調査
翌朝、荷物をまとめ僕達は早速森に入った。
もちろん子オークも付いてきている。
このオークの子供の名前はゴーダと言う。
本人がそう名乗ったので以後ゴーダと呼んだ。
『コッチだよ』
ゴーダは指をさし道を道を示す。
獣道すらない草や気が生い茂る場所を迷う素振りもなくしっかりと指をさすのだ。
帰巣本能でもあるのだろうか?
「この辺りはモンスターは居ないみたい。
昨日のトロールの件でみんな逃げちゃったのかな?
動物や鳥達も居ない」
僕はエルマンの方に座って教えた。
「良くわかるね?
それも何かのスキルなのかい?」
「千里眼っていう遠くを見る事が出来るスキルだよ」
「便利なスキルだね」
そんな会話をしながらまっすぐと森を進む。
森に入って2時間位だろう。
だいぶ奥に来た所で広く開けた場所につき、そこには簡素な村があった。
簡易の木の柵に囲まれており、お粗末な家が建ち並ぶ。
中ではオークが数匹歩いていた。
『お~い!!』
ゴーダが村に声を掛けるとオーク達は俺達に気が付き、木の槍や棍棒を持って出てきた。
その数五体。
『ゴーダを人質にここまで来たな!!
卑怯な人間め!!』
『のこのこ現れた事を後悔させていやる!!』
オークはいきり立ち殺気を放つ。
「……なんか不味くない?
シロー、あのオーク達はなんて言ってるのよ」
僕は素直にオーク達が言っていることを教えると、リナさんは心底面倒くたそうな顔をする。
「どうする?
ゴーダを帰して大人しく立ち去るかい?
話を聞けそうには無いと思うけど」
「う~ん……。
そうだな……。
この森で暮らしているオークに何か異変を感じたりしなかったから話を聞ければ手っ取り早いんだけど……。
まあ自分達で調査しよう。
もともとそのつもりだし」
エルマンさんはそう決断してゴーダをオークの村へ返し、立ち去る。
もちろん僕はエルマンさんの肩に座って同行している。
ゴーダは別れ際、『助けてくれてありがとう』とお礼を言って村へ、オークの元へ走って行った。
村を迂回するように移動して奥へと進む。
「だいぶ置くまで来たけど特に変わった様子は無いね。
シロー君は何か見つけた?」
「特には……、変だと思うものは見つからない~」
「そっか、じゃあ以来達成という事で戻ろうか」
僕達が来た道を戻っていると、オークの村の近くに差し掛かったところで、棍棒を持ったオークが現れた。
『さっきの人間!!
先程は疑ってすまなかった。
この辺りで何をしている?』
「シロー君、彼はなんて?」
オークが言っていた言葉をそのまんまエルマンさんに伝えた。
「警戒が解けているってことで良いのかな?
ちょっと話を聞きたいんだけど……」
俺が通訳して話をすすめる。
『この辺りで変わった事か?
そういえば数日前に森の奥で不気味な叫び声?が聞こえたな
それからトロールが来て村の奴らはほとんど殺されちまった』
「不気味な声……か。
とりあえずギルドに戻って報告しよう。
話してくれてありがとう」
『俺達も仇を取ってくれたりゴーダを助けてくれたり感謝するぜ。
疑ってわるかったな。
それじゃまたな』
オークはノシノシと歩いて離れていく。
「ふ~」
「シロー君ありがとう。
今まで狩ってきた魔物とこうやって対話するのは不思議な感じだ」
「ええ、そうですね。
多少の知能はあるとは分かっていましたがしっかり対話することが出来たのは驚きです。
シローさんが居れば魔物の研究が飛躍的に進むかもしれませんね」
「今回はたまたま大人しいモンスターだったけど本来は気性の激しい何時ばっかりだと思うけどね~。
シロー気をつけろよ。
話が出来るからってホイホイついて行ったりして殺されたなんて間抜けはやらかすなよ」
確かにリナさんの言うとおりかも……。
最初に会ったゴブリンなんてそんな奴だったし……。
「わかった。
気をつけるよ。
ありがとうリナさん」
お礼を言うと耳を赤くしてそっぽを向かれた。
逃げ出した動物や魔物はまだ戻ってきていないようで、ゴブリンは何処にでもいると言っていたが今日はまだ一回も見かけなかった。
楽に森を抜けることが出来て一旦草原で休憩をする。
「思ったより早く終わったね」
「そうね~。
もうちょっとかかると思ったけど収穫はちゃんとあるし良いんじゃない?
