7話 勝敗と剣
「おいお前!ちょっと顔がいいからってアイシャちゃんに絡んでんじゃねえよ!!」
アイシャちゃんの初心な姿を堪能していた僕に声をかけてきたのは20代くらいの大柄な男だった。
「絡んでないよ、この子が初心で可愛いからいじりたくなっただけ」
「それを絡んでるっていうんだ!!」
「か、かわいぃ・・・///」
何を言ってるんだ?この人って感じでつげた僕にこの人はやはり絡んでると言い張ってくる。
アイシャちゃん?恥ずかしそうに顔を伏せてます。あとサシャはため息をつきながらおでこを抑えながらやれやれって感じで頭を振っている。
「そっか、じゃあアイシャちゃんごめんね?この人が起こってるみたいだから僕は帰るけどまた来るから、またお話しよ?」
アイシャちゃんの頭をなでながら帰る、と告げる。
だがこの頭をなでるのはしないほうがよかったようだ。アイシャちゃんは気持ちよさそうにうっとりと目を細めながら僕を見上げていた。それを見てさっきのアイシャちゃんスキーの男が怒らないはずがない。
「っ!! おっお前!決闘だ! 俺が買ったらこれから一切アイシャちゃんに近づくな!!」
「・・・は? 君はこの子の彼氏さんかな? 見た感じ違うよね?それなのになんで君がそこまで決めるのかな?そういうの余計なお世話って言うんだよ?」
「うっうるさい とにかく決闘だ!!」
めんどくさいことになった。一言多かったようだ、アイシャちゃん以外の受付嬢にいいの?と視線を向けたらしぶしぶといった感じで頷いていた。
「いいんじゃない? ここで実力示しておいた方が面倒ごと起こらないかも、逆効果かもしれないけど」
「表へ出ろ!そこで決闘だ!」
「表?裏に訓練場あるでしょ」
「いいから表だ!!」
あー、表は大通りだ、今は昼前ってことも昼食のためや昼食に出歩いている人が多いだろう。その公衆の面前で僕を叩きのめしたいと、でもそれで僕が勝ったとしてもうまみが少ない、それに勝敗が決まった後に逃げられたり逆に侮られたりしかねない。それも可能性もつぶしておくか
「わかった、それで?僕が買ったら君は何をだすんだ? 君が負けたときのデメリットが無かったら君は負けたときに、負けても俺の腹は痛まないだから負けてやった、なんて言いかねないよね?」
「そそ、そんなこと言うわけないだろ!」
あー 図星か、勝っても負けてもいいように言いださなかった、か
「そんなことは怒らないとは思うけど、そんな保証どこにもないよね? その代わり僕もこの剣、ゴブリンナイトからドロップしたユニークの剣を負けたら追加で出すよ。僕が負けて、君だけが大事なものをかけてた場合、可哀そうだから負けてあげた、なんていい訳は僕も出来ないようにするからさ?
「ぐっ」
「アイシャちゃんへの接触とこのレアドロップの剣、これだけかけたのに逃げるとか、何も掛けないなんてことは無いよね? 決闘を言い出したのは君なんだし、ねぇ」
「わ、わかった。この俺の愛剣を出す。」
そう言って自分の腰にかかってる剣を指さす。よし、あとは
「じゃあブレッドさん、少しの間アイシャちゃん借りてもいいですか? 賭けの景品、っていうのは言い方があれですが、その景品がその場に無かったら盛り下がりますし」
騒ぎを聞きつけて顔を見せてた支部長のブレッドさんにも声をかける。
「そう・・・ですね、いいでしょう。 では少し待っていていただけますか? 私がいない場合の代理の方に話してきます。 受付の皆さんも事務の皆さんも見に行きたい人は見に言って構いませんよ さほど長くもならないでしょうし」
お!ブレッドさん太っ腹、正直ブレッドさんがいればよかったんだけど、他の人も来るのか、負けたら恥ずかしいだろうな、まあ負けるつもりはないけど。
そして僕たちは大通りに出た、組合からわらわらと、人がそれも受付嬢や支部長が出てきてその視線の先に何やら真剣な雰囲気の男2人がいるため、何事か!と人だかりができる。
「は、始めるか」
予想以上の大事になって、こいつ何者だ!ここまで大事にする気はなかったのに、そんな表情で告げるアイシャちゃんスキー
「ほら、剣抜いて構えろよ、俺はいつでもいいぜ?」
そう・・・そう自信満々な表情に戻りながら構えるアイシャちゃんスキーを見て僕は一気にやる気が失せた、なぜって?だって見た感じ両手に豆の痕があるのに右手だけ、片手で剣を握って構えているのだから。それにかっこつけた構え、実践向きではない剣先を敵に向けて肩の上かに剣を持ってきて水平にしている。わかりやすく言うとF●teの佐々木小次郎の構えの片手版、そんな感じだ。
