俺は黒鉄鋼太郎
なろう初投稿です。
かつて書籍化を果たした作家さんに「異世界×○○は大喜利のようなもの。○○の部分には自分の好きな物を題材にすると長続きする」とのアドバイスを頂いた本作。
一応20話まで書き貯めてあります。
黒鉄鋼太郎は正義感溢れる熱血漢である。
彼は幼い頃からロボットアニメが大好きだった。
悪の軍団と戦う正義の巨大ロボット。
戦いを通して人として成長する主人公。
絶体絶命のピンチから、最強の必殺技で大逆転する無敵のロボット。
怒り、嘆き、悩み、絶望し、それでも戦う事をやめない主人公。
王道ストーリーのレトロなものから、現代向けの明るいストーリーまで、古今東西のロボットアニメが大好きだった。
親に叱られてもテレビに釘付けになり、デパートに行ってはおもちゃコーナーでロボット玩具を買ってと駄々をこね、友達同士でロボットごっこに興じて遊んでいた。
だが幼稚園や小学校低学年ならともかく、やがて成長するに従って他の友達は次々とロボットアニメから卒業して行った。
ある者はモンスターを集めるゲームに熱中し、ある者は所謂萌えアニメへと傾倒し、そしてアニメやゲームからも卒業して、スポーツや勉強に勤しむ者も。
そんな同年代の友達を尻目に、鋼太郎は来る日も来る日もロボットアニメを観賞し続けた。
そして16才になる頃には、鋼太郎はとても優しく、とても明るく、少しだけ暑苦しい熱血少年へと成長していた。
何よりも鋼太郎はとてもお節介焼きだった。
東に重い荷物を持った老婆が居れば、行って荷物を背負ってやり。
西に途方に暮れる迷子が居れば、共に親を探してやり。
南に日本が不馴れな外国人旅行客が居れば、中1レベルの英語と身振り手振りで観光案内をこなし。
北に喧嘩する不良達が居れば、行って仲裁するつもりが変なスイッチが入ってしまい、気づけば不良達を全員ぶちのめし。
物心ついた頃からそんな生活を送る鋼太郎に、御近所の皆さんはやれやれと苦笑いしつつ、それでも暖かく見守っていた。
御近所さんの鋼太郎評は以下の通りである。
「ちょっとおっちょこちょいで喧嘩っ早いけど、素直な良い子だよ」
「来年から中学生になるウチの子の勉強も見てくれてねぇ……ほとんど間違えてたけど(笑)」
「顔は可愛くてタイプなのに、性格が色々と残念なのよねぇ」
「動物に好かれる奴に悪い子は居ないよ」
「こないだ鋼ちゃんが道端に手帳を落としてたんだけどさ、やれ必殺技の構えはこうだとか、スーパーロボット? の必殺技の名前がいくつも書いてあったりだとか、いくつになっても鋼ちゃんは変わらないなぁって思ったよ」
そんないつまでも童心を忘れない鋼太郎を、両親も友達も先生も町の住人も全員が好ましく思っていた。
そしてこの物語の主人公である黒鉄鋼太郎は、今まさに命の危機に瀕していた。
キキキィーッッ! ドォーンッ!