しかしトロールが三体現れたときた依頼失敗の文字が頭を過ぎったけど倒せてよかったな」
「それもこれもシローさんがいてくれたからですよ。
今回たシローさんのお手柄です」
「確かに!
急に現れてたら対処できずにもしかしたら倒されていたのは自分達かもしれない。
今回は君が居てくれて本当に助かったよ」
「そ、そういうのは無事帰ってからにしましょう!」
照れくさくて恥ずかしくなる。
でも褒められた事は素直に嬉しくて、僕はこの後の帰りはずっと浮かれていた。
「さ、そろそろ人が多くなってきますから鞄へ」
「うん。
いつかは堂々と飛び回りたいなぁ~」
「魔法を極めて自分を守れるようになれば出来るさ」
そうだな。
攫われそうになっても自分を守れる力……。
街に帰ったら魔法を練習しよう!
心にそう決めて、初めての冒険は無事に終わった。
この頃から森の浅い所で新人の冒険者が苦戦していたらオークに助けられたという話がギルドでチラホラと聞くようになった。
「おう、早かったな」
ギルドに戻り、ギルドマスターの部屋へ早速案内されてベノさんに言われた第一声がこれだ。
依頼の完了を報告、討伐証明部位である魔石は取り出さずまるまる持って帰った事も完了報告に付け加えた。
そして、依頼で起きたことも一部始終全て話し、主に僕の魔物の言葉を理解する力、オークから聞いた怪しい声を重点的に何度も聞かれた。
トロールが三体、森の浅い所まで来たのは、その怪しい声のせいだろうとベノさんは結論づけた。
「とりあえずトロールはうちで預かろう。
皮は初心者の防具に使えるから売って欲しいがいいか?」
エルマンさん達三人は欲しい部位はないという事で素材はすべてギルドが買い取ることとなり、先に依頼達成料が支払われ、後日トロールの素材の査定を行い買取額を支払うという事になった。
「こいつを預かってくれてありがとな。
どうだった?」
僕を親指で指さし一緒に同行してどうだったかを聞く。
「率直に言うならシロー君はうちのパーティーに欲しいですね。
ボックス便利ですし、遠くを見とうせるというスキルもかなり助かりました。
魔法の支援も荒削りですが助かりました。
このまま冒険者として成長していけば引っ張りだこ間違いなしですね。
そうなる前にうちに来てくれるとすごく嬉しいです」
エルマンさんに高く評価され物凄く照れる。
セレナさんとリナさんも僕の事を癒やしだとか可愛いだとか言ってパーティーに勧誘されてしまった。
正直嬉しかった。
「そうか。
まあパーティーに入るか入らないかはシローが決める事だがしばらくは俺預りで鍛えていく。
また何かあったらお前たちにこいつを任せよう」
三人はそれを聞いて喜び、「また一緒に冒険しよう」と言って部屋を出て行った。
ベノさんは三人を見送ると俺の方に向き直る。
「さて、いろいろ聞かせてもらおうか」
ニヤリと嫌な感じの笑顔が僕に迫る。
この日は千里眼と全言語理解のスキルについて根掘り葉掘り聞かれて辟易した。
ベノのおっさんは満足気な顔をして何かを考え始めた。
誤字脱字があったらぜひ報告お願いします!
スマホで書いてるので変換ミスとか見落としてると思いますので……。