極めつけはかっこつけた俺どう?などといった感じでチラチラアイシャちゃんに視線を向けているのもある。アイシャちゃんは心配そうに僕を見てるけど、あ怒った
「さっさと構えろ!」
「はぁ、いやもういいかなって、構える必要ないじゃん、そんなフザケタ構え取ってて、しかもよそ見をするような人にわざわざ剣抜く意味もないよ」
「くそっ! 舐めるな!!」
冷静さを欠いた状態で切りかかってくるアイシャちゃんスキー、片手ので剣を持ったままで、慣れない構えだったために剣筋はブレブレだ、はぁ・・・僕は左に避け、振り下ろされた剣と手を左手で追うようにして掴む、そして後ろに引いてつんのめってバランスを崩したタイミングであご先に空いた右手で軽く殴りつける。
「あ、が・・・」
たったそれだけでアイシャちゃんスキーは崩れ落ちるように倒れる。僕が今やったのはたまにボクシングの試合などで見る、顎に当て脳震盪を起こさる殴り方だ。
「すごい・・・」
アイシャちゃんが褒めてくれているが大した技術じゃない。いや脳震盪を起こさせるのは少しコツがいるのだが、それを簡単に決められたのはこの男が弱く、その上頭に血が上っていて、自分の実力も弁えずにかっこつけた不慣れな構えをしたからだ。
落ちていた剣を拾い上げて、気付く、一応軽く振ってみて確認をする。やっぱりこの剣鍛造じゃない鋳造だ。
「おめでとう、といっていいのかわからないけど、まあおめでと、それでどうしたの?」
渋い顔をしながらため息を吐いていた僕にサシャが声をかけてくる。
「この剣ね、鍛造の剣じゃないんだよ、鋳造の安物の剣、命を懸ける相棒で愛剣なんて言ってたから期待したけど期待外れもいいところ、というか期待外れって言葉すら使えないくらい酷い、見てこの刀身、曇ってて表面がざらざら、それにここ、うっすらとだけどひびが入ってる。こんなのを実戦に使うくらいならそこらへんに落ちてる堅めの木の枝でも使ったほうがまだまし」
それから僕はこの男のひどかった部分を上げていく、構え、剣筋、足運び、視線でどこを攻撃するのかバレバレなところなど、上げていったらキリがない。
「自分の武器は命を懸けるものなのにこんなずさんな手入れ、中途半端な手入れをするくらいなら手入れせずに鈍器として使ったほうが何倍もいい」
「すごいわね・・・そこまで見てるなんて」
「は? 何言ってんの?どれも対人戦闘での初歩中の初歩だよ」
そう剣筋、足運びなどは経験などで培うしかないがそれ以外の特に武器の手入れに関しては、ゲーム時代だと操作方法など基本事項の次に教わることだった。
「そう・・・ それだけ知ってるのに何で剣使わなかったの?」
「こいつの構えを見た瞬間からやる気がなくなっちゃってね、それに剣道っていう武術やってたけどそれはだいぶ昔の話だし、素手での刃物を持ってる相手のあしらい方も勉強してたからね、本気じゃないけど、本気だった、少し矛盾してるけどそんなところかな」
「そお・・・で、その剣どうするの?」
「ん? いらないよこんなの、ただ荷物がかさばるだけのゴミと一緒だもん、はい返すよ愛剣なんでしょ?」
なぜか僕は苛立ちを隠すことが出来なかった。そのため愛剣のところに皮肉を込めて男の隣に投げ捨てる。
この会話が始まる前にギルドの職員のブレッドさんと受付嬢以外は戻っていった。冒険者や通行人の一部の人は僕が言ったこの男のダメ出しに同意するように頷きながら聞いていた。
「カイゼさん、いいものを見せていただきました。あなたの後ろ盾になるというお話、正直厄介事としか思っていませんでしたが、前向きに考えられそうです」
「厄介事・・・まあよろしく」
僕はブレッドさんにセリフに苦い顔をしながら返事をした。
「カイゼさんかっこよかったです!」
アイシャちゃんの言葉に同意するように他の受付嬢も笑顔や手を振っている。アイシャちゃん興奮してるみたいで目がキラキラしてる・・・サシャが推薦って言ってた時は大人ぶった感じで対応してたのに、背伸び忘れちゃったのかな? かわいい
僕とサシャはだいぶ時間がたったのにまだ脳震盪で動けないふりをしている馬鹿に軽蔑の視線を向けながらこの場を後にした。
今回の後半でわかったと思いますがアイシャはカイゼに恋愛感情ではなく憧れの感情を向け始めます。
なのでヒロインにはならないかな?
カイゼも可愛いを連呼してるけど大人が無邪気な小さい子に恋愛感情を抱かないのと同じ状態だと思ってください。