「(あ、れ……俺、何で、倒れ……?)」
「(あっ……確か、学校が、終わって……道路の真ん中に、アイツが居て……)」
「(そんで、車が来て……だから、俺……飛び出して……)」
「(あの子……助かったの、かな……?)」
「(あぁ……指一本動かせ、ないや……身体中、死にそうなくらい、痛いし……)」
「(俺、死ぬ、のかな……?)」
「ごめんよ! ごめんよ鋼ちゃん! 返事してくれよ鋼ちゃぁん!」
「(そっか……俺、八百屋のおじさんのトラックに、ぶつかっちゃったのか……ごめんな、おじさん……俺が急に飛び出したりなんかしたから……)」
「ちょ、おじさんダメだよ! 頭からこんなに血が出てるのに、動かしたらダメだってば!」
「(同級生の吉岡……ごめん、な……お前が止めるのも聞かずに、飛び出して……こんなザマになっちまったよ……)」
「おい救急車まだかよ!? 黒鉄が死んじまうじゃねえかよぉ!! 頼むから早く呼んでくれよおぉっ!!」
「(ははっ……不良の谷口が慌ててらぁ……普段からてめぇブッ殺すとか、死んじまえとか言ってたくせに……)」
「もしもし! 高校生が子供を庇って飛び出して、それでトラックに撥ね飛ばされて……とにかく出血が酷いんです! 早く来てください!」
「(クラス委員長の川村……いつも俺の尻拭いさせちまって……いつか、謝りたかった、のになぁ……)」
「黒鉄! 死ぬんじゃないぞ! 担任として、お前にはまだまだ教えなきゃならない事が沢山あるんだ! だから……畜生ォ!!」
「(山下先生……いつもテストで赤点ばっかりでごめんよ……あんなに必死に勉強教えてくれたのに、馬鹿なまんまで、本当に、ごめん……)」
「やだよぉ……鋼太郎くぅん……ヒック、死んじゃ、やだよぉ……」
「(京子……幼馴染みだからって、色々と甘えっ放しだったな……去年のクリスマスに貰った、手編みのマフラーと手袋……本当はすごく嬉しかったのに……照れ臭くて……ありがとうって、言えなくて……)」
「おにいちゃん……おきてぇ……しんじゃダメだよぉ……ひっ、ひぐっ……ウエエエエエエエエエン!!」
「(あぁ……あの女の子、無事だったのか……良かったぁ……もうイキナリ道路に、飛び出すんじゃ、ない……ぞ……)」
ピーポーピーポー……
遠くで救急車のサイレンが聞こえたような気がした。
だがその頃には、鋼太郎の目にはもう何も映らず、鋼太郎を呼ぶみんなの声も徐々に小さくなり、そして完全に無音の世界へと落ちて行った。
鋼太郎の命の灯は、今まさに消えようとしていた。
「(ごめんな、父さん……ごめんな、母さん……ごめんな、みんな……ごめん……な……)」
「(…………)」
こうして、黒鉄鋼太郎の16年の生は終わりを告げた。
17年蝉よりも短く、あまりにも儚い一生であった。
運命は鋼太郎に厳しく、冷たかった。
だが当人の預かり知らぬ所で、そんな少年の運命を覆そうと企む者が居た。
◇◆◇◆◇
「…………あれ?」
どれくらい眠っていたのだろうか? 大の字に倒れていた鋼太郎は、突然目を覚ます。
上半身を起こしてみるが、先程まで感じていた痛みは綺麗サッパリと消え失せていた。
「あれぇ? 俺、確か八百屋のおじさんのトラックにぶつかって、そんで倒れて、血がドバーッと出て……」
鋼太郎は自身の身体を手探ってみるが、裂傷や打撲痕も無く、学ランにさえ汚れもキズも一切見当たらない。
そして自分の身体に何ら異常が無い事を確認した鋼太郎であったが、ほっと一息ついたところで周りを見渡した瞬間、辺りが異常だらけである事に気づく。
「ここ……どこだ?」
そこは白の世界。
白い天井、白い床、白い壁、白い扉。
そしてその部屋に置かれた家具や調度品も、全て白で統一されていた。
20畳程度の広さの部屋に置かれている白いベッドの上に横たわっていた鋼太郎は、しばらく呆然とする。
「確か俺、学校を出てすぐの所で、道路に飛び出した女の子を助けようとして……そんで、八百屋のおじさんのトラックとぶつかって……」
「……そうだよ。俺、あの時に大怪我して……血もドバーッて出てたハズなのに」
「なのに、怪我も無い……血も出てないし、痛くもないなんて……」
「……ってか、ここはどこなんだ? 病院?」
白い部屋から病院を連想した鋼太郎だが、すぐに違うなと思った。
病院という施設は、どんなに小綺麗にしていてもどこか陰鬱な雰囲気と、消毒薬の匂いが漂っているものだ。
だが、この部屋からはそういった負の空気が一切感じられない。
いつまでもこの部屋で微睡んでいたい、そんな優しげな空気に満ち溢れている。
しかし、だからと言って落ち着いてはいられない。
今の鋼太郎の身に何が起こっているのか、鋼太郎自身が1番に把握していなければならないのに、こんなどこか解らない所で呆けている場合ではない。
何よりも、ここに来るまでの鋼太郎の記憶が確かならば、鋼太郎の事を心配しているであろう級友や担任や幼馴染みや八百屋の店主に、自分の無事を一刻も早く伝えなければならない。
「とりあえずここがどこだか知る必要がある、なっと!」
鋼太郎はベッドから飛び起き、床に揃えられていたスニーカーに足を入れ、そのまま白い扉に向かって歩き、ドアノブに手を掛けようとしたその時。
ガチャッ。
鋼太郎の目の前で扉が開いた。
部屋の外に居た何者かが、鋼太郎よりも先に扉を開けたのだ。
「うおわぁっ!?」
思わず大声をあげて飛び退いた鋼太郎は、無意識にファイティングポーズを取る。
不良達との喧嘩で鍛え上げた我流喧嘩殺法が今、炸裂する!
