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反撃の閃光


 今まさに12本の飛来する小剣に刺し貫かれんとする鋼太郎。

 絶望の色に染まる鋼太郎とは対照的に、ゴレインは自らの勝利を確信していた。

 

 当初は自分の異能は極力見せず、鋼太郎がどんな異能を有しているのかを確認しようと思っていた。

 そして可能ならば、鋼太郎を捕らえて帝国まで連行しようとも考えていた。

 

 どうにも普通の無鉄砲なだけの少年とは思えない。

 そこそこのレベルとは言え、今回の任務の重要性を考えた上で全員異能使いで固めた男達は、あのコウタローという名の少年に倒されてしまったのだから。

 

 何らかの異能を使うのは間違いない。

 それも、とびっきり強力な。

 

 そして聞き慣れぬ名を聞いてみて、試しにカマを掛けてみれば……。

 なんと、少年は異世界人だったのだ。

 ならばその強さも納得出来るというものだ。

 

 異世界人───ここ最近、各地で型破りな活躍をしていると聞く。

 帝国や皇国、他大小の王国で異世界人の話を聞かない日は無い、という程に。

 

 やれ突然飛来した飛竜(ワイバーン)の群から街を救ったとか。

 やれ某国の暗君を暗殺し、劣勢だった革命軍を勝利に導いたとか。

 やれ国同士の戦争に単騎で介入し、結果両国を壊滅寸前まで追い込んだとか。

 やれとある大奴隷商から全ての奴隷(100人超)を買い占め、その全てに故郷へ帰る為の路銀を渡して解放したとか。

 

 ゴレイン自身はそれ等の噂話のほとんどは、眉に唾して聞く類いのものだと思っていた。

 ともあれ共通しているのは見た事も無いような奇天烈で強力な異能を使う事と、その異世界人が黒髪に黒目だという事だ。

 

 そしてその特徴にピッタリ当てはまったのが、目の前の鋼太郎なのだ。

 だが鋼太郎が本物の異世界人かどうかはまだ確証が持てない。

 そもそも異世界人は1人だけでなく、複数居るという噂もある。

 

 が、そんなものは捕らえてから尋問すれば良いのだ。

 何となれば、あの白い子供を人質にする事も考えている。

 

 あの『杖』さえ奪ってしまえば後は用無しだと思っていたが、思わぬ利用価値が出たものだ。

 と、ゴレインは油断すると吊り上がってしまいそうな口角を、表情筋を固める事でどうにか抑える。

 


 

 ともあれ、鋼太郎を捕まえる事は存外容易く行きそうだ。

 最初こそ規格外な異能に度肝を抜かれはしたものの、すぐに法則性を発見した。

 

 とどのつまり、鋼太郎には異能を発動させる為に踏まなければならない手順があるのだ。

 鋼太郎が何事かを叫ぶと、どこからか音楽が流れる。

 そして異能が発動する。

 

 このカラクリさえ解ってしまえば、いくらでも対処可能だ。

 要するにこの異能は、不意討ちや先制攻撃には圧倒的に不向きであり、知能の低い魔物相手にならまだしも、対人戦を行うには欠陥だらけだという事を見抜いたのだ。

 

 要するに鋼太郎の戦法は初手が全ての、一撃必殺戦法なのだ、と。

 そうと知れてしまえば容易い。

 

 だが鋼太郎にはまだまだ奥の手がありそうだ。

 ゴレインの想像の埒外にあるような異能を使わないという保証も無い以上、さっさと戦闘能力を奪ってしまうに限る。

 

 なので、ここまで隠していた異能『剣の舞』を披露する。

 これで鋼太郎を串刺しにして終わりだ。

 

 なのだが、うっかり鋼太郎の命まで奪ってしまわないよう、刺す場所は慎重に選ばなければならない。

 即死さえさせなければ、回復の異能を持つ闇猿が治療出来る。

 

 全てが完璧だ。

 自分の強さと、優秀な部下が居る事で初めて成り立つ計画だ、とゴレインは確信していた。

 

 

 

 だが惜しむらくは、鋼太郎のチート能力を過小評価し過ぎていた事だろう。

 

 

 

 ギィインッ!

