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DUAL DIMENSION 第1部  作者: たいちょお
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「太陽の冠」(5)

シーファの町を南に下ると草原から潅木へ、そして高木の森へと変化していく。やがて西日を受けて鈍く光る石造りの祠が見えた。神聖石の祠である。祭事にしか扉が開くことはないが、普段なら五穀豊穣を願いたくさんの供物が並べられている。しかし魔物が食い荒らしたらしく、それは台座ごと崩されていた。

祠の鍵で扉を開けると戦士の石像が祠の入口を守るように並んでいた。ここが神聖な場所であることがわかる。石を削ってできた階段を下りていくと大きな空間が広がる地下水脈に出た。清い湧き水がそこらからちょろちょろと流れ出し、奇妙な石塔を形づくっている。また小さな光が天井から洩れるのか、ところどころ陽の反射を受けて輝いていた。地面には悠久の刻を思い起こさせる苔が生え、この不思議な世界に安らぎを与えていた。

「綺麗ね……。」

「ああ。なんか魔物がいるなんて嘘みたいだ。」

少しぴりぴりしていたティキの表情が和らいだ。そんな彼女の横顔をいとおしそうにエラルは見つめる。

しかしエラルは彼女の向こうに見える景色に一瞬違和感を覚えた。苔が動いたのだ。

「ティキ、魔物だ!」

剣を振り抜き、彼女の死角を指し示す。

こんな清浄な空気の中でも魔物が巣食っている。

 ティキは錫杖を構えるとエラルの指し示す方向に視線を投げた。苔は急にむくむくと大きくなるといきなりはじけた。降り注ぐ苔と共に姿を現したのはかさが毒々しく赤みがかった巨大なキノコだ。

「エラル!」

「了解!」

エラルはティキの前に飛び出すとお化けキノコのかさに剣を振りかざした。するとかさの内側にある胞子が飛び散り視界がぼやける。どうやらかさは弾力がありすぎて剣は効かないようだ。

「それなら……ここだっ!!」

エラルは石突の部分を力任せに真横に切り裂いた。どうと倒れる魔物。しかし噴出した胞子からまたむくむくと新たなキノコが現われようとする。

「ティキ!」

振り向きざまにエラルが叫ぶ。ティキは目を閉じ、呪文の詠唱を終えていた。次の瞬間琥珀色の瞳が見開かれ、錫杖がくるりと一回転する。

「精霊よ、女神の忠実なる下僕よ。不浄なるものを浄化し、光に還せ!」

錫杖の翡翠玉から眩しい光が放たれ、胞子は光に流されるように消えていった。

見事なコンビネーションであった。

「ありがとうエラル、おかげで時間が稼げたわ。」

「あのなあ、もうちょっと俺のこと信用してくれていいんだぜ?」

「あはは、ごめんね。」

ころころと笑うティキ、エラルもにやりと笑うと頭をかいた。


地下奥深くなってくると次第に地下水が増えてきた。だんだんと陸地と水面の比率が逆転していき、川というより陸地の部分が橋になっていくようだった。

やがて最下層と思われる、凍てつく冷たさの泉に着いた。

「ここに神聖石があるのね。」

見ると泉の底には小さな丸い石が澄んだ光を放っている。半分透き通ったようなオーロラのきらめきを見せる奇跡の石、神聖石だ。

「……。」

石は目の前にあるのに、何故かティキは拾おうとしない。顔を動かさずに鋭い視線を周囲に走らせる。

「どうした? ティキ。」

「……何かいるわ。」

二人は互いに己の武器を構え、気配を探る。

次の瞬間、殺気と共に天井からゲル状の固まりが降ってきた。

そしてそれは次第に堅い鱗状の皮膚を作り出し、蜥蜴とかげのような巨人のような奇妙な形になって襲いかかってきた。

二人はすぐさま視線で互いの意思を確かめ合うと、ティキは錫杖を薙ぎ払い、呪文を紡ぐと魔物にぶつけた。エラルはティキの放つ聖なる白刃の陰に身を隠し、魔物の胴に切りかかる。しかし魔物の鱗には傷ひとつつかない。次の瞬間魔物は口から凍てつく冷気を吐き出した。

「痛っ!」

あまりの冷たさに腕に痛みが走る。二人はいったん後退し距離をとると、各々の武器を構えなおした。

「大丈夫か、ティキ?」

「ええ、思ったより硬いわね。」

考える間もなく魔物は突進してくる。二人は左右に分かれて突進を避けた。

「エラル、どんなに硬くてもそれはすべての場所じゃないわ!」

「そりゃそうだけど、どうしようってんだ!?」

「私に考えがあるわ、合図したら飛んで!」

そう言うが早いかティキは魔物めがけて走り出した。

「ティキ!」

魔物は向かってくる自分の身の丈の半分も無い少女に牙をむき、大きく裂けた口で噛み殺そうと立ちはだかった。ティキはにやりと不敵に笑う。

「ごめんなさいね、あなたの相手は私じゃないの。」

ティキは魔物の上顎に錫杖を差し入れ、股の間に滑り込むと錫杖を一気に突き上げた。魔物は口を開けたまま天井を向く形になる。

「エラル!!」

「言われなくてもわかってるよっ!」

エラルは魔物を駆けのぼるように飛び上がり、ティキの錫杖で開いた赤い口の中に両手でずぶりと柄の部分まで剣を押し込んだ。

悲鳴とも嬌声ともつかない怒号が洞窟中に鳴り響く。

やがて魔物は再びゲル状になり、地面に吸い込まれていった。

取り残されたエラルの剣をティキが拾い上げる。

「やったわね。」

「まあこんなもんですよ。」

「何よ、私が走り出した時、驚いてたくせに。」

「いやー、ティキならサシでいけるかなーと思ってさ。」

「どういう意味ですかぁ?」

「あはは、まあいいじゃん。」

そう言いながらエラルは泉の中からきらめく丸い石をひとつ取り出した。

「これが神聖石だな。よし、さっさと引き上げようぜ。」

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