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今語られる、衝撃の事実


「おーい、そろそろ起きなよー」

 

 横たわる鋼太郎の顔をペチペチと叩く無遠慮な手の感触。

 それは中年サラリーマンのカサついた手だった。

 

 途端に不機嫌になる鋼太郎。


「(どうせなら女神様に優しく起こしてもらいたかったのに……)」

 

 と心中で愚痴をこぼしつつ、鋼太郎は中年サラリーマンの手を鬱陶しげに振り払う。

 

「お、起きたかい? いやぁ、お見事の一言に尽きるねぇ。まさか本当にあれだけの『影』を倒すだなんて、自分でけしかけといて何だけど吃驚仰天(クリビツテンギョー)だよ。君なら本当に異世界を救えちゃうかもって思えちゃうよ」

 

 軽薄な薄ら笑いと共に、中年サラリーマンはそう感想を述べる。

 眼鏡の奥の瞳は相変わらず死んだ魚のように濁りきってはいるが、不思議とその賛辞に偽りは無いように、鋼太郎には思えた。

 

 するとそこへ、金髪キャリアウーマンが現れた。

 そして倒れている鋼太郎へ手を伸ばす。

 

「ではコウタローさん、これより最終的な説明をさせて頂きたいのですが、立てますか?」

 

「あ、は、はい」

 

 鋼太郎は金髪キャリアウーマンの小さな手を握り、そしてゆっくりと立ち上がる。

 歳上の美人なお姉さまの手を握っただけで、鋼太郎の頬は赤く染まっていた。

 彼女居ない歴=年齢の少年は、女性に対する免疫力が極端に低いのであった。

 

「っとと……」

 

 が、立ち上がった鋼太郎は足にチカラが入らず、身体をよろけさせてしまう。

 そして再び床に倒れようとしたその時……

 

「大丈夫ですか?」

 

 と、金髪キャリアウーマンが鋼太郎の上体を支えた。

 支えたのは良いが、金髪キャリアウーマンの身体の特に柔らかい箇所が、鋼太郎の顔に触れてしまう。

 

 仮にその柔らかい箇所とが触れた瞬間を、音で形容するならば……

 

 

 

 ムニュン♡

 

 

 

 であろうか。

 当然、童貞小僧の鋼太郎にはその柔らかさは刺激が強過ぎる。

 強過ぎて最早、毒である。

 

「う、うわぁあぁあああっ!? す、すみません! すみませんんんっっ!!」

 

 斯くして異世界の神と女神は、日本人の全力連続高速顔面叩きつけ土下座という異文化を、まざまざと見せつけられる事となるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

「さて、と……落ち着いた?」

 

 中年サラリーマンは、額を赤く腫らしながら項垂(うなだ)れる鋼太郎に問い掛ける。

 

「はい……本当にすみませんでした……」

 

「あの、私は気にしていませんから……コウタローさんに悪意は無かったのは、すぐに解りましたので」

 

 正座して反省の意を示す鋼太郎に、金髪キャリアウーマンは苦笑しながらも鋼太郎の謝罪を受け入れる。

 ちなみに鋼太郎に何度も何度も顔面を叩きつけられた床石は、無惨にも粉々に砕け散っているだけでなく、軽く穴まで空いてしまっている。

 

「はいはい、じゃあここらで君のチート能力に対して最終確認をするよ?」

 

 中年サラリーマンが手を叩き、鋼太郎に注目を促す。

 それを聞き、鋼太郎に改めて立つよう勧める金髪キャリアウーマンと、それに従う鋼太郎。

 

 場に緊張を伴った静寂が流れる。

 そしてその静寂を打ち破ったのは、中年サラリーマンの咳払いだった。

 

 

 

「コホン、あー……では1つ1つ説明するとしようか。まず、オリハルコンに包まれた君の身体……仮に『(ゴッド)(アーマー)』と命名するけど、その性能は君の身体で実証してくれたワケだ」

 

「でも君はさっきの戦闘で、目に見える怪我こそ追わなかったものの、実際には痛みを感じたし、ダメージも受けているよね?」

 

「そう。それが君と僕達にしか見えない、HP(ヒットポイント)の表記さ。現在の君のHPの上限は5000で、それがゼロになれば君は死ぬ。今度こそ君の魂はあの世に送られ、生き返る事は出来ない」

 