 カァンッ!

 バチュンンッ!

 ギャリィイィンッ!

 ブッピガァンッ!

 

 

 

「……へ?」

 

 ゴレインが間の抜けた声を出す。

 必殺の意志を込めて放たれた小剣12本全てが、鋼太郎の身体を過たず刺し貫いた。

 

 否。刺し貫いた『ハズ』だった。

 なのに……

 

「……何で無キズぅっ!?」

 

 ゴレインの渾身の叫び(怒り2:悲しみ3:絶望5)は、そのまま背後で観戦している闇猿達の叫びでもあった。

 

 今ゴレインが操っている小剣12本には、微弱ながらも強化の異能が付与されている名品だ。

 それにゴレインの異能『剣の舞』の効果を重ねた小剣は、普段なら純度の高い鉄鉱石をまるで溶けかけたバターのようにスパッと斬り裂く程の切れ味を誇る。

 

 それなのに、鋼太郎は無傷だ。

 辺りに小剣が散乱する中で、しっかりと急所をガードしながら、未だ2本の足で立っている。

 

 確かに致命傷は避けるよう、手足を集中して狙いはした。

 だがそれにしても薄皮1枚どころか、着ている黒い服に綻びすら付けられていないのは、さすがに異常と言わざるを得ない。

 

 と、それまで微動だにしなかった鋼太郎に動きが。

 鋼太郎は両腕のガードを解き、憤怒の表情でゴレインを睨み、そして……

 

「いぃってえええぇえっっ!! なぁにしてんだオッサンこらぁっ!? 人をいきなりハリネズミにしようとか、どんな教育受けて生きて来たんだよぉ!? 非常識にも程があんだろうがぁっ!!」

 

 と、とても元気よく喚いてみせましたとさ。

 

「……ひ、非常識なのはそっちだろおおおおおおおおおっ!? もおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 負けじとゴレインも喚き返しましたとさ。

 

 深い深い森の中、2人の男達の絶叫がどこまでも響き渡りましたとさ。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 元気いっぱいに叫んだ鋼太郎であったが、実際のところそれ程までに余裕があるワケではない。

 鋼太郎の目の前、鋼太郎にしか見えない空中の表示された数字には……

 

 2200/5050

 

 とある。

 今の『剣の舞』の一撃だけで、過去最高のダメージを受けてしまったのだ。

 

 もう一撃喰らってしまえば、如何にオリハルコンで守られた身体と云えどひとたまりもないだろう。

 ここで鋼太郎の採るべき選択肢は2つ。

 

 ①精神(スピリット)コマンドを駆使しつつ、防御力の高さを活かして長期戦に持ち込む。

 ②威力の高い必殺武器を繰り出し、ド派手に決める。

 

 精神(スピリット)コマンドの中には、減少した体力を回復させるものがいくつもある。

 それに加え、防御力や回避力を上昇させるものや、相手の命中率を下げるものもある。

 それらを巧みに使えば、勝利は成るだろう。

 

 だが、もしかしたらゴレインに更なる増援を呼ばれる可能性も、決して低くはない。

 モタモタしていると、ゴレイン以上の強者が現れる可能性もあるし、うっかり鋼太郎かあの子供が捕まりでもしたら……

 そう考えると、あまり戦いを長引かせるワケにも行かない。

 

 何より、鋼太郎には一定以上の武器を連続で使用すると、戦闘不能になってしまうという弱点がある。

 

 これこそが非常に厄介であり、鋼太郎にとっては目下、最大の泣き所でもある。

 鋼太郎のよく知るゲームでは、武器の1つ1つに威力・消費エネルギーor弾薬・射程距離等が細かく設定されている。

 

