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強さの証明


 鋼太郎が目覚めた時、彼は床に倒れ伏していた。

 そして目覚めた場所は、豪華な調度品に彩られていたハズのあの部屋ではなかった。


 鋼太郎がこちらの世界に来て初めて目にしたような、白一色の無味乾燥な広い部屋だった。


「やぁ、目が覚めたかい?」


 声のする方に視線を向けると、見覚えのある顔が。

 床に寝そべっている鋼太郎を、中年サラリーマンと金髪キャリアウーマンが立ったまま見下ろしている。


 中年サラリーマンのヘラヘラとした笑顔にムカついた鋼太郎ではあったが、金髪キャリアウーマンの短いスカートの中身を見てしまいそうになり、慌てて視線を逸らす。

 これ幸いとばかりにラッキースケベを甘受しないのが、黒鉄鋼太郎という少年なのだ。


「コウタローさん、立てますか?」


 顔を赤く染める鋼太郎。金髪キャリアウーマンはそんな鋼太郎を立ち上がらせるべく、手を差し出す。

 鋼太郎は一瞬だけ戸惑ったが、その細く小さな手に自分の手を添えて立ち上がる。


「……ども」


「いえいえ」


 赤い顔を俯かせたまま、短い礼の言葉を述べる鋼太郎。

 そんな初々しい鋼太郎の反応に思わず頬を緩ませる金髪キャリアウーマン。

 初めて見た金髪キャリアウーマンの屈託の無い笑顔に、更に顔を赤らめる鋼太郎。


 あぁ青春也。




「で、だ。無事にチート能力授与の儀を終えたワケだけども、何か身体に変調があったりはしないかな?」


 中年サラリーマンが鋼太郎に尋ねる。

 鋼太郎は中年サラリーマンに言いたい事が山のようにあるが、とりあえずは何も言わずに自分の身体を手探りで確かめる。


 謎の怪光線を浴びた時は、全身に強力な電撃を喰らったかのような激しい痛みを感じたが、今は痛みや痺れなどは感じない。

 試しに手足を曲げ伸ばしたり、各部関節を捻ってみたが何の異常も無さそうだ。


 お前がスーパーロボットになるんだよぉ! なんて宣言をされたのだから、てっきり全身が超合金になったり、動く度にウィーンガシャンウィーンガシャンと駆動音が鳴るのではと思っていたが、そうはならなかったようでホッとする鋼太郎。


「大丈夫っぽい、ですけど……俺、今の状態でチート能力? ってヤツは身についてるんですか?」


「うん、まずはそれを検証したくてここに来たのさ。1つずつ説明して行くけど、私が与えた不可思議なパワーにより、君は常人とはかけ離れた能力を3つ手に入れた」


 と、左手の指を3本立てて見せる中年サラリーマン。


「まずは1つ目だけど、これを見てほしい」


 と言って中年サラリーマンが背広のポケットから取り出したのは、拳大程度の何かの塊だった。

 石か金属か、そのどれにも似ていて非なる物質のようにも見える。

 その塊は、キラキラと7色に光り輝いていた。


「……何ですか、これ?」


「これはオリハルコンだよ。聞いた事は無いかな?」


 オリハルコン。

 ギリシャ神話を始めとして、様々な伝承にも語り継がれる空想上の鉱物。

 ファンタジー系のアニメや漫画・ゲームにも多々登場するので、鋼太郎くらいの年頃の男の子ならば、名前くらいは聞いていてもおかしくはない。


 だが鋼太郎はロボットアニメをこよなく愛するが、RPG系はさっぱりである。ファンタジー系のモンスターに関して知っている知識と云えばドラゴン・ゴブリン・スライム程度だ。

 これがファンタジー好きのラノベ好き少年であれば「えぇっ!? こ、これがあの伝説の!?」と小気味良いリアクションを期待してしまうところだが、生憎その手のジャンルに疎い鋼太郎はポカーンとしている。

