2話
第二話になります。3,4日かかるかと思っておりましたが二日で書けましたので少し早めの投稿になると思います。これからも少し早めにかけた場合投稿することがあるかと思いますがよろしくお願いします。
ゴブリンの町。そう聞いてどんなものを想像するだろう?
俺は今までの経験則から洞窟の中、その中に蟻の巣のようなものを想像していた。だが、やはり想像と現実は違うということだろうか。ゴブリンの町は俺の想像を超え、文明的な様子を醸し出していた。
洞窟の中というのは変わりない。変わりないが、それだけだ。想像と一致していたのはそれだけだった。
家、家がある。穴倉じゃない。普通に立派な家が乱立している。
洞窟の中をくり抜いて作っているのだろうか。とても立派だった。つるつるしていた。大理石のようにつるつるしていた。輝いていた。
明かりがある。道、家、ともに充分な光量だ。洞窟の中だというのに昼間とまでは言わないが隅々まで見渡せるぐらいの明るさだった。
露店もあるようでおいしそうな匂いがする。だけど煙たくは無い。なにやら風の動きがおかしい。魔法かなにかで換気扇の代わりをしているのだろうか。
ゴブリンの町を眺めひっきりなしに驚いていると、隣から声がかかる。
町長であるゴブラリアさんだ。
『どうです? とても綺麗でしょう? 街並みにはちょっとした自身があるのですよ』
『素晴らしい。その一言に尽きますね。道、家屋、共に宝石を散りばめたように輝いていて眩しいくらいです』
まぁこんなことは言わないが、住民であろうゴブリンがこちらを見てヒソヒソと話しているのが気になると言えば気になる。時折聞こえてくる『ペット?』という疑問符がついた言葉は特に気になる。一体俺は誰のペットに見えているのだろうか。ミエラさんなら是非ペットにしていただきたい。首輪をつけるから散歩に連れて行ってほしい。あ、男性は結構です。
視線を町長に戻す。
この人は時折こちらを探るような眼で見ている時がある。こういう人にはよいしょに限るな。間違ってもヒソヒソ声を気にしているなんて言ってはいけない。
『ふふ、ありがとうございます。他の村の方々から褒められたことはあっても、人種に褒められた村はこの村は初でしょうね』
嬉しそうに笑う町長。どうやらよいしょが成功した模様。この人には油断なくよいしょしていきたい。
まぁ褒めた人種はパンツ一丁だけどな。
『では、こちらの服屋にて服を見繕いましょう。好みの物をお持ちください』
『ありがとうございます。では、お言葉に甘えて』
やっとこさついた服屋さん。やはり素晴らしい。現代日本と比べて多少肌触りがごわごわするものの着ていて全く不快に思わない衣服がそろっていた。
ここはやはり異世界風で行きたい。そう思っていただいたのはTシャツっぽい物と七分丈のズボン、何故かスパイクのようになっているスニーカーっぽい靴。そして黒のローブだ。このローブさえあれば良い。これで大丈夫。これで異世界っぽくなる。鏡なんざ無いから確認していないが大丈夫なはずだ。
衣服を身に纏い新人に進化した。布の衣服というのはこんなにも素晴らしい物だったのかと実感する。やっと俺は、人になった。よろしく、人間。さようなら、猿。
その新人に進化した俺が次に向かうのは町長宅である。そう、とうとう俺の炊事スキルがお披露目となる時がきたのだ。
やはり俺はまだ完全には信用されていないのだろう。お供と思われる方々、そしてミエラさんも付いてくる。信用されていないというのに何故だろう。とても嬉しい。ミエラさんがついてきてくれている、その事実が俺の幸せに直結しているようだ。
町長宅はやはり大きい。周りの普通の家の3倍はあるだろう、という大きさだ。これは食材、調味料共に期待ができそうである。スパイス勢ぞろいなら調子にのってカレーを作っちゃうまである。
そして通される調理室。
とても広い。やはり生活の水準がとても高いように思える。見るだけれ分かる。フライパン、鍋、調味料各種。そして見たこともないような数十種類はあるであろうスパイス。
とんでもなかった。この世界のゴブリンさんマジぱねぇっす。理知的過ぎる。