「……起きていましたか。お加減は如何です?」
が、侵入者は鋼太郎が飛び掛かる前にそう尋ねた。
その鈴の鳴るような優しげで、それでいてやや低音の落ち着いた声が耳に届いた時、臨戦態勢の鋼太郎の精神は落ち着きを取り戻した。
「(……女?)」
鋼太郎は呼吸を整え、改めて目の前に居る声の主を観察する。
そこに居たのは、紛れもなく女だった。
どうしようもなく、これ以上無い程の女だった。
ダークグレーのスーツと、同色のタイトスカート、黒いエナメルのハイヒール、銀縁の四角い眼鏡。
金色の長い髪、陶磁のような白い肌、蠱惑的な紅い唇、そして宝石を思わせる青い瞳。
「(が、外人!?)」
まるでどこかの外資系企業の敏腕社長秘書を思わせるその女性のあまりの美しさと神々しさに、鋼太郎はすっかり面食らってしまっていた。
鋼太郎のシナリオでは、ここで登場するのは葉巻を加えた小柄ででっぷりと太った、趣味の悪いスーツに身を包んだマフィアのボスのような初老の男性と、それを守る数人のボディーガードだったからだ。
その想像もどうかとは思うが。
そんな、鋼太郎の想像を思わぬ形で覆したその女性は、純朴な鋼太郎をドギマギさせてしまう程の色気をムンムンと振り撒いていた。
「クロガネ……コウタローさん、ですね?」
「は、はぁ……」
手に持ったタブレット端末に視線を定めたまま、そう尋ねる金髪キャリアウーマンの問いに、やや間の抜けた返事を返す鋼太郎。
「(日本語話せるのか……助かったぁ……)」
先程まで流暢な日本語を話している事など全く気付かない鋼太郎は、そんな呆けた事を考えていた。
「お身体の具合は如何ですか? どこかに異常を感じたり、熱や痛みのある箇所はありませんか?」
「だ、大丈夫です……お、お陰様で」
尚もタブレット端末から目を離さず、液晶画面に白魚のような細い指を滑らせる金髪キャリアウーマン。
鋼太郎の緊張は更に増し、これから自分がどうなるのかという不安も相まって、喉も口の中もカラカラだ。
すると金髪キャリアウーマンはそれを察したのか、白いテーブルの上に置かれていた高そうなゴブレットに水を注ぎ、鋼太郎に差し出す。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
差し出された水を飲みながら、金髪キャリアウーマンの方をチラチラと盗み見る。
金髪キャリアウーマンも鋼太郎をジッと見つめている。
青く澄んだ大きな瞳で見つめられると、鋼太郎の心臓の鼓動が更に跳ね上がる。
それはまるで自分の動揺や不安、疑念やその他諸々の感情全てを見透かされているような。
そう、まるで霊能力者か超能力者……否、それどころか人間以上の高等生物に射竦められているかのような。
「さて、コウタローさんについてですが……コウタローさんとお呼びしても?」
「は? え、あ、も、勿論構いません!」
「ありがとうございます。では失礼して……コウタローさんの現在置かれている状況と、これからの処遇についてですが……それは場所を移してからお話しさせて頂きますので、お手数ではありますが私に着いて来て頂けますか?」
「は、はい!」
鋼太郎は何故か直立不動で元気良く答える。
強面の体育教師や初老の校長先生に対しても、こんなに緊張した事は無い。
そんな鋼太郎が、何故か目の前の女性に圧倒されているのは、何も特別美人だからというワケではなかった。
「ではこちらへ」
金髪キャリアウーマンはそう促し、開け放たれた部屋の扉から外へ出る。
鋼太郎も慌てて後を追う。
後に鋼太郎は振り返る。
あの部屋を出た時から、自分の運命は猛烈な勢いで転がり始めたのだと。
しかし、今の鋼太郎はそんな事を知る由も無かった。
ただ長い廊下を先導して歩く金髪キャリアウーマンの、タイトスカートに包まれた大きく、形も良く、プリプリと揺れる桃に誘われ、フラフラと付き従っていたからなのだが。
ストックは20話分あるので、20日連続更新します。
次回更新は5月25日18時です。