 中年サラリーマンとしては多少ながらも勿体振って見せただけに、少しだけ居心地が悪そうに咳払いをする。


「……ちなみにね、このくらいの大きさのオリハルコンでも、異世界では国を巻き込んだ争奪戦になるくらいの貴重な代物だよ。我々神々の住まう天界でも、現存する数が少ない門外不出の激レアメタルを、今回は特別に使わせてもらう事が出来たんだ」


「はぁ……で、これが何か?」


「だからこう、もっとこちらが期待するようなリアクションをだね……まぁ良いや」


 自らの望むリアクションを鋼太郎から引き出す事を諦めた中年サラリーマンは、説明を優先させる事にしたようだ。


「詳しい説明は省略するけど、君の全身は今現在、このオリハルコンによってコーティングされてる状態なんだ」


「え?」


 中年サラリーマンの突然の宣告に、思わず自分の身体を確かめる鋼太郎。


「あぁ、見た目には解らないと思うよ。何せ君を覆ってるオリハルコンは、肉眼では見えないくらいに極薄だからね。そうだね、イメージとしては……薄くて透明な膜のようなものでラッピングされてると思ってもらいたい」


「はぁ……いや、でも触ってみた感じじゃあ、何も変化が無いんですけど……?」


 鋼太郎は自分の掌で、髪や皮膚や学ランを撫でてみるものの、何の違和感も感じられない。

 掌に伝わる感触は、自分の知っている髪や皮膚や学ランのそれでしかない。

 今まさに自分の全身がおかしな光沢を放つ金属に包まれてると言われても、(にわか)には信じ難い。


「まぁそうだろうね。こればっかりは身を以て体験しないと信じられないだろうし……じゃあ鋼太郎君、私と握手しよう、ほら」


 中年サラリーマンはそう言うと、持っていたオリハルコンを再びポケットに入れ、鋼太郎に右手を差し出す。

 鋼太郎は何の疑問も抱く事なく、差し出された右手を握る。


 その手に伝わるのは、確かに相手の体温と掌の感触だった。

 中年サラリーマンのややゴツゴツとした手を握っている自分の手をマジマジと見つめる鋼太郎だったが、これが一体何の証明になるのかはさっぱり解らない。


「あの……これって何の意味……が……?」


 顔を上げた鋼太郎は、自分の見たものが何なのか、一瞬理解が追いつかなかった。

 それは、銃口だった。

 自分の額の辺りに突きつけられていたのは、中年サラリーマンの左手に握られた一丁のリボルバー拳銃。


 黒々と鈍く光る、死への片道パスポート。


 中年サラリーマンは薄ら笑いを浮かべながら、親指で撃鉄を起こす。

 カチッと言う音と共に回るシリンダー。

 そして引鉄にかけられた人差し指が、あっさりと引かれ……




 パァンッ!!




 乾いた発砲音が、白い空間に響き渡った。

 銃口から放たれた無慈悲な鉛弾は、そのまま一直線に鋼太郎の眉間へと吸い込まれ、そして……




 ギイィンッ!!




