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60 神魔決戦 ③




 シャロンお嬢様と私に“何か”が繋がれたように感じました。

 お嬢様の鼓動や想いが伝わって参ります。私の想いもお嬢様に届いていますか?

 全身を覆っていた殻から解き放たれたような開放感……。これが、【主様】が仰っていらした事なのですか?

 私は自分が“何者”なのか、ようやく理解した。

 心が軽い。内側から力が溢れ出てくる。

 そして……自分が“何者(・・)”と成った(・・・)かを、私は本当の意味で理解した。


   ***


「……少し力を入れすぎたかしら?」


 眼下に広がる王都の夜景。真下では教会を含めた一帯が円形に更地へと変わり、十数体の巨大な竜が死に横たわる。王都では数カ所から火の手が上がり、人間どもが悲鳴をあげて逃げ惑っていた。

 人間ども……か。少し前まで私も人間だったのに、自分の認識の変わりように少しだけ苦笑してしまう。

 今の私にはそれだけの“力”が有る。女神の――古き龍神の力を我が物とした私は、この世界の本当の【女神】になった。

 その証拠に、あれだけ敵対することを畏れていたあのメイドさえも、私の力一つで、ズタボロになって吹き飛んでいった。

 殺すつもりだったけど、おそらくはまだ生きているでしょう。だって彼女は……


 天変地異さえ起こす大精霊にさえ匹敵する上位悪魔――【大悪魔(アークデーモン)】。


 地球での現代の記憶を持つ私としても、そんな非常識な存在が本当に居るとは思えなかった。何しろ普段の彼女は、多少非常識な力を持っていても、普通の人間と何ら変わらなかったのだから。

 あれが悪魔の擬態だったのでしょうか。上等な悪魔は人間の中に潜み、人に悪意を吹き込むというのだから、表面では主を気遣っていても内では何を考えているのか分かったものではないわ。

 そういった意味ではシャロンも被害者なのかしら? 彼女もゲームよりか素直な人だったけど、悪役令嬢なのだから何か企んでいてもおかしくない。

 ある意味、『悪役令嬢』と『悪魔のメイドさん』なんて、とってもお似合いね。


「さて……」


 生き残った数体の竜はバラバラに逃げていったが、傷が癒えればまた私を狙ってくるでしょう。

 あの悪魔のメイドもここで逃がすのは危険だ。私に危害を与えられる可能性のある輩は、絶対に生かしておけない。あのメイドは危険度で言えば複数の竜よりも数段厄介なのだから。

 でもそれは、あの元女神を嵌めたような小賢しい手を使われた場合で、まともに戦えば【龍神】の力を全て使える私が負ける訳がないのは、先ほどの戦いでも明白だ。

 隠れられたら厄介。ならば悪魔の契約者であろう悪役令嬢シャロンを直接狙えば、例え心が拒んでも契約上出てこざるを得なくなる。

 あの悪魔が吹き飛んだのは魔術学院の方角か。もしかしたらまだあそこにシャロンが残っているかも知れない。

 この【箱庭世界】の中なら私はどこでも見ることが出来る。お父様やお母様が苦しみながら焼け死ぬのは滑稽だったわ。

 ――居た。シャロンはまだ学院内に居る。でも……少しおかしいわね。まるで蜘蛛の巣でも張ったみたいに見えにくい……。

 その時、私はその“蜘蛛の巣”と言う単語にあの悪魔を思い出して、少しだけ違和感を感じた。


「……まあいいわ。とりあえずさよならシャロン様。特に恨みも無いけどね」


 学院のほうへ手の平を向けて光の砲撃を行おうとしたその時――何か衝撃波のようなものが、私の障壁に弾かれた。

「あら……エリアス様?」

 少しだけ苛つくのを押さえて視線だけを向けると、白い鎧を纏った聖騎士エリアスが私のほうへ剣を向けていた。

「新たな【女神】へ不敬ですよ」

「……私には女神の断末魔が聞こえた。あれは女神ではなかったかも知れないが、私がアレに救われたのも事実だ」

「あら、あんな愚か者の為に敵討ち?」

「……いや、そんな気持ちはない。だが、アレが作った偽りの平和でも、人々の平穏を乱す者は、この聖騎士エリアスが討つっ!」

「……あ、そう」

 苛つく。やっぱりあの元女神が残した物は私を苛立たせる。

 攻略対象者は生かしておこうかと思っていたけれど、元女神の匂いがする物は全部消し去ってやる。


「消えろ」


 エリアスが居た地面がクレーター状に吹き飛ぶ。その土煙の中を、障壁を張ったエリアスが突きつけ、爆風さえも利用して空中に居る私に斬りつけてきた。

 さすがは最強の【聖騎士】。一般的なゲームで言えば【勇者】に相当するのかな? でも……

「残念だったわね」

 爆風で傷つきながら攻撃したのに、その剣は私の光の障壁で弾かれていた。地に落ちていくエリアスが体勢を整える前に光の槍を撃ち出すと、その横から何かが飛んできてエリアスを光の槍から回避させた。