 だが今回、そういう目に見える表示は何も無く、どの武器をどれだけ使えば鋼太郎の体力の限界を超えるのかは、未知数なのだ。

 これから異世界で生きるに辺り、まずはその辺の限界点を手探りで模索し、それらのデータを基にして如何に戦闘中に倒れないかを調べなければならない。

 

 その調査も行っていない段階から、こんな中ボス以上の存在とチマチマ戦ってはいられないのだ。

 

 ならばどうするか、はもう鋼太郎の中では9割方決まっているようなものである。

 ゴレインと闇猿を巻き込んで吹き飛ばすような大技を使用し、隙を突いて逃げるという一撃離脱戦法だ。

 

 先程の男達との戦闘では、範囲内の子供にダメージを与えないようにする為、使う武器を厳選する必要があった。

 だが今回は子供を巻き込む心配は無い。

 目の前のいけ好かない中年を、その後ろに控える謎仮面の集団諸共に吹き飛ばせば良いだけである。

 

 そうと決まれば、鋼太郎は記憶(データベース)の中からあらゆるスーパーロボットの必殺武器を検索する。

 威力が高く、射程距離が長く、多くの敵を巻き込める、ド派手な、防御や回避が困難な武器を。

 

 そして検索の網に掛かった必殺武器を、脳内で鮮明にイメージする。

 その細部に到るまで鮮明なイメージに呼応するかのように、その必殺武器に由来するBGMと、謎のナレーションが鳴り響いた。

 

 

 

 銀河の(サイリウム)が瞬く影で

 ファンのコールが木霊する

 チケット戦争に泣くファンの

 涙背負って宇宙の興業(ライブ)

 銀河偶像(アイドル)ラブライガー!

 お呼びとあらば即、開演!

 

 

 

 それが聴こえた時、ゴレインはすぐに行動を起こしていた。

 念を集中させ、鋼太郎の周囲に散らばった小剣群を『剣の舞』で操り、再度鋼太郎に攻撃を加えんと。

 

 ゴレインの念に呼応し、小剣がフワリと宙に浮く。

 そしてその鋭い切先を一斉に鋼太郎へと向ける。

 後は天に掲げた曲刀を大上段に振り下ろせば、小剣は再び鋼太郎に突進する。

 

 痛いと叫んでいたからには、少なからずダメージは与えているハズだ。

 どんな強力な鎧を着込んでいるのかは知らないが、もはや生け捕りなどと生温い事は言っていては、ゴレインに課せられた本来の任務を達成する事さえ出来ない。

 

 そしてその任務は、絶対に失敗など許されないのだ。

 

 鋼太郎を殺す。子供も殺す。そして『杖』を奪い取る。

 全ては自分が生き延びる為に。

 

「(斬っても刺しても死なないなら、死ぬまで斬ったり刺したりするだけだよ!)」

 

 事ここに到り、ようやくゴレインは甘さを捨て去った。

 が……1歩遅かった。

 

 ゴレインの目にはハッキリと、鋼太郎の姿が視認出来た。

 

 鋼太郎はどこから取り出したのか、背中に大きな筒のような物を2つ背負っていた。

 その巨大な筒は、どこか大砲を思わせた。

 

 そして鋼太郎はその大砲のような筒を、ゴレインに向ける。

 その砲口から漏れ出す光を見た瞬間、ゴレインの背中を凄まじい速さで悪寒が走り抜けた。

 

 ゴレインは念を解き、鋼太郎に背を向け、一目散に逃げ出す。

 そして近くで観戦している闇猿に、あらん限りの大声で警告した。

 

「に、逃げろおおおおおおおおぉおおぉっっ!!」

 

 そんなゴレインの背後から、圧倒的な死が迫っていた。

 

 

 

「ラブライキャノン! シューッ!!」

 

 

 

 そして森に、2条の青白い閃光が迸る。

 

 

 


次回更新は6月10日18時です。

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