10話 美女の事情と行方
「サシャちゃんカイゼさん! セーラさんがいないんです!!!!」
協会についた僕たちに青い顔をしたレベッカさんが声をかけてきた。
「セーラさんがいないって寝坊して遅刻したとかじゃなくてですか?」
あのセーラさんが寝坊するっていうのはなんだか想像しにくいが、一番あるのは寝坊だと思う。あとは・・・化粧がーとか服がーとかそうゆう感じだろう。
「違うんです、昨日実家のほうにもシスターに割り当てられる部屋にも帰ってないんです。」
ここで僕はふと疑問に思う。ここでセーラさんがいない、と言われるということは今日はシフトって言っていいのか、お勤めがあるわけだ。そして一昨日は教会にいた。そしてレベッカさんが言っていた昨日実家にも帰っていない。このデビュットの領主の領地は非常に小さく、試練場を管理するためにある町と言っていた。城壁のある街もここしかなく、あとは数十人が住んでいる小さな村が数個あるだけだ。
その村も領地が小さいとはいえ、日が落ちてから寝る時間を確保したうえで往復できる距離ではない。何よりセーラさんのような美女が日の暮れた街の外に出られるはずがない。出られるとしても護衛を雇う。護衛を雇ったのであれば冒険者組合のほうに話を持って行くはずだ。それなのに僕たちに話すということはセーラさんの実家も、シスター用の宿舎もこの町にあるということになる。
なぜセーラさんは実家暮らしをしないのか、シスターは宿舎で寝泊まりしなければならないという規則があるなら仕方がないが、実家にも帰っていない、ということはそういう規則は無いということ。ではなぜ宿舎で生活をしているのか、それとあの物腰と丁寧でしっかりとした礼儀作法、シスターは全員礼儀作法を習うのなら何も違和感がないが、セーラさんとデートしたときも礼儀作法が崩れることなく、まるでそう育ってきたかのような感じだった。
考えられるの可能性はそう多くないだろう。いや、ほぼ確定といっていい。なぜセーラさんのような美女がシスターなぞ、なぞというのはあれだがセーラさんは見た感じ20歳前後だ、こっちの世界であれば結婚していてもおかしくはない年齢だ。あれほどの美女なら引く手数多だろう。
例えば、セーラさんが結婚はしていたが旦那が冒険者などの危険な職業に就いていたとして、運悪く死んでしまった。でも再婚する気はさらさらなく結婚しなくてもいい聖職者になった。それならまだあり得る。だけどデートした日の終わりごろ、セーラさんは疲れていて僕に肩を貸してもらうような形になっていた。そのあと教会に着いたときにすごく恥ずかしそうにしていた。
そう、ただ肩を貸してもらっただけで、だ。地球ではあれくらいの年齢だったら複数人と関係があってもおかしくなく、異性とべたべたしてもあそこまで恥ずかしがる人はいない。しかも結婚という道を通っているならなお恥ずかしがるとは思えない。だから結婚はしていない、そして経験もない。そして聖職者なのだから彼氏がいて彼氏の家に行っていた、ということもあり得ない。
ならなぜ帰ってこないのか、十中八九セーラさんとその親族の役所やセーラさん自身を狙った誘拐。
ここまで考えていた間にサシャはレベッカさんからいろいろと聞き出していた。その中に彼氏どうこうという話もあり、それをレベッカさんは否定していた。誘拐、それで確定だ。
ここで問題になるのは、この国が王政で貴族もいるということ、そしてセーラさんがどの程度の家の血筋なのかだ、もしかしたら、いやほぼ確実に大事になる。
そして、日本では聞きなれない音がしてきた。
タタタッ タタタッ タタタッ
とリズムのいい音が複数聞こえる。
僕は教会の入り口の方に振り替える。
そこにいたのは茶色く首の長い四足獣で太古から人間が移動用の足として頼っていた生物、そう、馬だ。その馬は何やら少し派手な前掛け、と言っていいのかわからないが馬用の服を着ている。その上に跨っていたのは2人の鎧を来た人物と、存在感のある40代半ばの男だ。
ほぼ確定だったのが確定になった。街中は人が所狭しと大量にいるために馬を所持している者は荷馬車がない限り降りて馬を引く、それはそうだ、馬に蹴られたら人など簡単に死んでしまう。なのに馬に乗ってきた。ということはそれが許される地位にある人物ということだ、貴族は貴族でもこの町に限っていえば、頂点にいる人物だろう。
