから見ていくか?」


「そんなのあるんですか!?

見たいです!」


 僕がそう言うと男は後ろで観察している受付のお姉さん二人に道具を持って来るように命令する。


「待ってる間に最後の質問を済ませちまおう。

アピールポイントはあるか?」


「え~っと荷物をたくさん持てます!」


「荷物って、羽ペンも持てないのにどうすんだよ」


 俺はこうしますって感じで羽ペンを無限収納にしまう。

 男は消えた羽ペンに驚き、次に興奮する。


「ボックス持ちか!!

激レアじゃねぇ~か!!

容量はどれくらいだ?」


「無いです」


「ん?」


「多分ほぼ無限だと思います。

食べ物入れても腐らないです」


 これにはまたポカーンと呆ける。


 また元に戻るまで少し時間かかると思ったから羽ペンを戻して男が正常に戻るのを待つ。


 三度目のハッと気を取り直してまた考え込み始める。

 男が何かを考えている間に受付のお姉さんが水晶を持ってきてカウンターに置く。

 その時何故かデレッとした顔で僕を見ていた。


 男が呆けているのを見ておねえさんが代わりに使い方を教えてくれた。


「この水晶に手を当てて魔力を流してみてください。

もし魔力をまだ使えないって事でしたら血を一滴垂らすだけでも大丈夫ですよ」


 とりあえず手をおいて不思議な力を手のひらから外に流す感じでやってみる。

 すると、推奨は光り出して中にモヤができて色が浮かび上がってくる。


「白が一番強くて黄緑がその次に強い感じですね。

緑がそれなりに……水色と青は普通くらいですね。

わかりました。

貴方の得意魔法は光が一番で次いで風がのようです。

その次に木ですね。

それと水と氷は練習次第で習得しやすいようです。

それ以外は相当な努力が必要ですね」


 なるほど……。

 光と風と木か。

 なんかイメージ通りというか僕の好きな物が強く出てる感じだな。

 お日様と爽やかな風と木々……まさに僕好み!!

 あとは水と氷ってのは意外だなぁ。

 何か理由でもあるのかな?


 とりあえずやるべき魔法を絞れたからそれを鍛えていこう。


 自分の得意属性を調べ終えた所で男が考え事をやめた。


「うお!?いつの間に?

まあいいか。

とりあえず冒険者登録を認める。

だがしばらくは俺の指定した相手と組んで荷物持ちをしながら勉強をしていけ。

それと、一人前になるまで保護するという事でこのギルドに住んでもらう。

妖精はかなり珍しい種族でほとんどが何処で生きているのか知らない臆病な生き物だからな。

滅多に人間の前に姿を表さない。

だからお前は目をつけられやすいって事を意識しろよ。

これがカードだ」


 一気にまくし立てられたが取り敢えず登録はできた。

 ここなら安全に強くなっていけるし強くなれば自由に冒険できる。


 今日からここに住み込めと言われたからレイトにお礼を言う。


「今日は本当にありがとう。

今日からここでお世話になるし会うことも沢山あると思うけど何かあったらいつでも言ってね!

僕に出来ることは協力するから!

あとこれ、良かったら持ってって食べて」


 無限収納からアプの実を20程取り出したところでもう大丈夫と言われて、出した分をあげる。

 

「頑張って強くなるから一緒に冒険しようね」


「おう!!俺達もまだ新人だから追い越さないでよ~。

それじゃまた!」


 レイトは笑顔で帰っていく。

 僕は彼の後ろ姿に手を降って見送った。


 今日から冒険者だ。


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