 その説明を聞き、背中に悪寒が走る鋼太郎。

 

「そう悲観する事は無いよ。異世界の人間の平均的なHPが20とか30の世界で、君のHPは文字通りの桁違いさ。さっきみたいな『影』クラスの魔物に集団でタコ殴りにでもされない限り、そう簡単には死なないよ」

 

「そして君のHPも、オリハルコンによる防御力も、君自身が強くなる事によって更に上昇する。つまり序盤での突然死にさえ気をつけておけば、後はどんどん安泰になるって事さ」

 

 とりあえず異世界に渡って数ヶ月は、中ボス級との戦闘すら避けるように気をつけよう。

 そう堅く誓う鋼太郎だった。

 

 

 

「次に『(ゴッド)武具(アームズ)』だけど、これは君が頭に思い描いた武器を自由に創造する事が出来る。漫画やアニメ、ゲームの知識が豊富にある君には、まさにうってつけのチート能力ってワケだね。だけどこれにもデメリットはあるんだけど……さて、それは何でしょうか?」

 

 と、急に中年サラリーマンから出題されて面食らう鋼太郎。

 鋼太郎は先程までの戦闘を振り返り、思いつくままに言葉にする。

 

「えっと……まずは、武器の名前を叫ばないと発動しない……ですか?」

 

「そうだね。プロセスとしてはまず君が発動させたい武器を頭の中で思い描く。そしてその武器の名前を大声で叫ぶ。するとどこからかその武器由来のBGMが大音量で流れて、そして武器が出現するというワケさ」

 

 しかし中年サラリーマンの説明を聞いた鋼太郎は、何故かキョトンとした顔になる。


「え? それのどこがデメリットなんですか?」

 

「おや、解らないかな? つまり君の雄叫びやBGMは、君だけじゃなく耳の付いてる者には必ず聞こえてしまうんだよ? つまり君が攻撃の意思を示した時、それは敵対する者にも伝わってしまうって事なのさ」

 

「……あ」

 

 そう。このチート能力の最大の難点こそ『大声で叫ぶ』と『BGMが大音量で流れる』なのである。

 ゲームではそれが当たり前になっていた為、鋼太郎はそれがデメリットになる事など思いもよらなかった。

 

 だが今から鋼太郎が身を投じるのは、ゲームでも漫画でも、ましてやアニメじゃない! のである。

 異世界と言われると浮世離れはしているが、肉と肉とがぶつかり合う、歴とした現実の世界での戦いなのだ。

 

 剣と魔法を軸にした世界に於いて、正々堂々名乗りを挙げての1対1の戦いばかりとは限らない。

 戦場での夜討ち朝駆けは言うに及ばず、伏兵・奇襲・騙し討ち・暗殺・毒殺・何でもごされだ。

 

 そんな中で鋼太郎の戦闘手段はかなり独特なものになるだろう。

 いつ如何なる時でも、その場に居る敵味方を含めた全ての者の注目を集めざるを得ない。

 戦い方の選択肢がかなり限定されるのは間違い無い。

 

「まぁそれをデメリットと取るかは君次第かもね。正直、あの武器の破壊力なら小細工を弄する必要は無いかも知れないし」

 

「えぇ。もしかしたらコウタローさんなら、誰もが憧れる勇者や英雄のような、一騎当千の強者として認められるでしょうね」

 

 中年サラリーマンと金髪キャリアウーマンがそう褒めそやす。

 

「え? そ、そっすかぁ? いや、俺もさすがにどうかなぁとは思ったんですけど……そうっすよね! 男なら正々堂々と正面突破っすよね! コソコソチマチマした戦い方なんて、俺には相応しくないっすよ!」

 

 すると単純なもので、今まで感じていた不安もどこへやら。

 

「(ま、この単純な性格が吉と出るか凶と出るか……君でダメなら、その時は……ね)」

 

 その様子を見ながら、中年サラリーマンは口の端を僅かに吊り上げる。

 眼鏡の奥のどんよりとした目は、一切笑わせる事もなく。

 


 

「で、最後の『(ゴッド)知恵(ウィズダム)』なんだけど、これにもデメリット……というか、少し制限があってね……コマンドの種類によってはチャージタイムが必要になるんだ」

 

「チャージタイム……ですか? それってさっきコマンドを使った時に聞いたような……」

 