『聖騎士よ、我が汝を空へ誘おうっ』

「君は……」

『よそ見をするなっ、行くぞっ!』

「おうっ!!」


 あのうろちょろしていた緑色の子竜ね。あの小ささで鎧騎士を抱えて飛べるとは驚いたわ。

 でもそんな速度で何をするつもりなの? そんな攻撃力でどうするつもりなの? とてもではないけどあなた達には無理よ。あの悪魔のほうがまだマシね。

「くっ!」

『ぐあっ』

 私の広域衝撃波で簡単に吹き飛んでいく。人間や子竜程度の耐久力では、まともな戦いにさえならない。


「……っ!?」


 不意に悪寒のようなものを感じて、私は追撃の手を止める。

 ……何かが居る。何かが来ている。それを探すように目を凝らした先――ボロボロで宙に浮かんでいる聖騎士と子竜の後ろに、蒼白い影が浮かんでいる。

 あの悪魔のメイド――フルーレティだ。


『お、お前っ』

「フルーレティ嬢っ!? そのお怪我はっ」

 あいつらが驚いて振り返ると、薄く笑った悪魔メイドは、片手であいつらを掴んで振り回し始めた。

「こちらはお任せ下さい。お二人は避難して下さいましね」

「えっ!? ちょ、」

『ま、待てぇえええええっ!』

「ほらさっ」

 振り回されて投げ飛ばされた聖騎士と子竜が、悲鳴をあげて遠くに投げ飛ばされていった。……あれ、普通の人間だったら確実に死ぬわよ?

 そんな奇妙な光景に、私は攻撃を掛けはしなかった。攻撃することを何故か躊躇ってしまった。


「お待たせしました、クラリス様」

 邪魔者を遠くに投げ飛ばした悪魔メイドが私に向き直りまた薄く笑う。

 ……なに? 何かがおかしい。

 肌の色が人間に戻っているのは聖騎士がいたからだとしても、その青白い肌は病人と言うよりもまるで死人のようで、纏っていた悪魔の障気さえ消えていた。

 メイド服は風化したようにボロボロのままで、千切れた左側の腕と脚が、それをした私でさえ痛々しく見えた。

 ……なに…これ? そんな戦えるとは思えないような姿なのに、私は自分から攻撃することを躊躇っている。

「……あなた、……“なに”?」

「私でございますか……?」

 その瞬間、違和感が酷くなった。


 ピシィッ!

 その蒼白い肌に亀裂が走り、パラパラと罅割れるように落ちていき、風化したメイド服も腐るように崩れていった。

 ズシュッ!

 手足の千切れた断面から体液を撒き散らすように黒い蜘蛛の脚が飛び出すと、グチャグチャと形を変え、人間の手足のような形状へと変わっていく。

 ズチャッ!

 背中を突き破るように八本の黒い蜘蛛の脚が生え、ギチギチと硬質な黒い光沢を帯びていった。


 何が起きているの? あれは、“何”に成ろうとしているの?


 剥がれ落ちた皮膚の下から輝くような白い肌が表れ、スラリとした手足が伸びると、腐り落ちたメイド服の代わりに硬質な黒い蜘蛛の脚が、彼女の全身を覆っていった。

 それは黒一色のメイド服。

 それは細かな装甲で構成された、メイド服を模したスケイル鎧。

 輝くような黒髪を靡かせ、黒目と白目を血のように真っ赤に染め上げた瞳を私へ向けると、彼女はシャララと音がする鎧のスカートを指でつまみ、口の端を耳元まで吊り上げた“悪魔の笑み”を浮かべた。


「……あり得ない……」

 私は唐突に理解した。あり得ない。でも私の中にある【龍神】の知識がそうだと言っている。

 私が感じているのは、『(おそ)れ』だ。

 悪魔に感じる“畏れ”は、悪魔の受動技能効果(パツシブスキル)だ。でもそれは悪魔と同等の力があれば回避出来る。だから【女神】である私は彼女を畏れていなかった。

 その私が畏れを感じている……。私の中の知識が『それ』の正体を知っている。

 あれは……


「……悪魔の中の悪魔……神の反逆者――【悪魔公(デモンロード)】――」


 様々な次元で様々な世界で、神を名乗る者達が滅ぼされ、喰い散らかしていった伝説上の存在。その禍々しい気配に月夜の闇が暗がりを増した気がした……。

 どうしてそんなモノが存在する? どうしてそんな存在がここに在る!?


 その存在から白い靄のような物が溢れると、それは白い糸になって辺りへ飛び散り、……教会のあった地下墓所から、豪華な衣装を纏う過去の偉人達が骨のままで立ち上がり、辺りの瓦礫から潰れた死体達が這いずりだし、焼け焦げた竜達が操り人形のように滑稽に歩み出て、悪魔の背後で敬うように頭を垂れた。


「あらためて、はじめまして(・・・・・・)

 悪魔の声が私の耳にこびり付く。


「――黄金の聖魔軍・悪魔中将フルーレティにございます――」




メイドさん、新おこモードです。

連載開始時からずっとこのシーンを書きたかったのです。


次回は更新も中身も通常通りに戻ります。女神戦の④


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― 新着の感想 ―
盛り上がってきたあああああぁぁぁぁぁぁっ!! パッシブスキルが通ってるという事はレティのが格上なのかな? そしてそんな彼女が「中将」とか言ってる絶望よ。
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