甘い
鳴り叫ぶ鼓動。
甘さが重なり合う。恋愛の甘さ、キスの甘さ、チョコの甘さ、判断の甘さ。今にも、彼の柔らかな唇に吸い込まれてしまいそうだ。目を見開いたのは一瞬のことで瞼に力が入らなくなり、その二つの甘さに挟まれる幸せに浸った。
もう、このまま永遠に覚めない魔法の世界に閉じ込められてしまうのではないか。幸せが幸せであると感じなくなってしまうのではないか。天に昇りそうな思いは彼に溶けていく。
この感覚は卑怯だ。絶対に忘れることができない。幸せを噛みしめることに精一杯でチョコなんてあってないようなもの。後頭部を支える手にゆっくりと力が加えられる。だんだんと吸い寄せられる。これ以上近づけるのだろうか。今でさえゼロ距離だというのに。
甘い。甘い。
鼓動が漸次平常を取り戻す。本当に酷い。この状態が普通なはずないのに、私はこの状態に対してのトキメキを忘れていく。酷いよ、こんなの。まるで麻薬。甘さに侵食されて味覚も歯も意識もボロボロに崩した挙句、心身すらも奪っていく。
甘さに染まっていく。幸せすぎる。きっと後悔する。この甘さを知ってしまい、他の甘さを受け付けられないなんて未来があるかもしれない。でも、少なくとも今は……このままでいさせて。
***
クズ男に騙されているのだと気が付き、不幸の味を知った。苦くて渋くてとても食べられる物ではないと知った。
あのお菓子を見るたびに、あの人、あの日、あの場面を回想してしまう。私にこびりついた砂糖はドロドロしてもう落ちることはない。あんなに甘かったのに、今では吐き気を催す味になっていた。