 それとは別に、鋼太郎はその単語に聞き覚えが無かった。

 現代に於いてそのチャージタイムという単語は、主にソーシャルゲームにてよく目にする単語なのだが、鋼太郎は生憎とソーシャルゲームには手を出していなかった。

 というか鋼太郎は、高校生にもなってスマホを持っていなかった。(姉と妹は持っているのに)

 

「例えば同一のコマンドを繰り返し使用したくても、そのコマンドを再使用出来るようになるまでには待機時間を挟まなければいけないんだ。君がさっきの『影』との戦闘で使った『集中(コンセントレーション)』は、1分で効果が切れるだろ? でもその後また使用しようとしても、えっと……そうそう、3分間待たないと再使用出来ないようになっているんだ」

 

 中年サラリーマンは金髪キャリアウーマンの持っているタブレット端末の画面を確認しながらそう言う。

 

「え、でも俺の知ってるゲームだと、各キャラクターに割り振られた精神(スピリット)ポイントってのがあって、そのポイント内なら何度でも自由に……」

 

「その辺が君の知るシステムとの違いかな。言っておくけど、私達がそういう風に改変したワケじゃないよ? 私は君の脳内にあるスーパーロボットの知識を基礎にして、そこから君だけの独自のチート能力を構築したに過ぎないからねぇ」

 

 戸惑う鋼太郎に、中年サラリーマンはやれやれと言わんばかりに両手を拡げてお手上げのポーズを見せる。

 

「つまり今の君のチート能力を創り出したのは、9割方は君なんだよ。私はそのキッカケを与えたに過ぎないんだからねぇ……でも不思議だねぇ? 何で本人の意図しない書き換えが行われたのか……こんなケースは初めてだなぁ」

 

 中年サラリーマンが白髪混じりのボサボサ髪を指で掻き毟る。

 すると、金髪キャリアウーマンが遠慮がちに手を挙げ、ポツリと呟く。


「恐らくですが……チート能力を授ける際に、我々とコウタローさんとの認識に少しばかりズレがあったのではないでしょうか?」

 

 そう。鋼太郎は別に自らがスーパーロボットになりたいと思ったワケではなかった事を思い出した。

 

「そうだよ! 俺は『スーパーロボットに乗りたい』ってお願いしたんであって、俺自身がスーパーロボットになりたかったワケじゃないんですよ!」

 

 鋼太郎の抗議を受けた中年サラリーマンは、間の抜けた顔を晒す。

 まるで鳩がマシンガンを喰らったような顔で。

 

「え? そうなの? じゃあ私が聞き間違えたって事? いやぁ、そりゃメンゴメンゴ。許してチョンマゲ♡」

 

 イラッ。

 鋼太郎は、この糞中年の黒縁眼鏡をロケットナックルで顔面ごと叩き割ってやりたいと云う衝動を必死に抑える。

 

「まぁ仮に聞き間違えなかったとしても、そんな大それたチート能力は授けられなかったと思うよ? 私に与えられた権限を超えるお願いは聞けないし、今君に授けた能力くらいが適切な範囲だと思って、妥協して頂戴よ、ね?」

 

 拝むように手を合わせられては、鋼太郎もそれ以上の抗議をし難い。

 確かに中年サラリーマンは「突拍子も無いお願いでなければ何でも叶える」と前もって注意していたのを思い出した。

 それなら「スーパーロボットに乗って魔王を踏み潰してハッピーエンド!」という計画は、口に出す前から既に破綻していたと考えるべきだろう。

 

 それに、願いのベクトルは違ったとしても、結果として鋼太郎は素晴らしいチカラを得られたと思っている。

 個々の能力のデメリットは多少なりとも煩雑ではあるが、その困難を乗り越えてこそのヒーローではないか? と勝手に脳内で盛り上がる鋼太郎。

 

 とりあえず鋼太郎は更に中年サラリーマンからチート能力の説明を聞き、今までに出た懸念材料を整理して考えてみた。

 項目は以下の通りである。

 

 

 

 ①『(ゴッド)(アーマー)』(オリハルコンによる防御力)についての問題点。

 ・現在の鋼太郎のレベルは1で、防御力は最薄。

 ・受けるダメージが大きければ大きいほど、感じる痛みも増す。

 ・HPの上限は5000。これがゼロになると死ぬ。

 ・これ等に関しては、レベルが上がれば改善されるとの事。

 