「いってぇ!?」


 金属同士が激しく衝突し合う耳障りな音が響き、無慈悲な鉛弾は鋼太郎の眉間を穿つ事なく、弾き返された。

 それは衝撃的な光景だ。

 如何に小口径な拳銃と云えど、人間の身体には銃弾を弾き返す程の強度は無い。


 頭蓋骨が銃弾の侵入を阻止する事はあるかも知れない。

 が、今のようにほぼゼロ距離で発射したのにも関わらず、皮膚にすらキズ1つさえつかないのは異常と言わざるを得ない。


 だがダメージはゼロではないようで、鋼太郎は額を両手で押さえてうずくまっている。おまけに涙目である。

 中年サラリーマンは拳銃をポケットにしまい、床に転がっている鉛弾を拾う。


「ふむ……完全に潰れてるねぇ。なのに鋼太郎君にはキズ1つついてない。さすがはオリハルコンだねぇ。ちゃんと鋼太郎君の身体を守れているようだ」


 満足げに呟く中年サラリーマン。

 ウンウンと首肯(うなず)く金髪キャリアウーマン。

 そしてやおら立ちあがり、中年サラリーマンのスーツの襟を両手で思い切り掴む鋼太郎。


「な、ななな何しとんじゃアンタぁ!? どこの世界にイキナリ人の頭に拳銃ブッ放す神様が居るんだよぉっ!?」


「いや、ここに居るけど……って言うか、これで君の凄まじいまでの防御力は証明されたでしょ? 痛くなかったでしょ?」


「滅茶苦茶痛ぇわ! 地上最強の生物(オーガ)にデコピン喰らったくらいに痛かったわ!」


 鋼太郎は涙ながらに訴える。

 逆に言えばデコピンの痛み程度で済んでいる事にも驚きなのだが、下手すれば命を落としていたかも知れなかった事への恐怖と、この浮世離れした神に対する怒りとでそれどころではない。


「まぁまぁ。とにかく、これがオリハルコンの硬度さ。極薄の膜と言えど、ピストルの弾丸程度では君にキズ1つ与えられなかった。これは異世界では驚異のアドバンテージだよ」


「つまり君の身体は、その状態で並の剣も斧も槍も、矢も魔法ですらも跳ね返す。まさに無敵の盾とも動く要塞とも言える存在になったってワケさ」


「今はまだ君自身のレベルが低いから、多少のダメージは喰らうみたいだけど、それも君が経験を積んで強くなれば、同時に君を包むオリハルコンの硬度も増す。やがて君は全てを燃やし尽くすとも言われるドラゴンの炎を浴びてさえ、少しの火傷すらも負わなくなるだろうね」


 中年サラリーマンの説明に、鋼太郎の怒りも恐怖もあっと言う間に雲散霧消する。

 その身に走るのは感動と云う名の激情。

 子供の頃から夢見ていた鋼の巨人に、(くろがね)の城に、自分がなれたのだ。これで泣かずにいられようか。


「あ、ありっ、ありがどうございまずぅ……俺……俺ェ……」


 感動に咽び泣く鋼太郎。


「お、おぉぅ……よ、喜んでもらえたようで何よりだよ……」


 それを見て若干引き気味になる中年サラリーマンと、何故か妖艶に微笑む金髪キャリアウーマン。

 三者三様、それぞれの思惑が複雑に絡み合う。


 とか書くといかにも伏線っぽくなるが、別に伏線でも何でも無いという事だけ明記しておこう。


「それに、これだけでそんなに喜んでる場合じゃないと思うよ? 何せ君に与えた能力はこれだけじゃないんだから」


 中年サラリーマンの言葉に、鋼太郎は慌てて顔を上げる。

 そうだ。中年サラリーマンは確かに冒頭で『3つの能力』と言っていた。


 鋼太郎は全身の震えが止まらなかった。

 拳銃の弾丸すらものともしない(多少の傷みはあったものの)この鋼鉄の鎧に匹敵するような能力が、あと2つ残されているのだ。

 その意味が解る鋼太郎。震えが止まらぬのも無理からぬ事だ。


「ククク……早くも待ちきれないって顔になっているねぇ? まぁ変に勿体つけても可哀相だし、ここらで大発表しちゃいますかねぇ」


 中年サラリーマンはそう言うと、ケバいネクタイを締め直しつつオホンと軽く咳払いをして、十二分に勿体つける。

 片や鋼太郎も、さながらサッカーW杯の組み合わせ抽選会以上の緊張感で、中年サラリーマンの次の言葉を待つ。


 そして、中年サラリーマンは高らかに宣言する。


「……では、発表しよう。君の2つめのチート能力は、ズバリ! スーパーロボットの必殺技の数々を使う事が出来るっ!!」


「ウオオオオオオオオオオッ! キタコレエエエエエエエエエエ!!」





次回更新は5月27日18時です。

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