「セーラは、私の娘は無事なのか!?」
そう言いながら鎧を着ていない人物が僕とサシャを押しのけレベッカの肩に掴みかかる。
「わ、わかりません!」
「わからないとはなんだ! 私の、領主の娘だぞ!」
そうセーラさんは領主のご息女だ、セーラさんはからもサシャからも聞いてはいなかったが、二人が知り合ったのが学校だと聞いたときからサシャの知り合いが貴族だというのはうすうす気づいていた。
「落ち着いてください、怒鳴っても知らない情報は聞き出せませんよ、それよりも最後に見かけたのがいつだったのか、その時にセーラさんに周りにどういう人がいたのかを調べるほうが先決です」
僕はセーラさんの父親とレベッカさんの間に割って入るようにしながらなだめる言葉をかける。
レベッカさんに迫っていたとき以上の剣幕で睨んでくるが、正直そんなものでひるむほど僕は神経が細くはない。
「お前は誰だ!」
「僕はカイゼ、セーラさんの友人、でしょうね」
ここで曖昧な言い方をしたのは、初めてセーラさんに会ったときに何だか距離を感じたからだ、サシャ
は友人と言い切っていた、からそれなりに親しいのだろう、言っては悪いがその親しい友人に紹介された人にする対応とは思えない、言ってしまえばその紹介された人に失礼だ、だけどここは日本のように治安がいい場所ではない、警戒するのは最もだし、あまり気にしてはいなかったが、あのデートが終わってからその距離はそこまで感じられなくなった。
だけどしっかりとした確信がなかったため僕はあいまいな言い方をした。
「お前が? 見たところ男のようだが、それなのにセーラの友人とはふざけたことを」
「何もふざけてませんよ?」
「嘘を言うな! よもやお前がセーラに何かしたのだろう!!!」
「はぁ?」
こいつは、何を言ってるんだ
「俺が。 俺が誰に何をしたって? 知りもしねえのに下らねえことほざくなよ」
「!!!」
俺は自分の中で何かが切れる感覚を味わいながら、口を開く。
ここまで口が悪くなるのは優香がしつこいナンパで泣きそうになった時以来だ。
ガラッ ガラガラッ
ピシッ パリーン
自分でもわかるほど、冷たい感覚が体から流れ出るのを自覚している。これが何なのかは正直わからないが。ただの殺気というわけではないのは音を立てて、すべて同時に割れた協会の木製の椅子とステンドグラスを見ればわかるだろう。
俺は視界が白黒になりながらも、大量の汗を流しながら後ずさろうとして尻餅を突こうとした目の前の男と、倒れて動かなくなった鎧の男達を見ていた。
「かっ、 ハイゼ、 落ち着いて」
消えそうなほどかすれた声で俺にかけられる女性の声で
「・・・ああ、ごめん。」
僕は謝りながら、僕の足をすがるように掴んでいるサシャに視線を向ける。
「ひっ!」
サシャを立たせようと手を差し出すが、それを見てサシャが悲鳴を上げる。馴れ馴れしすぎるほど距離の近かったサシャが怯えていた。サシャの下が黄色くなっていたが僕は気にせずに床に座り、怯えるサシャを優しく抱きしめながら口を開く。
「ごめん、サシャ 怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ何も知らないのに女の子に危害を加えたのを僕だなんて決めつけられて頭に来ただけだから。 女の子のサシャには何もしないよ。ごめんね」
汗が冷たく凍った服の上から優しく背中に手をまわし、もう一方の手で頭をなでる。
震えるサシャが落ち着くまで何度もごめんと声をかけながら。
それから少しして落ち着いたサシャに布をかける。さすがに少女が尿濡れになってるところを放置はできない。
・・・何かを忘れてる気がする
・・・はっ! そうだ! レベッカさん! レベッカさんはサシャと同じように漏らしてしまっており、さらに気絶をしたのか床にあおむけで倒れていた・・・ふむ普通くらいかと思ったらなかなか凹凸のしっかりした体してるな。修道服は体系がわかりにくいね。