 ②『(ゴッド)武具(アームズ)』(スーパーロボット各種の武器)についての問題点。

 ・スーパーロボットが実際に武器を使用している時の詳細なイメージを、頭に思い描く。

 ・武器の名前を可能な限り大声で叫ぶ。

 ・それが承認されると、そのスーパーロボットに纏わるBGMが流れ、武器が顕現する。

 ・それ等は全て敵に丸聞こえで、挙動がバレ易く、潜入作戦や奇襲等には不向き。

 ・武器を使用する度に、体力を消耗する。この体力はHPとは別で、特に数値化されてはいない。

 ・威力の高い武器ほど消耗が激しく、体力が無くなればその場で昏倒する。ので、武器の濫用は極力避けるべし。

 

 ③『(ゴッド)知恵(ウィズダム)』(精神(スピリット)コマンド)についての問題点。

 ・多種多様なコマンドによって、自分や味方ユニットへのステータス上昇効果や、敵ユニットへのステータス下降及び妨害効果を発動させる事が可能。

 ・ただし一定時間経過しなければ、コマンドを再使用する事が出来ない。

 ・再使用可能までのチャージタイムはそれぞれのコマンドによって違い、分単位・時単位なものもあれば、何日間・何ヵ月間も掛かるもの、ともすれば1度使ってしまえば2度と使えないものもあるかも知れない。

 ・『手加減(アラウアンス)』の効果により、鋼太郎が知的生命体と認識した敵を攻撃しても、HPがゼロにならない。この『手加減(アラウアンス)』は常時発動し、鋼太郎には解除出来ない。

 

 

 

「ってところかな。さて、理解出来た?」

 

「は、はい……何とか……」

 

 鋼太郎は額に手を当てながら、脳をフル回転させている。

 だが元々勉強の類が苦手であり、その記憶要領が乏しい脳に無理矢理に情報を詰め込んでいる為、オーバーフロー寸前である。

 まさに脳みそがフットーしそうだよぉ! 状態なのだ。

 

「ま、大丈夫さ。その辺の対策も考えてあるからね……じゃあ行こうか」

 

 中年サラリーマンはそう言うと、右手の指をパチンと鳴らす。

 すると白い壁・白い床・白い天井だった部屋が、あっという間に変化した。

 

「え? は? えぇ?」

 

 気がつけば、鋼太郎達は不思議な部屋の中央に立っていた。

 広さは高校の教室程度だろうか。

 壁も床も天井も、コンクリート打ちっぱなしの灰色一色であり、照明は天井からぶら下がる裸電球のオレンジの光のみ。

 

 そして奥には黒い扉が1つだけある。

 中年サラリーマンと金髪キャリアウーマンは、鋼太郎をその黒い扉の前まで誘導する。

 

「さて、君にはいよいよこの扉の向こう……異世界に旅立ってもらうワケなんだけど」

 

 いよいよか……と鋼太郎は武者震いする。

 

 現在の自分の状況は理解した。

 その手詰まりな状況を打破する為に、異世界へと赴き魔王を倒す事で、鋼太郎は失った命を取り戻し、再び日本へ帰れる事も知った。

 

 そして、異世界で生き抜く為に必要な能力も授かった。

 後は異世界で上手く能力を引き出す訓練なりを行えば良い。

 

「異世界の魔王を倒せば、異世界と地球の平和を守る事が出来るし、君は無事生き返る事が出来る。君にとっても、そして我々にとってもお互いに利益がある」

 

 薄暗い部屋の中、中年サラリーマンは黒縁眼鏡をクイッと上げる。

 その双眸は薄暗闇に隠れ、窺い知る事は出来ない。

 

「……だからこそ、君には全てを知ってもらいたいんだ。私達にはもう、これ以上の失敗は許されないからね」

 

 中年サラリーマンの言葉に、鋼太郎の理解が追いつかない。

 え? え? と中年サラリーマンと金髪キャリアウーマンの顔を交互に見比べる鋼太郎。

 

 そんな鋼太郎の不安を無視して、中年サラリーマンは告げる。

 

「実はね、これから君が挑む異世界には、既に先行してる子達が居たんだ」

 

「……え?」

 

「でも、その子達全員と連絡が途絶えちゃってね……君は6人目の挑戦者なんだ」

 

「……………………えっ?」

 

 

 


次回更新は5月31日18時です。

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