どうやら理知的が故に気づかいがとても行き届いている模様。なんと調理の際の補助としてミエラさんをつけてくれたようなのだ。他の皆さんは町長と共に部屋を移動。今は俺とミエラさんの二人きりである。
『さて、それでは調理を開始しましょうか。まずは私が得意な料理を2種類作ってみて、そして気に入っていただけたもののレシピをお教えしようかと思います。ミエラさんは調理の補助として残っていただけたのですか?』
『ミエラ、呼ぶの、嫌』
『あ、はい』
大分会話に慣れてきた様子のミエラさん。これで名前呼びを拒否られること帰りの道中を含め5回目である。
そろそろ本格的に嫌われてしまいそうなのでなんて呼べばいいか聞いてみるしかあるまい。
ぷにぷにほっぺには嫌われたくないでござる。
『で、ではなんとお呼びいたしましょうか?』
『ゴブミエラ、呼ぶ、ミエラ、親しい人、だけ』
どうやらあだ名呼びがダメだった様子。あだ名は親しい人しか呼んではいけないらしい。あったよね、小学校の頃にそんなイジメ。
『私はゴブミエラさんのことが好きですが、ゴブミエラさんは私のことが嫌いですか?』
『黒、知らない。人、嫌い』
人種、君たちはいったい何をしたというのだ。同じ人種として恥ずかしいし怒りすら覚える。
まぁ怒りを感じている一番の原因はミエラさんに人種だということで疑われている、または嫌われているからだが。
『それは仕方ありませんね。人種に非がありますので。それではこれから私という個人を見ていただいて好意を抱いていただけるよう努力しますよ』
『…っ』
少し目を見開いてこちらを見るミエラさん。顔面偏差値がどこまで頑張って高く見積もっても中の中である俺。雰囲気だけは頑張ってかっこつける。
『だって私は貴方というゴブリンが大好きなのですから』
かっこつけるつもりが逆に苛立たせてしまった様子。顔がどんどんと赤くなっていく。眉も吊り上がっていく。やはりダメか。ブサメンではダメか。
そりゃそうだよな。俺がミエラさんでも、こんなブサメンに決め顔されたらイラッとするわ。
『…っっ! 私、貴方のこと、嫌い! 嘘、つき! 私、可愛く、ない!』
どうやらミエラさんは自分のことを物凄く低く見ている様子。そうなのだろうか、ゴブリンの中では可愛くない部類なのだろうか。ゴブリンと人種だ、美的感覚が違っていたとしても不思議はない。
だが俺は、その小さな体を抱きしめたいし、そして大きな胸はむしゃぶりつきたいし、眼はとってもぱっちりしていて舐めたいし、唇は薄く透明感があって吸い付きたいし、鼻もすっととおっててキスマークを残したい。
嫌悪できる箇所が一か所も見当たらない。と少なくとも俺は思う。
『ゴブリンと人種では美的感覚が違うのでしょうか? 私は貴方のことが可愛らしく魅力的だと思っているのですが』
『~~~~~~!!!!』
『ぐふっ』
雰囲気イケメン。またも失敗した模様。腹パンされた。
女性と交際したことが無いだけあるな。言葉のチョイスがダメなのだろう。
ミエラさんは眉根を寄せて緑色の頬を今まで見たことが無い程に真っ赤に染めてこちらを泣きそうな目で睨んでいる。
調子にのりすぎた。ダメだこれは。会話の緊急離脱を図ろう。
料理の話へとシフトしよう。
『さ、さて、では料理を始めましょう。今回はチャーハンと餃子を作りたいと思います。』
まだこちらを見つめ続けるミエラさん。殺す勢いで睨んでいる。ここまで深い溝があるというのか、人とゴブリンの間には。ゆっくりと解きほぐしていけるように努力するとしよう。
さて、料理タイムなのだが、どうにも助手であるミエラさんが乗り気ではない様子。まぁそれは仕方無い。自分が機嫌を損ねてしまったのだから。助手はいないものとして一人で黙々と作るしかない。
餃子、チャーハン共に簡単な料理なのだ。すぐにできるさ。その間ミエラさんにはレシピのメモをとっておいてもらうとしよう。
『ほあちゃぁああああああ』
『焼く、時、『ほあちゃぁああああああ』と、叫ぶ』
いや、それはメモらなくて良いよ?
中華鍋を振るう時の叫び声はメモらなくて良いよ?