なんて馬鹿なことを考えていないでレベッカさんにも布を出して、くるんでから壊れた椅子にもたれかけさせる。
教会の状態はひどい物だった。ステンドグラスはすべて割れ、椅子は粉々になり、柱などにもひびが入っていた・・・これ修理費僕持ちだよね
「おっ お前は何者だ!」
げてものだー じゃなくて一気に10歳老け込んだかのような、やつれたような男が声をかけてきた。
「なにもの? 門番から何か聞いてませんか?」
そう言いながら僕は身分証を見せる。
「ソード、カイザー。 申し訳ありません。先ほどは何も知らず無礼な口をききました」
もともと顔色の悪かった男はさらに顔を青くしながら先ほどの態度が嘘のような丁寧な口調で頭を下げた。腰が抜けたのか座ったまま、というか土下座のようになっていた
この時教会の周辺で集団失神事件が起きていたが今はそこまで重要なことじゃない
いや大事だけど、言ってしまえば失神しただけだ。
それから警備部隊が駆け付けるまで少し待ってから事情を聴くことになった。
セーラさんは僕の予想道理このデビュットのある領地の領主の長女だった。聖職者になったのは小さいころに身代金目的の誘拐にあい、その時に性的虐待?も受けそうになったため男性に対しての恐怖心が根強くあったのだそうだ。
その男性恐怖症を直すために、心を鬼にして王都学術院に送り出したのだという。そこで3年間生活をして4年前の15歳の時にこちらに戻ってきたのだという。サシャと仲良くなったのは最後の年の1年でだという。
領地に戻ってきたセーラさんは15歳になったため、成人として扱われ大量のお見合い話が来たそうだが、半分ほどは変態貴族の当主からだったのだそうだ。当主であっても10代後半から20代前半ならよかったのだが最高齢の相手は63歳だったそうだ。
普通なら当主といえど60代の人物が10代の成人なりたての相手に婚姻を申し込むなどあり得ないが、この領主の立ち位置がそれを行わせたのだろう。この国の貴族の位は8つ、上から公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵だ。公爵は実質王家の分家しかいないため、貴族としての最高位は侯爵だ、そしてここの領主は伯爵、高位の爵位を持っているが、領地の大きさ的に見たら男爵、よくても子爵だ。
純男爵、騎士爵は領地の持っていない貴族に与えられる爵位
しかし、そうではなく伯爵という高い地位にいるのは試練場の存在が大きいからなのだそう。もともとは侯爵にしてはという話だったのだが、領地があまりに小さいため反感が大き、く辺境伯も同様に領地が小さいため却下、渋々伯爵になったのだそう。そのため地位は高いが実際の権力は伯爵以下、子爵以上、といったところなのだそうだ
そのため若く、美しく、男好きのする体をしていたセーラさんを無理やり権力で自分の嫁にしようとするやからが多かったために、セーラさんは聖職者になったのだそうだ。
その時の怯えようはひどく、伯爵が大々的にセーラさんが好きになった相手が出てきた場合のみ、聖職者をやめ、相手が平民であろうとその人物に嫁がせると報じたのだそうだ。これは神託があってからは国王もその意見に賛同し、保護を行っているんだそうだ。
できれば力のある才能者をセーラさんが好きになり、その才能者をこの国に縛り付けられたらいいな、という裏だそうだが。
この力のある才能者が到達者のとこをさしておりそれに僕は気付かず、その到達者が目の前にいるということは領主も想像していなかったが
今回の事件はほぼ間違いなく他の貴族の仕業で一番あり得るのは隣の領主だそうだ。
領地も隣だし何の心配も無い、とセーラさんとの婚約を非常にしつこく迫って来ていたらしい。
いや大事だけど、言ってしまえば失神しただけだ。
この文の後をどう続けるかに5日も費やしてしまいました。
書いてみればたった千文字なのになんでこんなに悩んでたんだろ
あとカイゼが激おこになったところ、穏便に済ますかどうかですごく悩んで、激おこにした理由考えていたんですが忘れてしまったので、大した理由じゃなかった気がします。
ただ激おこにしたほうが今後の流れ的に、あとフラグになるっていう理由だった気がします