第三話 ーれんこうー
「しかし……ここは一体何処なのだろうか」
ようやく己のカラドショックから抜けて、辺りを見回す。路地裏、だろうからか辺りに人影はない。
「仕方ない、とりあえず人を探そう。自分の姿も気になるが、まずは何が起きているかの把握だ」
そう思いつつ少し歩き、路地裏を抜けると、目に飛び込んできたのは、神々しいくらいに輝く街であった。
「なぁっ……」
どのくらいそうやって立ち尽くしていただろうか。衣服が乱れ、全身…特に下半身が傷だらけな男が、何もせずにただ立っているだけなのを不審に感じたのか、周りの人間が奇異なものを見る目をこちらに向けてくる。
「なにあれ」
「ちょっとヤバくない?」
「ママーなにあの人」
「見ちゃダメよ!さぁ行きましょう」
薄々勘づいてはいたが、ここは我がロシアでは無いらしい。いつもなら女は、近づくだけで黄色い悲鳴が湧き出るというのに、あろう事か避けられさえするとは。
もっと本能に素直になろうぜ。
と、考えに耽っていると、なぁそこの君、と何やら見慣れない青い軍服のような服を着た男が一名、声をかけてきた。
「大丈夫かい?通報が有って来たんだけど、何かあった?」
その声音は酷く優しい。……先程から思っていたのだが、何故言葉が通じるのだろう。ここの人間達の言葉は明らかにロシア語では無い。が、意味は通じるようだ。この際、深いことはあまり気にしないようにする。
……改めて目の前の男を観察する。こちらを見る目は声と同じく優しい、というか同情的な目だ。薄く微笑みこちらを安心させようといているようにも見える。なにかこの身が、どうかしたのだろうか。そう思いつつ自分の体に目を向ける。
数秒間経って。あぁ成程そういうことか。男の態度ももっともだろう。明らかに体はそういうことの後で、しかも自分は男であるのだから。
「あっ……ごめんね、今は何も考えられないと思うけど、少し署まで付いてきてもらえるかな?」
何も返答しないのを、自失呆然としているのと勘違いしたのだろう男は、丁寧な対応をしつつ私を「ショ」というところへ連れていこうとする。
最初の通報という言葉や軍服らしき服から見てこの男は軍、またはそれに準ずる機関のものだろう。例え後に私の敵になる可能性はあるとしても他に当てがあるわけでもないのでここは大人しくついて行った方が得策な筈であるし、まずは情報が欲しい。そう考えた私は頷き、男の後を付いていった。
続く。