2時間後。どうにか料理を作り終える。餃子とチャーハンなんて30分もあればできると思っていたが異世界なめてた。そりゃ餃子の皮なんて無いよね。じゃぁ作ろう、ってなるとめっちゃ時間かかる。寝かせる時間が暇すぎた。
『いやぁ、非常に香ばしい匂いがしていますね。これはなんという料理なのですか?』
町長さんが目の前に出された料理をキラキラした目で見ている。
『それは餃子、そしてチャーハンという料理になります。私の故郷ではどちらも若者に大人気でした。気に入っていただけると幸いです。冷める前にお召し上がり下さい』
『チャーハン、餃子、素晴らしい匂いですね。確かに、これ程の料理です。冷めてしまっては勿体ない。いただきましょう』
この異世界。食事の作法までもが美しいゴブリンです。
『お、おお!! これは美味しい。この香り、ニンニクを豊富に使われているようですね。その他にもネギ、玉ねぎ、と香りの強い物を使っている様子。それをこの酢に絡めて食べることで清涼感も味わいつつ濃厚な口どけになっています。素晴らしい。
このチャーハンというものは一つ一つの具材に下味をつけているようですね。特にこの豚肉。何か他の…魚介類の香りづけがされている様子。ネギは胡麻の強い香りが。
ん~、確かにこれは若者に流行るかもしれませんね。特に男性が好みそうなインパクトのある味付けです。』
匂いで腹が活性化でもしたのだろうか。最初からお上品ながらもかなりの勢いで食べる町長。周りも羨ましそうに眺めている。
最初、町長が食べる前に毒見を…と言い出した護衛がいたが町長はそれを許さず手を払われていた。
食後、町長は満足気にお茶を飲んでいる。他の面々は護衛だ。当然食事をとることもない。お腹が空いているのだろう。時折隣のミエラさんのお腹から(くるるるる)という可愛い音色が聞こえてくる。
ミエラさんもこちらに聞こえていることを理解しているのか視線を床に向けてプルプルと震えている。大丈夫だよミエラさん。とても可愛い音色だよ。なんだったらそのお腹に直接耳をドッキングして聞きたいまである。
そして冗談でこう言うのだ『あ、動いた!』と。そして殴られる。そんな仲睦まじいバカップルのようなやり取りに憧れる。
町長がこちらに目線を向ける。どうやらこれからが本題の様だ。もう少しミエラさんのお腹の音に耳を澄ませていたかったがしょうがない。
『とても美味しかったです。ありがとうございました。とても価値のあるレシピ。丁重に扱わせていただきますね』
『いえ、気に入っていただけたようで安心致しました。どちらも助けて頂いたお礼として差し上げたレシピです。ご自由にお使いいただけたら幸いです』
暫くの間が開く。町長の目が少し開いてこちらを見つめていた。どうやらここからが本題らしい。
『さて、黒さん。少し大事な話を致しましょう』
出た。大事な話。こういう話は大抵ろくなものが無いと相場が決まっている。はっきり言って聞きたくない。このままミエラさんのお腹の音だけ聞いて生きていたい。
そう考えるも町長は俺の耳に届くミエラ音を妨げるように声を発する。
『こちらは衣服を提供し、そちらは料理のレシピを提供する。そしてそれは終わり、これで私と貴方は貸し借り無しの関係となった。そこで私は貴方を開放して差し上げたいと思っているのですよ』
ほほう。【私は】と来ましたか。これはヤバい匂いがしますね。ミエラさんの腋に顔を突っ込んで匂いの上書きをしたい。
『ですがですね。どうやら村の中に、殺してしまおう、という意見の方が多数出ているのですよ。
やはり私としては対等な関係として帰して差し上げたいと思うのですが、どうにも心配性な方々が多い、そして町長としてはそういった意見も無視できないのですよ。
ですから』
町長さん、眼、がん開きじゃないですか。しかも笑ってないし。
『この村の事を今後一切誰にも漏らさないことを、そしてゴブリンに対し害さないということを誓い、この魔契紙にサインを頂きたいのです』
『っ! 町長、それ、は!!』
隣から驚きの声が上がる。心配してくれているのだろうか、このブサメンを。でもありがとう、お陰で納得した。
成程、そういうことか。成程成程。失敬だな、とか、少しは信用してくれよ、なんて思わないことも無いが、でも仕方がないという思いの方が強い。
里の情報、それが人間にバレれば当然討伐対象として里自体をつぶそうと動き出すだろうし、そんな情報を人間である俺が持っているとなるとそりゃ殺してしまおう、ってなるだろう。それ程人間はゴブリンという種族の恨みを買っているのだ。
そして魔契紙というのは多分魔法を使った契約書かなにかだろう。破ったら頭吹っ飛ぶとかそんな系だと思われる。
破らないし良いだろう。
それにここで断ったりしたら俺にやましいところがあるとされてしまう。それはいけない。種族間の溝が深まるばかりになってしまう。
そしてそれに伴い俺とミエラさんの心の距離も遠のいてしまう。それはいけない。遠のいてはダメだ。ぴったんこが良い。
『分かりました。良いですよサイン致します』
『よろしいのですね? 破ることはできませんよ。破ろうとしても口は開かぬでしょうし、破ろうとした時点で貴方は死ぬことになるでしょう。理解していますか?』
どういった死に方をするのかは少し気になるがまぁ破る気などさらさらないのだ。気にしてもしょうがない。
『えぇ、結構ですとも。それで少しでも皆様が安心できるのでしたら願ってもないことです』
『…では、サインを。ミエラ、貴方はサインが終わり次第ナイフで黒様の指先を切って差し上げなさい』
どうも血判が必要らしい。聞いていないよ。
だがこちらの覚悟は伝わったらしい。町長、そして護衛一同が一瞬息をのんだのが表情から見て取れた。
ミエラさんは何故か泣きそうな眼をしながら俺のローブを引っ張る。
優しい人だ。いや、優しいゴブリンだ。こんなにも人種である俺のことを心配してくれるとは。
だが大丈夫だミエラさん。安心してほしい。俺はブサメンだが約束を違うようなことはしないから。ブサメンを信じてくれ。
俺はブサイクな面で笑ってローブからミエラさんの手を外す。
やってやろうではないか。
さて、これから魔契紙にサインするわけなのだが、これは偽名で良いのだろうか。最後に血判した後死なない?
本名で書こうとも思ったがここまできて偽名だとバレて関係が崩れてしまうのはなんとしても避けたい。なによりかっこつけた後なのにそれはダサすぎる。ミエラさんの前なんだ、少しでも心の距離が遠くなる行動言動は避けたい。
というか偽名で書いたとして、もし死ぬんだとしたらどれくらいの猶予があるか聞いておいた方が良かったかもしれない。
多少は知り合った仲なのだ、もしかしたら死ぬ間際にミエラさんがおっぱいを揉ませてくれるかもしれない。
死因が一瞬で頭ぱぁんだったら不可能だ。どうか心肺停止とか足から灰になるとか数瞬だけでも猶予がある死に方であってほしい。頼む。
『書き終わりました。血判もこの通り。これでよろしいですか?』
結論。どうやら偽名でも大丈夫のようだ。
相手方に見えやすいように書き終えた書類渡す。勿論ミエラさんが震える手で俺の指先を切ってくれたおかげで血判も済んでいる。
するとどうだろう、町長の手に書類が渡った瞬間、書類上の空中に無数の魔法陣らしき物が浮き出たではないか。
紫色に輝いていらっしゃる。なにそれかっけー。
空中に浮かぶ魔法陣はやがて一つにまとまるように重なり、より複雑な魔法陣になる。最後に書類上に魔法陣が重なると同時。
俺は腹部に焼き鏝を押し付けられたような痛みを感じた。
『っっああっああああああああ』
や、やはり偽名はダメだったのかああああ
だが、だが大丈夫。これは多分数瞬だが猶予があるパターンの痛みだ。大丈夫。
『み、ミエラさん、どうやら私はこれまでの様です。最後に、お、ねがい、が…』
『…なに。それ、と、ミエラ、嫌』
こんな時までクールビューティーなミエラさん愛してる。これは更なる高望みであったぱふぱふはダメそうだな。予定通りおっぱいを揉むお願いにしておこう。
『おっぱいを揉ませてください』
『嫌』
ダメだった。
だがまぁ良い人生だった。まだ転移して一日も経ってないけど、こんな美しいゴブリンと出会えたのだから。
神様、俺の来世はミエラさんのブラジャーでお願いします。できる限り頑丈で汚れが落ちやすいタイプ。一生ミエラさんと連れ添えるようなタイプのブラジャーで。
あとできれば脱がせ難いブラジャーでお願いします。男が触れると石化する能力も付けていただけると有難いです。
来世のついてそこまで思いをはせていると、視界がブラックアウトした。
2話でした。一応プロットの段階で主要人物のキャラクターは固まっていた筈なのですがどうにもブレがあるように思います。精進していきたいと思います。